プチ朗読用台本「エスタの幸福」

     1


「エスタ、私はずっと前から君に話したいと考えていたことがあるのだが」

「あら、なんでしょうか?」

「なんといって切り出したらいいか、困っていたのだ。今でも困っているのだよ。落ちついてよく話をして、落ちついてよく考えてもらいたいのだ。手紙に書いてはいけないかねえ?」

「まあ、この私に読ませて下さるものに、いけないなんて申すはずがありませんわ」

「それでは、教えてもらいたいのだが」ジャーンディスさんは明るく笑いながら、「今この瞬間、私は完全に率直、自然な態度でいるかい? ― いつもと同じくあけひろげで、正直で、古めかしい人間に見えるかい?」

 私は大真面目に、「はい」と答えましたが、それは完全に嘘いつわりない答えでした。おじさまの一瞬のためらいは(それは一分と続かぬものでした)消えてしまい、いつもの思いやりのある、温かい、まぎれもない立派な態度に戻っておられたからです。

「私がなんであれ隠しているとか、口とうらはらの意味をこめているとか、はっきりいわないでいるように見えるかい?」輝く澄んだ目でじっと私の目を見つめながら、こうお尋ねになりました。

 私は絶対にそんなことありません、とお答えしました。

「エスタ、完全に私を信頼できて、私のいうことが信用できるかい?」

「はい、完全に」私はまごころこめていいました。

「それじゃ、私に手を取らせておくれ」

 私の手をとり、腕で軽く私を抱くと、いつもと変わらぬさわやかでまごころのこもった態度 ― そのいつもと変わらぬ思いやりの態度のおかげで、私はすぐにこの家を自分のうちだと思うことができたのでしたが ― で私を見おろしながら、おっしゃいました。「ちいさなおばさん、あの冬の日、駅馬車の中で会ってから、君は私の人間を変えてくれた。あの時からずっと、私にいろいろたくさんいいことをしてくれたね」

「とんでもありませんわ。あの時以来おじさまこそどれほどのことを私にして下さったでしょう!」

「でも、そのことは今思い出さないことにしよう」

「忘れられないことですもの」

「でもね、エスタ」おじさまはやさしい、真剣な様子で、「今は忘れることにしておくれ。ちょっとのあいだは忘れておくれ。現在君の知っているこの私が、今後もう変わることはない ― と、この点だけを憶えていておくれ。いいね?」

「はい、わかりました」

「それだけだ。それで全部だ。でも、そういって貰ったからといって、すぐ決めてしまってはいけないよ。きみのご存知のこの私が今後もう変わることはない、と君が心の中ではっきり確信もてるまでは、私はこの胸の中で考えていることを手紙に書くまい。もし君がこれっぱかりでも疑念を持っているあいだは、決して私は手紙を書くまい。君がよく考えて、絶対に確かだと思ったら、来週の今晩チャーリーにいって、手紙を受取りによこしておくれ。でも、もし確信がもてないと思ったら、絶対によこさないでおくれ。いいかい、私は他のすべてのことでもそうだが、このことでも、君が決していつわりのない人だと信頼しているのだよ。その点でももし確信がもてないと思ったら、受取りによこさないでおくれよ!」

「おじさま、もう決心はついていますわ。おじさまの私に対するお考えもそうでしょうけれども、私も絶対考えが変わることありません。私はお手紙を頂きにチャーリーをよこします」

 ジャーンディスさんは私の手を握ると、それ以上は何もおっしゃいませんでした。その後一週間のあいだ、おじさまからも私からも、このことについては一言もいい出しませんでした。約束の晩が来て、私とチャーリーが二人きりになるとすぐ、「さあ、チャーリー、ジャーンディスさんのお部屋の戸を叩いて、私から『お手紙』を頂きに参りました、というのよ」と頼みました。チャーリーは階段を上ると、また別な階段を下り、廊下を通ってゆきました ― この古めかしい屋敷のジグザグの歩き方が、私の耳にはひどく廻りくどく感じられました ― が、また廊下を通り、階段を下り、階段を上って、手紙をもって戻って来ました。「チャーリー、テーブルの上に置いてちょうだい」私がいいました。そこでチャーリーは手紙をテーブルの上に置いて、寝てしまいました。私はその手紙をとり上げもせず、じっと座って見つめたまま、いろいろのことを考えていました。

 私はまず暗い影でおおわれた私の子供のころを考えました。そのおずおずしていた時代の次には、伯母さんがきつい顔を冷たくひきしめて死んでいた悲しい日のこと、それからミス・レイチェルと一緒に暮していた頃、世界じゅうでたった一人ぼっち、話しかける相手もなしで暮すよりももっと淋しい思いがしたこと。それからがらりと変って、私がまわりをお友達に囲まれ、愛されていた幸せな時代。それから、はじめてかわいいエイダに会って、姉妹同様に愛されて私の生活にうるおいと美しさが加わった時。あの寒いよく晴れた晩、まさにこの窓から私たちの期待にあふれた顔に向けられた輝かしい、そしてその時以来輝きを失ったことのない歓迎の光をはじめて望んだ時のことを思い出しました。ここで送った私の幸せな生活を、もう一度思い返しました。私の病気と回復のこと、私の顔かたちは変わりはて、私の周囲の人や物は全然変らなかったこと、などを思い返してみました。こうした幸せの光の源ともいうべき方、それは今私の前のテーブルの上の手紙で代表されている、ある一人の方です。

 私は手紙を開いて読みました。私に対する愛情にみちあふれながら、一方では公平無私な忠告を与えて下さり、一語一語に思いやりがこめられていて、私の目は涙でかすんでしまい、長いこと読み続けることができませんでした。でも私ははじめから終わりまで3回読み返してから、手紙を下に置きました。読む前からその内容はもうわかっているような気がしてましたが、その通りでした。手紙にはこう書いてあったのです。「荒涼館」主婦になっていただけませんか?

