『完訳千一夜物語』(九)(岩波文庫)について

『千一夜物語』(アラビアンナイト)の有名な物語は「シンドバッドの冒険」(以下、「シンドバッド」)「アラジンの魔法のランプ」(以下、「アラジン」)「アリババと40人の盗賊」(以下、「アリババ」)の3つですが、第9巻の最後の物語「アラジン」をようやく読み終えました(岩波文庫では、「シンドバッド」は第5巻に、「アラジン」は第9巻に、「アリババ」は第11巻に掲載されています)。「アラジン」は幼い頃に読んだ記憶と2つの映画を見た記憶がありますが、それぞれについて説明して纏めることは難しいので、ここでは物語のあらすじと岩波文庫を読んだ感想とを述べたいと思います。
物語の最初のところで、アラジンは15才になるまでは母親の言うことを聞かずに遊んでばかりいたと書かれています。そこにマグリブ人の魔法使いが現れますが、マグリブ人はアラジンを観察して探し求めていた子供を見つけたと考えて、父親の弟だと言ってアラジンに近付きます。母親に私のための夕食を用意をするよう伝えてくれとアラジンに大金を渡して、母親にもアラジンの叔父と信じ込ませます。さらにマグリブ人は遊んでいたアラジンに商人として必要な知識を教えアラジンの身なりを整え高価な着物を着せたため、アラジンと母親はさらに叔父と称する男のことを信用するようになりました。そうしてマグリブ人がすることを信用するようになったアラジンは町の城門の外に出て寂しい谷の奥にある山の麓(シナの果て)に連れて来られても叔父と言っているマグリブ人のことを疑いませんでした。マグリブ人は、地上にあるどんな庭園より立派な庭園が見られると言ってアラジンを騙して穴の奥へと行くよう命じます。その際にマグリブ人はあらゆる危険から身を護り一切の禍いを防いでくれると言って指にはめていた指輪をアラジンに渡します。マグリブ人は穴倉の中の火が点いたランプの火を消して持って来るようにとアラジンに命じましたが、アラジンはランプを手に入れた後、今までに見たことのない宝石のような輝きのある果実を見つけて母親や遊び友達の少年たちへの土産として持って帰るために自分の衣服の中に詰め込みました。ランプも一緒に詰め込んだため、穴倉から這い出る途中でマグリブ人がアラジンからランプを奪おうとして出せと言われてもすぐ出せず、アラジンはマグリブ人から悪魔のような恐ろしい声でどなられます。マグリブ人からの二度目の暴力(アラジンはマグリブ人から穴倉に入るようにと言われた時に逃げ出して平手打ちを食っていました)を恐れたアラジンは穴の奥へと逃げ込みます。それを見たマグリブ人は穴倉の入口を閉じて元の状態に戻してアラジンを閉じ込めます。マグリブ人の魔法使いはすぐれた魔法使いで30年にわたって魔術を修めて、その所有者たる幸運な人は国王や帝王より強大に成れる魔法のランプの存在を知りそれを手にするにはアラジンの力が必要なことを知りました。それでマグリブ人はアラジンと母親を騙してアラジンを穴倉まで連れて行き魔法のランプを手に入れる寸前まで行きましたが、平手打ちを恐れたアラジンに逃げられ、自身では穴倉に入れないマグリブ人はアラジンを閉じこめて飢えと渇きで死なせてやろうと考えたのでした。
こうした危難に苛まれたアラジンでしたが、マグリブ人からもらった指輪でイフリート(鬼神)を呼び出して穴倉から脱出し家に帰ることができました。家に帰るとアラジンは母親に、マグリブ人が怪しい人だった、彼と一緒にした冒険で手に入れたのはこれだけだったと、宝石のような輝きのある果実と銅の古ランプを見せました。母親がお金がないと言ったのでアラジンはランプを売りに行くことにしましたが、母親がランプが汚いので、掃除してピカピカにして高い値で売れるようにしましょうと言いました。母親が台所で灰を使ってランプの掃除をしているとランプのイフリートが現れて、「何の御用でしょうか。私はこのランプの下僕です」と耳を聾せんばかりの大声で言いました。その後アラジンはランプのイフリートの魔法で最初は今まで迷惑ばかり掛けていた母親を幸せにします。そうしていろいろな人と交流して社会的地位を上げていきます。アラジンはたまたま友人とよもやま話をしている時に帝王の姫君バドルール・ブドゥールが浴場で沐浴するのを見て恋慕の情に捉えられます。母親に頼んで帝王に貢物を渡してもらい信頼を得ますが、バドルール・ブドゥールは総理大臣の息子と結婚することになっていて帝王はアラジンの願いを真剣に考えてはいませんでした。