『千一夜物語』(十二)(岩波文庫)について
『千一夜物語』(岩波文庫)は全部で13巻あり、第十一巻までに『シンドバードの七つの海の航海』『アラジンと魔法のランプ』『アリババと四十人の盗賊』『ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語』(魔法の絨毯が出て来ます)というよく知られている物語を読んだので、第十二巻と第十三巻は面白い話は残っていないのかなと思っていましたが、『金剛王子の華麗な物語』は面白い物語でした。この物語はプッチーニが歌劇「トゥーランドット」を作る時に参考にしたと言われていて、どちらも王女が出した謎を解くところが重要な場面となっています。
「松毬と糸杉の関係とは」この問に答えられた人を婿とするが、答えられなければ、首を切られて宮殿の尖塔に懸けられる。金剛王子がこのことを知ったのは、部下と狩に出掛けた時のことでした。オアシスの側で王座に腰掛けている老王が、自分の息子7人がカームース王の娘モホラ姫と結ばれたいと願い、7人とも恋の思いに殉じて亡くなってしまった。希望なき苦悩に打ち倒されて、我が祖国を捨て今いるこの一角に行き着き、この王座の上に座って死を待っていると話しました。老王の話を聞いて、金剛王子は致命的な感情の矢に傷つけられて、火花を発する恋の溜息を洩らしました。そうして父親のシャムス・シャー王にモホラ姫に対する恋の思いを打ち明けました。王は軍を送ってモホラ姫を連れて来ようといいましたが、金剛王子は自分で赴いて、求められる回答をする。そうして独力の功によって、奇跡の姫を連れて来ると返事しました。
そうしてすぐに王子はカームース王国へと向い無事に都に到着しましたが、宮殿の正面から見ると尖塔に幾千もの首が吊るされていました。金剛王子は到着するとすぐにモホラ姫との会見を希望すると太鼓を打ち鳴らしました。カームース王のところに案内されましたが、王は金剛王子を死から救いたいと思い、三日間熟慮するようにと言いました。王子が屋敷内にとどまっていると姫の侍女珊瑚の枝と話をすることができ、珊瑚の枝は仲立ちをしたいと申し出てくれました。王子は珊瑚の枝の申し出を受け、「松毬と糸杉の間の関係はいかん?」という問に答えるのが自分の望みであることを珊瑚の枝に打ち明けました。珊瑚の枝は金剛王子に貴重な情報を与えてくれました。モホラ姫の象牙の寝床の下には悪い黒人がいて、姫をそそのかして王子たちに難題を吹きかけるように仕向けた。この悪い黒人は以前ワーカークに住んでいて逃げて来たので、その町に行けば問題の正解がわかるだろう。それ以外に方法はないと言いました。運悪くモホラ姫に見られましたが、金剛王子は狂人をよそおって回避しました。王子はワーカークに行くことを決めますが、どこにあるのかわからないため修道僧(ダルヴィーシュ)に尋ねました。修道僧はそこに行くのはやめるようにと言いますが、金剛王子の意志が強いとわかるとワーカークに行く道を教えてくれました。修道僧が3つの道のうちの右を選べと言われたので、金剛王子はその道を行きました。やがて光塔の下に着きましたが、光塔には大理石板がはめこんであり、「・・・中央の道をとらば、まことに恐るべきものあらん」と読めました。金剛王子はその後は躊躇なく中央の道を進みました。やがて庭に行き着き庭の番をする黒人の大男がいましたが、大鼾をかいて寝ていたので王子は跨いで庭に入りました。すると「ことわりもなくこの庭に入って来たのは誰か」と魔術師のラティファが尋ねました。金剛王子から経緯を聞いたラティファは王子を気に入りましたが、王子は自分は「松毬と糸杉との関係はいかん」を解かないうちは快楽と幸福は禁じられていると説明しました。王子の態度はラティファの怒りを買い、鹿にされてしまいます。しかし幸運なことに庭をさまよっていてラティファの異母妹のガミラと出会い、親切なガミラは魔法を解いて金剛王子を元の姿に戻しただけでなく、王子の願いを聞き入れてワーカークに行くために必要なことを王子に提供してくれました。
途中大きな困難に直面することが考えられるので、3つの品を与えました。弓矢、「スライマーンの蠍」という名の剣、霊験が刃にひそむ身を守ってくれる短刀です。それからワーカークに行くためには叔父のアル・シムーグルの助けが必要と言いました。その後、金剛王子はガミラの指示通りに弓矢や剣の力を借りてターク・タークの宮殿での闘いに勝ち、ターク・ターク王に拘束されていた羚羊に似た乙女アジザ姫を救い出します。金剛王子はアジザ姫に王座に着くよう勧め、アム・シムーグルの居場所を尋ねます。アジザ姫は最初は金剛王子と別れることを悲しみましたが、すぐにアル・シムーグルがいるところを教えます。金剛王子が短刀の霊験の力を借りてアム・シムーグルの攻撃を躱したため、アム・シムーグルは金剛王子を信用するようになりワーカークに行きたいという王子の願いも聞き入れてくれました。そうして金剛王子はマッハの速さで飛ぶ変形の気球のようなアル・シムーグルに乗って七つの大洋を渡ってワーカークの町にあっという間に到着しました。
