『評伝 ヴェルディ 第1部 あの愛を…… 第2部 偉大な老人』について

私が初めて買ったヴェルディのオペラのレコードは、マゼール指揮の『椿姫(トラヴィアータ)』だった。『椿姫』はC・クライバー盤やセラフィン盤も購入し、どのレコードも楽しめた。また『トロヴァトーレ』はジュリーニ盤とセラフィン盤を購入し、こちらも両方楽しめた。この2つのオペラは、途切れることなく親しみやすい旋律が続くので、筋がわからなくとも管弦楽曲を聴くように聴けたが、『リゴレット』『アイーダ』『仮面舞踏会』『シモン・ボッカネグラ』はそういうわけには行かなかった。やはり筋がわからないと楽しめないと思った私は、それ以後は、オペラはまず日本語字幕があるDVDを見て、物語を理解してから、アリアや合唱曲を少しずつ覚えていこうと思った。この方法で、R・シュトラウス『ばらの騎士』(カラヤン)、モーツァルト『後宮からの誘拐』(ベーム)は楽しんだが、ヴェルディのオペラで何かいいものはないかと思っていたところ、この評伝が目に入り、早速購入した。この本を読むと、ヴェルディのオペラの手引書になるだけでなく、ヴェルディの生涯、19世紀のイタリア史についても詳しく述べられている充実した内容の図書であることがわかった。
ヴェルディはワーグナーと同じ年1813年にブッセートに生まれた。ミラノに近く、ヴェルディが若い頃の音楽活動はミラノが中心だった。早くから音楽が自分の天職と考えたヴェルディは音楽活動に励んだが、なかなか世に認められることなく、妻とふたりの子供を病気で失い、ようやく28歳の頃に作曲した3曲目のオペラ『ナブッコ』で世に認められることになった。それからはオペラ界がロッシーニ、ドニゼッティの後継者を待ち望んでいたということもあり、一気に世界を舞台にする作曲家となり、経済的にも豊かになって行った。生活に余裕ができると故郷に大きな土地を購入し、農場を経営し始めた。この本によると自身で畑を開墾するということもあったようである。そうしたベルディが新作のオペラを作る度に新しい樹木を庭に植え大切に育てたと書かれてあるのを読むと、心優しい、人当たりの良い人だったのかなと思うが、実際は台本作家や演奏家に厳しい要求をする人だったようである。特に台本作家に対しては極限まで無駄を省き、自分の曲がうまく合うように何度も何度もやり直しを命じた。こうして『エルナニ』『アッティラ』『マクベス』を経て、3大オペラ『リゴレット』『トロヴァトーレ』『椿姫』を30代の後半に作曲する。この時点でヴェルディはイタリア国家統一のために大きな貢献を果たした英雄だったが、その後も、50代に『ドン・カルロ』『アイーダ』を作曲している。『アイーダ』を作曲したのが57才で、この年でベートーヴェンが亡くなったことを考えると本当に息の長い作曲家だったのだなと思う。さらにこの後もあって、73才で『オテッロ』を、79才で『ファルスタッフ』を完成させているのだから。ヴェルディは28才で『ナブッコ』が世に認められてからは、87才で生涯を終えるまで、途切れることなくオペラばかりを作曲し続けた。これを可能にしたのは、2番目の妻、ジュゼッピーナ・スレッポーニの仕事、家庭両面の支えと台本作家(ソレーラ、ピアーヴェ、ボイトなど)の協力のおかげである。特に晩年に『オテッロ』と『ファルスタッフ』の作曲ができたのは、自身も『メフィストーフェレ』というオペラを作曲しているボイトのおかげである。28才を過ぎてからはたくさんの協力者の力を得ることができ、偉業を成し遂げたヴェルディは、多くのイタリア国民に惜しまれ、20世紀が始まって間もなく1901年1月27日にこの世を去った。
この本を読んでる最中に、以前から興味があった『ドン・カルロ』(カラヤン指揮)のDVDを見た。円熟期のヴェルディのすばらしい音楽を堪能できたが、やはり画像と字幕は欠かせないと思った。さらに完成されたオペラと言われる『オテッロ』『ファルスタッフ』を見てみたいが、カラヤンのDVDのように内容が充実したものが出る(もちろん日本語字幕があるもの)まで、待つことにしよう。