帝王は母親に3ヶ月待つように言って総理大臣の息子との結婚を進めていました。母親がそのことを知ったのはバドルール・ブドゥールが総理大臣の息子と結婚する当日でした。母親から姫君の結婚の話を聞いたアラジンは最初は茫然自失でしたが、ランプのイフリートのことを思い出しました。アラジンは母親に言いました。「おお、お母さん、総理大臣の息子は今夜は必ず、僕のかわりに味わうつもりでいるすべての歓びを楽しむことはあるまいと思います。ですから、これについてはどうぞご心配なく」アラジンは母親が作った食事を食べた後、自分の部屋にひっこんでランプのイフリートを呼び出して相談します。ランプのイフリートが「御命令に相成れば、私は従いまする」と言ったので次のように言いました。「では今夜、二人の新婚夫婦がその婚姻の床に寝入るとすぐに、まだお互いに単に触れ合う暇さえ与えず、お前は寝床ごと二人を攫って、この場に運んできてもらいたい。それからおれがどうしたらよいかは、自分で考える」そうしてランプのイフリートが連れて来た姫君は着物を着たままでアラジンと一夜を過ごしましたが、総理大臣の息子は厠の穴に頭を突っ込まれて一夜を過ごしたのでした。こうした夜が2日続くと帝王は総理大臣の息子に対して疑問を持つようになり呼び出して2日間何かあったか尋ねました。総理大臣の息子は2日間に遭ったことを話して、このような生を選ぶより死を選ぶと言って離婚を申し出ます。そうして総理大臣の息子の離婚が布告された後、アラジンの母親が帝王の前に現れると帝王はアラジンと姫君が結婚するという約束をしていたことを思い出して総理大臣にどのように対応すればよいかを相談しました。総理大臣は自分の息子がアラジンのせいで結婚できなかったこと口惜しいと思っていたので、帝王に、貧しい仕立て屋の息子が姫君に富をもたらすことはない。帝王の王子となれるほどの富裕であるかどうか、支度金を御要求なされればよいと言いました。帝王の要望を母親から聞いたアラジンは支度金だけでなく、帝王の要望に応えて帝王の御殿の真正面にバドルール・ブドゥールにふさわしい宝石をふんだんに使った宮殿を建てます。
そうして帝王より慕われ、尊われるようになったアラジンでしたが、マグリブ人がアラジンがランプのイフリートのおかげで成功しているのを知り、復讐を固く決心しました。マグリブ人はアラジンが数日の間留守にしていることを知り、姫君を騙してランプを奪います。そうしてランプのイフリートに姫君と宮殿を自分のところへ持って来るよう言います。姫君と宮殿を失った帝王は怒りアラジンを処刑しようとしますが、「死ぬ前に自分の妻の捜索をしたい。40日の猶予をいただきたい。妻は私が狩に出ている間に宮殿もろとも行方不明になった」と説明して、猶予をもらいます。アラジンはマグリブ人からもらった指輪を思い出し、指輪のイフリートに姫君バドルール・ブドゥールのところに連れて行ってもらいます。姫君の協力を得てマグリブ人を麻酔剤で眠らせてランプを取り戻し、ランプのイフリートに宮殿と姫君を元に戻してもらいます。こうしてアラジンは平和な日々を取り戻しますが、兄の死を知ったマグリブ人の魔法使いの弟が聖女ファーティマに化けて子供が出来ないと悩んでいるバドルール・ブドゥールに近付き、うその情報を流します。アラジンがそれを実行しようとしてランプのイフリートに言ったところ、ランプのイフリートは至上のご主人の御子を奪えというのかと激怒してアラジンを投げつけますが、アラジンがランプのイフリートに経緯を説明するとランプのイフリートは落ち着き、魔法使いの弟に油断せぬようにと話してランプの中に戻ります。アラジンはすぐにマグリブ人の魔法使いの弟を退治して元の生活に戻ることができそれ以降は大過なく過ごし、アラジンとバドルール・ブドゥールはアラジンの母親、帝王と幸福な生活を送りました。月のような美しい子供もでき、帝王がおかくれになるとアラジンはシナ王国に君臨しました。
以上のように長いあらすじとなりましたが、一番印象に残ったのは幼い頃に親孝行できなかったアラジンが大人になって改心して母親を幸福にするところです。もちろんアラジンがランプのイフリートの御主人となるところ、姫君バドルール・ブドゥールとの出会い、総理大臣の息子と結婚していた姫君をランプのイフリートの力を借りて離婚させるところ、マグリブ人の魔法使い兄弟とのたたかいなどもあって興味深い物語ですが、貧しいながらも志しを高く持ち続けて母親を大切にしてアラジンが立身出世したところがこの物語で作者が一番言いたかったところだと思います。