ワーカークに着くとアム・シムーグルは金剛王子を露台に下ろしましたが、そこから下りていくとファラーというワーカークの町の長の寵臣が歓迎の言葉を言って迎えてくれました。二人は言葉を交わしてお互いを確認し、両人は互いに友情を誓い合いました。そうして金剛王子はファラーに問い掛けました。「松毬と糸杉との間にどう言う関係があるのか、そのことだけを知りたい」と。ファラーは顔を黄色くして眼差しが曇りましたが、「糸杉」というのは国王のこと、「松毬」というのは女王のことだが、「糸杉」や「松毬」の名前を出すものはすべて殺してしまえと国王が言っている。それ以外のことは自分は知らない。あなたは魅力のある人だから、私が王に紹介すれば、王が王しか知らないことを説明してくれるかもしれないと言いました。
最初王は赤い真珠を進物としてもらったこともあり金剛王子に対して満足顔で接してましたが、「松毬」と「糸杉」の話になると顔を豹変させました。王は進物に満足して何でも尋ねてよいと言っていたので、首をはねるわけに行かず、ただ炎のように怒りを爆発させるだけでした。ようやく王は話を始めましたが、それは次の通りでした。
ある日私は狩に出掛けたが、野の中で激しい渇きに襲われて昔の民の掘った貯水井戸の水を飲もうとした。なかなか桶を上げることができなかったが、その時にふたりの盲目の老婆を助ることになった。老婆たちの視力も回復させた。老婆たちはお礼に願いを叶えると言った。私が美の破片がほしいと言うと老婆たちは自分たちの王様の娘松毬を差し上げようと言い、魔人のの王の宮殿に運んでくれた。それから一か月間私は松毬と楽しい日々を過ごしたが、父親が娘の変化に気付いてしまい、私は殺されそうになったがまた老婆たちに救われた。老婆たちが私に霊油をかけてくれたので焚きつけた火に投じられても灰になることはなかった。それを見て王は、私の威力を疑うわけに行かなくなり、松毬とめあわすのが至当だと考えた。しかし松毬は数日もしないうちに不義を働くようになった。私が寝ている間に馬を飛ばして7人の水牛のような黒人と逢引きをするようになった。その現場を押さえた私は5人を地獄行きにしたが、1人は逃れた後に首を切られて見せしめの塩漬けにされ、1人は首尾よく逃れ去りカームース王の娘モホラ姫の象牙の寝台の下に潜むことに成功した。松毬は両手足を縛られ塩漬けにされた首を近くに置かれる罰を受けている。
更に金剛王子は死を覚悟で、どういう理由で残った黒人がモホラ姫の寝台の下にいるのか、またモホラ姫がなぜそのことを承知したのか教えてほしいと糸杉に頼みましたが、糸杉はそれは国家機密だからいえない。知りたいのなら、命を助けるから自分でカームース王に訊けと言われます。
こうして万全の準備が出来た金剛王子はカームース王のところに乗り込み、王に調べたすべてのことを伝えます。松毬と糸杉の関係を聞いた王は金剛王子の味方となり、隠しごとを明らかにしないモホラ姫を叱責し王子と一緒に王女の象牙の寝台を持ち上げました。黒人が現れて、娘と黒人の悪行が明らかになり、王は黒人を串刺し刑に処し娘の処分を金剛王子に一任しました。
黒人がそそのかしたとはいえ、幾千もの王子の首をはねて宮殿の尖塔に吊るしたモホラ姫は懲罰を受けると思われましたが、結末はモホラ姫にとって明るい将来を思わせるものでした。
金剛王子は謎解きを進めるためにたくさんの女性の手を借りました。珊瑚の枝、ラティファ、ガミラ、アジザ姫。ラティファは別として3人の女性の助力がなければ謎解きは出来なかったでしょう。金剛王子はたくさんの人から有益なほのめかしを与えられて自分の意思を決定することができました。モホラ姫の処遇もまず父親に相談しました。シャムス・シャー王が「労苦困難の末に獲た者は大切にしなくてはならぬ。庭園に潜り入った時はモホラ姫は深甚な敬意を払ってお前を遇した。この女性の灌木の果実、林檎の風味、落花生の風味は誰も味わったことがないことはお前も知っているだろう」と言い、4人の正妻も支持したので、金剛王子はこの女とも相結ばれました。幾千人もの人の命を奪った女性ですが、立派な子供をもうけ、その子らの歩みは一歩一歩が至福でありましたと結ばれています。
多くの王子の首をはねるよう命じたモホラ姫が罪に問われず幸せに暮らしたというのはモホラ姫の甘言にに命を失った王子たちが気の毒に思いますが、モホラ姫が罰せられたというのでは物語がおこげごはんのようなすっきりしないものになるので、ここのところは少しだけ我慢して物語を楽しませてくれた登場人物に感謝するだけというのがいいと思います。