モンテ・クリスト伯について
西洋文学愛好家の私は高校卒業後から多くの外国文学に目を通して来たが、中でも、イギリスの文豪ディケンズは好んで読んだ。学生時代に新潮文庫で出ているもの全てを読み、数年前に岩波文庫から出た「デイヴィッド・コパフィールド」を読んだ。最近は「骨董屋」を読んだ。このディケンズとほぼ同時代にフランスで活躍していたのが、アレクサンドル・デュマである。
デュマは、「モンテ・クリスト伯」の他に「三銃士」「二十年後」「ブラジュロンヌ子爵」(以上をまとめてダルタニャン物語という)があり、現在夢中になって読んでいる。きっかけは、「モンテ・クリスト伯」が面白かったので、他の作品も読んでみたいと思ったからである。
「モンテ・クリスト伯」は“岩窟王”としても改訳、抜粋されて出版されているが、やはり面白さでは岩波文庫の「モンテ・クリスト伯」が一番であると思う。私は翻訳ものを読む楽しみは翻訳家が登場人物をいかに生き生きと描いているかにある(翻訳次第でそれは可能と思う)と思っているのだが、そのためにはいかに会話文をこなれたものにするかどうかだと思う。そしてこの翻訳にはそれがある(こういう本を読んでいる時は、本当に楽しい)。
復讐の物語と言われ暗い面もあるが、むしろ主人公の前向きな生き方に引かれる人も少なくないと思う。19才の頃に、無実であるのに離れ小島の脱獄不可能と言われるところに16年間捕われた若い船長が、脱獄し10年間の準備期間を経て、どのように4人の悪党に復讐していくかも興味深いが、モンテ・クリスト伯を取り巻く善良な人たちの愛憎がリアリティーを持って描かれているところに興味を持つ読者も同じ程居るにちがいない。