オペラDVD「ドン・カルロ」について
評伝ヴェルディ(ジュゼッペ・タロッツィ著)を読んで無性にヴェルディのオペラを鑑賞したくなった私は、いつものようにレコードやCDをステレオで鑑賞することを考えました。しかし以前、「リゴレット」(ジュリーニ盤)「アイーダ」「シモン・ボッカネグラ」「仮面舞踏会」(以上、アバド盤)のレコードを購入したものの充分に楽しむことができなかったので、一計を案じました。今までにたくさんのクラシックのレコードを鑑賞してきましたが、内容がよくわかっていないオペラをステレオで鑑賞するのは適切ではないと考えたのでした。確かに「椿姫」「トロヴァトーレ」「ボエーム」「魔笛」「タンホイザー」などは途切れることなく馴染みやすい旋律が続くので、最後まで飽きることなくステレオで鑑賞することができます。しかし馴染みにくい旋律や大がかりな合唱や台詞が延々と語られるところが大部分を占めるオペラは、やはりステレオでの鑑賞は向かないと考えたのでした。それで日本語字幕付きDVDで物語の内容をよく理解し、有名な独唱や合唱を知ってから、可能であればレコードでも鑑賞しようと決めたのでした。ただ字幕付きDVDならなんでもいいというのではなく、既にレコードでほぼ同じ指揮者、オケ、独唱者のものが出ていて、名演と呼ばれているものに絞りました。「運命の力」「ドン・カルロ」「ファルスタッフ」のいずれかということになりましたが、「運命の力」は名演DVDがなくまず外れました。「ファルスタッフ」は独唱があまりなくヴェルディ80才の頃の作品ということで次の機会にということにしました。そうして残ったのが、「ドン・カルロ」でしたが、「ドン・カルロ」は1978年にカラヤンがベルリン・フィルとともに、カレーラス、ギャウロフ、カプッチルリ、フレーニ、バルツァ、ライモンディの独唱で録音しており、今回鑑賞したDVDは半分が同じ独唱者(ドン・カルロ、ロドリーゴ、エボリ公女は同じ)の1986年ザルツブルク音楽祭の実況録音でした。
主役はやはりドン・カルロ(カレーラス)となるのでしょうが、友人役のロドリーゴ(カプッチルリ)も好感が持ててよかった。カレーラスとヒロイン(エリザベッタ)役のダミーコは少し地味な気がして、ロドリーゴ役のカプッチルリ、フィリッポⅡ役のフルラネット、エボリ公女のバルツァの存在感に圧倒された感じでした。カプッチルリの見せ場はやはり第1幕のドン・カルロとの有名な二重唱でしょうが、全般にわたり歌唱がすばらしく、ロドリーゴが当たり役というのもよく理解できます。フルラネットが凄いと思ったところは、第3幕第1場の独唱のところで王位についたものの苦悩がよく描かれていて、ヴェルディの歌劇はこういうところも聴きどころなんだなと思いました。エボリ公女を演じたバルツァは以前から名前だけを知っていた歌手でしたが、迫力に圧倒されました。カラヤンと「カルメン」を録音をしているので、近々聴いてみようと思います。とにかくこのオペラは6人の独唱者が、趣向を凝らした独唱を歌うというのがすばらしいのですが、そのシチュエーションに登場人物を動かす(持っていく)というのが無理なくなされているというのも好感が持てます。ただ、最初のところで終生の友情を誓ったドン・カルロとロドリーゴのふたりが最後には両方ともいなくなるというのはとても残念な気がしました。