ハード・タイムズについて
浪人時代に「クリスマス・カロル」「二都物語」「大いなる遺産」「デイヴィッド・コパフィールド」(以上新潮文庫)を、学生時代に「オリヴァー・トゥイスト」(講談社文庫)「ピクウィック・クラブ」(三笠書房)を、社会人になってから「リトル・ドリット」「バーナビー・ラッジ」(以上集英社)「荒涼館」(筑摩書房)「骨董屋」「マーティン・チャズルウィット」「我らが共通の友」(以上ちくま文庫)「エドウィン・ドルードの謎」(講談社)「ニコラス・ニクルビー」「ドンビー父子」(以上こびあん書房)「爐邊のこほろぎ」(岩波文庫)を読んでいるので、この「ハード・タイムズ」でディケンズの主要小説はすべて読んだことになる。いくつかの作品で複数の訳がでているが、この作品も今回読んだ英宝社から出版されたもの(私は大阪市立中央図書館で借りて読んだ)の他、田辺洋子さん訳(あぽろん社)のものがある。
この作品は功利主義の弊害を指摘した作品と言われているが、登場人物のグラッドグラインド氏は功利主義の信奉者で事実や数字を偏重している。彼のそれに倣った教育システムで育てられた二人の子供は人間性を徐々に奪われて行き、ついには人生に行き詰まってしまう。姉のルイーズは父親の勧めで、銀行業、商人、製造業者で金持ちの年が30才程年上のバウンダビー氏と結婚することになるが、自分の意志で決めたことでなかったため若いハートハウスの誘惑を完全に拒むことができずに深みにはまって行く。弟のトム(この中ではしばしば不良と呼ばれる)は、父親の勧めでバウンダビー氏の銀行に就職するが、会社のお金を盗みバウンダビー氏が経営する工場の工員(ブラックプール)に濡れ衣を着せる。ブラックプールが組合加入を断ったため仲間はずれになり工場をやめた時にトムの計画が成功したかに見えたが、廃坑で瀕死の状態でいるブラックプールをシシー(グラッドグラインド氏に引き取られたサーカスの道化の娘)とブラックプールに好意を寄せているレイチェルに発見され、トムの悪事が暴かれることになる。
最後近くでサーカスの親方のスリアリーがトムの逃亡を助けたり、バウンダビー氏に一泡吹かせようと家政婦のスパーシット夫人がバウンダビー氏の実母のペグラー夫人にバウンダビー氏の幼い頃のことを語らせたりするが、それでトムやバウンダビー氏が心を入れ替えるということは全くなくふたりとも平然としている。またブラックプールとレイチェルの恋愛もどうなるのか気になったが、結局ブラックプールの死によってその興味は完全に失われてしまう。
多分、私の読解力が足りないためなのだろう。最後にバウンダビー氏、グラッドグラインド氏、ルイーザ、トム(不良)がどうなったかよくわからない。第3部の第9章結末の後半はは難解である。よく私はディケンズの小説を読んでいて難解なところに出くわすと先を読んで行けばわかるだろうと思うのだが、終わりに難解なところが来ると本当に困ってしまう。
BBCがディケンズの作品を多くドラマ化していて、この作品のDVDが出ているのを知っているので見てみたいが、それよりもいつか田辺洋子さんの訳を手に入れてじっくり読んでみたいと思う。