『千一夜物語』全13巻(岩波文庫)について

「『千一夜物語』はいくつかの翻訳が出ていて、アラビア語の直訳(『アラビアン・ナイト』(東洋文庫)全18巻)の他に英語の重訳(『千夜一夜物語』(ちくま文庫)全11巻)とフランス語の重訳(『千一夜物語』(岩波文庫)全13巻)が主なところですが、私は訳が読みやすくて携帯に便利な岩波文庫を読みました。「船乗りシンドバードの冒険」「アラジンの魔法のランプ」「アリババと40人の盗賊」「空飛ぶ絨毯」は幼い頃に童話の絵本で読んだと思うのですが、この長大な物語を通して読むことは最近まで考えませんでした。少し考えるようになったのは、大学生の頃でイギリスの文豪ディケンズが幼い頃に「千一夜物語」を楽しんだと言うことを知り自分も長編小説を読める時間が持てるようになったら通して読んでみたいと思ったのでした。それから45年経過してようやく読むことが出来たのですが、有名な6つの物語以外にも十字軍との戦いを描いた『オマル・アル・マカーン王とそのいみじき二人の王子シャールカーンとダウールマカーンとの物語』(3巻から4巻の途中までの『千一夜物語』の中で一番長い物語)、『千一夜物語』の実際の主人公とも言えるハールーン・アル・ラシードが登場する物語(溌溂としたハールーンが登場するユーモラスなものが多いのですが、最後の『ジャアファルとパルマク家の最後』はハールーンの晩年を描いた悲しい物語になっています)、エロティックな女性が登場する物語(多数あり)など上記の有名な作品以外にも楽しめる作品が数多くあります。特にプッチーニが歌劇「トゥーランドット」を作る時に参考にしたと言われている『金剛王子の華麗な物語』や物語の終盤(第13巻)を飾る『知識と歴史の天窓』は興味深く読みました。あまり長いコメントは書きませんが上記の物語を少し解説しますと。
『船乗りシンドバードの物語』(第5巻)
シンドバードは7回の航海をするが、まさに冒険の連続で巨大な鳥、大きな黒い蛇、しがみついて離れない「海の老人」などが襲いかかりますがシンドバードは知恵で危険を回避して故郷バグダード財宝を持ち帰ります。
『アラジンと魔法のランプの物語』(第9巻)
マグリブ人の魔法使いが魔法のランプを手に入れるためにはアラジンの力が必要と15才のアラジンを連れ出すところから物語は始まりますが、マグリブ人はアラジンを穴倉に閉じこめて魔法のランプを手に入れようとします。アラジンはこの窮地を回避して家に帰り、母親、ランプのイフリート(鬼神)とともに帝王の要望に応えて帝王の信頼を得ていきます。そうしてバドルール・ブドゥール姫とイフリートが建てた宮殿に住みますが、マグリブ人がそのことを知り、計略を立てて母親から魔法のランプを騙し取ります。帝王は無一文になったアラジンを処刑しようとしますが、アラジンは知恵を働かせ姫と魔法のランプを取り戻します。
『ヌレンナハールと美しい魔女の物語』(第10巻)
魔法の絨毯が登場する物語。ヌレンナハール姫を恋い慕う3人の王子は姫の養父でもある父親から、尋常ならざる珍奇な品をそれぞれが探して最も驚く不思議なものを持って来た者に姫を授けようと言う。王子はそれぞれ「すぐに行きたいところに行ける魔法の絨毯」「遠く離れた人の様子がわかる象牙の筒」「匂いを嗅ぐだけで瀕死の病人も健康を回復する西瓜」を手に入れ、その頃瀕死の状態になっていた姫を救います。王は3人が探して来た不思議なもののどれが一番良いのか判断できず、矢を一番遠くに放ったものに姫を授けることにしました。結局、姫は次男ハサンと結婚しますが、「魔法の絨毯」を買い取った長男アリは姫と結婚できず聖職に就き以後物語に登場しなくなります。三男フサインは失った矢を探しているうちに魔女と親しくなり結婚しますが、美しい魔女はフサインと結ばれた後に少し手荒な方法でフサインを王にします。
『アリババと四十人の盗賊の物語』(第11巻)
木こりのアリババはある日入ったことのない森で一心に木を倒している時に、四十人の山賊と出遭い「胡麻よ、開け!と魔法の呪文を言って洞窟に入っていくのを見ました。アリババは盗賊がいなくなったのを確認すると魔法の呪文を言って洞窟の中に入り、ディナール金貨や宝石を家に持って帰りました。兄がそのことを知りアリババから呪文を聞き出しましたが、出る時になって呪文を忘れて洞窟から出られなくなります。兄は山賊に殺されアリババも命を狙われますが、幼い時に引き取って大切に育てたマルジャーナがアリババを助けて山賊を壊滅させます。アリババは用心のため1年間は洞窟に近づきませんでしたが、1年が過ぎると財宝を大切に使いながら平和と至福のうちに暮らしました。
『金剛王子の華麗な物語』(第12巻)
カームース王の娘モホラ姫は多くの王子から求婚されましたが、謎「松毬と糸杉の関係とは」を解くことを結婚するための条件とし、解けないと王子は首をはねられて宮殿の尖塔に懸けられました。7人の息子を亡くした老王からこのことを聞き、金剛王子はモホラ姫に興味を持ちました。そしてカームース王を訪ねましたが、王は金剛王子を救いたいと思い、3日間熟考するようにと言いました。その後王子はモホラ姫と会い、侍女の珊瑚の枝とも話をしました。珊瑚の枝から貴重な情報を得て、その後も幾人かの女性の助けを得た金剛王子は謎を解きます。モホラ姫はたくさんの王子の首をはねたので父親カームース王は追放しましたが、父親シャムス・シャー王に相談した王子はモホラ姫を罰せず4人の正妻と同様に大切にし子供ももうけました。
『知識と歴史の天窓』(第13巻)
『千一夜物語』の最期を飾る連作短編集。
『ジャアファルとパルマク家の最後』(第13巻)
ハールーン・アル・ラシードがカリフの時にアッバース朝は栄えたが、その後兄、息子が王となり勢いは回復せず衰えて行った。ハールーン・アル・ラシードの側近であるジャアファルとその親族がハールーンの支えとなったが、ある日ハールーンが思いついて妹のアッバーサとジャアファルを結婚させて子供を作ることを禁じたため、様々な問題が起きてアッバース朝衰退の大きな原因となる。その経緯を描いたもの。
『千一夜物語』はとても長い物語でシャハリヤール王が改心するまで一気に読んでしまおうと考えると二の足を踏んでしまう気がします。一応通して最後まで読んだ私からのアドバイスとしては、第5巻のシンドバードの冒険までは他の本と並行して読んで第9巻のアラジンの物語あたりから本腰を入れて読み始めればよいと思います。例えば1年か2年で集中して全部読んでしまおうと思うと行き詰ってしまう気がします。というのはシャハラザードが語った物語はほとんどが内容が濃い物語で2年と271日掛けてじっくり語っているのですから、落ち着いて読まないと大切な部分を読み飛ばしてしまう恐れがあると思うのです。