『完訳千一夜物語』(十一)(岩波文庫)について
私はアラビアンナイトをもとにした話をいくつか幼少の頃に聞きました(絵本や活字の記憶もありません)が、詳しい内容や結末については知る機会がありませんでした。「シンドバードの7つの海の航海」「アラジンと魔法のランプ」「魔法の絨毯」(『ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語』)を『完訳千一夜物語」で読んで、物語の全容が明らかになりました。それで「アリ・ババと四十人の盗賊」についても明らかになると思い、『アリ・ババと四十人の盗賊の物語』(『完訳千一夜物語』(十一)に収録)を読みました。思えば、約2年前に神田の図書街で『完訳千一夜物語』全13巻を1万円程で購入して、しばらく他の本と並行して読んでいましたが、第9巻のアラジンを読んだ頃から『完訳千一夜物語』だけを読むようになり、『アリ・ババと四十人の盗賊の物語』を読み終えて第11巻ももうすぐ読み終えます。私は一昨年夏から昨年の秋にかけてギリシアの古典と言われる、ギリシアの三大悲劇詩人による悲劇(人文書院)や『オデュッセイア』『イーリアス』『ソクラテスの思い出』『アナバシス』『アエネーイス』(厳密に言うとローマだが)クセノポン『ギリシア史』トゥキュディデス『戦史』を読みましたが、ギリシア神話に簡略に記されている以外にも色々な情報が得られて物語への理解が深まり史実への興味をさらに深められたと思っています。そんなこともあって『千一夜物語』も興味を持って読んでいるのですが、『アリ・ババと四十人の盗賊の物語』については、「胡麻よ、開け!」でアリ・ババが岩の扉を明け盗賊の財宝を手に入れて大金持ちになると言うことくらいしか知らなかったので、物語の過程、結末についてとても興味がありました。
アリ・ババは幼い頃から貧しく、父の死後は兄のカシムとともに食べ物にも困る状況になりました。カシムは抜け目のないたいへん狡い男でしたが、若い女性の力を借りて貧しさから抜け出し商人として整った店を出せるようになりました。アリ・ババは木こりとなり正直でみんなから信用されるようになり、貧しいながらも仲間から勧められて若い娘と結婚しました。ある日のことアリ・ババが入ったことにない森の茂みで一心に木を倒していると四十人の山賊が現れました。アリ・ババは大きな太い木のてっぺんに隠れて山賊たちの様子をうかがっていましたが、彼らが盗みをはたらく山賊であることがわかりました。さらに様子を見ていると丘の裾にある岩の前に行き、「胡麻よ、開け!」と言って広々と開いた岩から洞窟の中に入って行きました。山賊はしばらく洞窟の中に留まりましたが、彼らが洞窟から出ていなくなったのを確認すると、アリ・ババは「胡麻よ、開け!」と魔法の呪文を自分で言って開いた岩から洞窟へと入りました。アリ・ババはディナール金貨や宝石を家に持ち帰りましたが、すぐに兄嫁がそのことを知り、兄カシムは、どこかで盗んだんだろうとアリ・ババに詰め寄りました。正直なアリ・ババは冒険を委細漏らさずに話し、魔法の呪文までも教えてしまいます。カシムは騾馬10頭を連れて洞窟へと行き呪文を言って中に入ったまでは良かったのですが、財宝のことをあれこれ考えていて呪文を忘れてしまいます。洞窟から出られなかったカシムは山賊に見つかり五体バラバラ(実際は6つ)にされます。なかなか家に戻らないとカシムの嫁から聞きアリ・ババは洞窟に向いますが、カシムは六片の遺体となっていてアリ・ババは袋に入れて家に持ち帰ります。
アリ・ババは放心状態でしたが、アリ・ババとその妻が幼い時に引き取って本当の娘のように大切に育てたマルジャーナに、誰にも真相を感づかれないように兄さんをまるで自然の往生を遂げたみたいに埋葬する方法をぜひ工夫してもらいたいと頼むとマルジャーナは靴屋に頼んで身体を縫い合わせてもらい普通の葬儀をします。マルジャーナはその後も山賊の部下が靴屋からアリ・ババのことを聞き出して場所がわかりやすいようにアリ・ババの家に目印を付けたことに気付くと同じ目印を他の家にたくさん付けてわかりにくくしたりします。その上、山賊の頭が部下を37個の甕に入れてアリ・ババの家に入り込んで急襲しようとすると、沸騰した油を甕に注いで37人の部下を殺してしまいます。マルジャーナはお世話になった主人アリ・ババに恩返しをしようと山賊の頭まで自分の手で殺害しますが、自ら踊り子の格好をしてギリシア女の舞い、エチオピア女の舞い、ペルシア女の舞いなどをすばらしい身軽さで舞い、山賊の頭(亡くなる時は隣の住民ハッグ・フサインを名乗っていた)が油断したところで短剣を心臓に深く突き刺して殺害します。こうしてマルジャーナのお陰で日常を取り戻せたアリ・ババは、自分の息子と結婚して本当の我が家の人となってくれないかと接吻して両眼に涙を浮かべてマルジャーナに申し出ます。用心のため1年間は洞窟に近付きませんでしたが、1年が過ぎるとアリ・ババは洞窟に入り財宝すべて調べましたが、財宝を過度に大切に使いながら平和と至福のうちに暮らしました。
このように全体を見てみますとアリ・ババが活躍したのはカシムの死体を持ち帰るところまでで、その後はアリ・ババの依頼を受けたマルジャーナが主人の命を守るために38人の山賊を殺害(残り2名はアリ・ババの家のしるしがわからないと山賊の頭の怒りに触れ首をはねられます)する経緯という山賊対マルジャーナの知恵比べのようになっています。マルジャーナという際立ったヒロインが登場するためアリ・ババの影は薄くなりますが、マルジャーナのお陰で『アリ・ババと四十人の盗賊の物語』は最後まで楽しめる物語になっています。