 でも、次のことはこればかりも触れてありませんでした ― 私が病気の前きれいな顔立ちだった頃、あの方が同じようなことをお考えになって、しかもそれを抑えたこと。昔の顔が消えてしまって、私に魅力がなくなってから、私をきれいだった頃と同じように愛して下さっているということ。私の出生の秘密がわかっても少しもショックを受けなかったこと。あの方の思いやりの前には、私の醜い顔も、生まれながら背負った恥辱も問題でないこと。このような堅い真実の心が必要であればあるほど、一生あの方を信頼してよいこと。

 以上のことは書いてはありませんでしたが、私には今やはっきりわかっていました。私が受けて来た慈愛の物語のクライマックスがこのお申し出だったのです。私としてすることはただひとつしかない、と思いました。あの方を幸福にするために私の生涯を捧げることこそ、感謝の万分の一を示すことです。先日の晩も、あの方に感謝の気持を示すためかこれまでにない新しい方法はないかとそればかり考えていたではありませんか?

 それなのに、私はひどく泣いてしまったのです。お手紙を読んで胸がいっぱいになったからだけではありません。お申し出の未来の姿が意外に思われたから ― 私が手紙の内容を予期していたとはいうものの、やっぱり意外でしたから ― だけではありません。まるで私が何か、名をつけることも、はっきり頭に思い浮かべることもできない何かを、永久に失ってしまったかのような気がしたからです。私は本当に幸せで、感謝と希望にみちみちていました。でも、私はひどく泣いてしまったのです。

 翌朝食堂に入りますと、ジャーンディスさんはいつもの通りの様子でした。まったく率直で開けひろげで、自然な態度でした。ぎこちないところは少しも見られませんでした。私の態度にもぎこちないところは少しもありません(少なくとも自分ではそう思っているのですが)でした。午前中家の内や外で二人きりになることが何度もありました。おそらくお手紙のことを何かいわれるのではないかと思っていましたが、一言もおっしゃいませんでした。

 翌朝も、またその翌朝も同じでした。こうして少なくとも一週間は過ぎました。毎日のようにジャーンディスさんからお手紙について何かいわれるのではないかと思っていましたが、一言もおっしゃいません。

 そこで不安になった私は、こちらから手紙を書かなくては、と思いました。晩に自分の部屋へ戻ってから、何度も何度も書こうとしましたが、お返事としてふさわしいような手紙をどうしても書くことができません。そこで毎晩毎晩もう一日待とうと思っているうちに、また7日たってしまいました。それでもあの方は一言もおっしゃいません。

 ある日の午後私たち3人が馬車で出かけることになりました。私はエイダよりさきに支度ができましたので下におりてみると、ジャーンディスさんが私の方に背を向けて、応接間の窓のところに立って外を眺めていらっしゃいました。

 私が入って来るもの音を聞いてこちらに振り向くと、にこにこ笑いながら、「おや、ちいさなおばさん、君だったのか」とおっしゃると、また外を向きました。

 私は今こそいわなくてはと心に決めました。はっきり言って、そのために私は下りて来たのでした。「おじさま」私はいささかおずおずと、ふるえながらいいました。「チャーリーにお渡しになったお手紙のお返事は、いつ差し上げたらよいでしょうか?」

「君のいいと思う時で結構だよ」

「もうよろしいと思いますが」

「じゃあ、チャーリーに持って来て貰おうか?」

「いいえ、私が自分で持って参りました」

 私はジャーンディスさんのうなじのまわりに両の腕を投げかけて、キスをしました。ジャーンディスさんが、これが荒涼館の主婦なのかい? とおききになりましたので、私は、はい、そうです、とお答えしました。じきに普段と同じになりましたので、エイダ、リチャードと3人で一緒に出掛けましたが、かわいいエイダにはそのことは何もいいませんでした。

 

     2


 私は今度は他のかたがたについての話を進めましょう。周囲の皆さんのご親切のおかげで、私は思い出しても胸がいっぱいになるような、温かい慰めを得たのです。これまで自分のことばかりお話しして来ましたし、まだお話ししていないことがどっさり残っていますので、私の悲しみについては、ここではなにも言わないことにいたします。私は病気になりました。が、それは長くありませんでしたから、とくにいわなくてもよいことなのですが、皆さんが同情を寄せて下さったことは、どうしても忘れるわけにはまいりませんので、ひとことふれておきましょう。

 私の病気の間、私たちはロンドンに滞在していました。ウッドコートさんのお母様も、ジャーンディスさんの招きに応じてロンドンに出て来られて、私たちの家に泊まられました。おじさまは、私がもとのようにいっしょに話しても大丈夫なくらい心身ともに元気になったと判断なさると ― 私はもっと前からもう大丈夫ですと申し上げたのですが、聞き入れて下さらなかったのです ― 私はもとのように、おじさまの隣に椅子を置いて、仕事をすることになりました。私たちが二人きりになれるように、おじさまが取りはからったのです。

「トロットおばさん、ようこそこの『怒りの間』に戻って来てくれたね」私を迎えるとおじさまはキスをしてくださいました。「ねえ、私は一つ計画があるんだ。これから六ヶ月か、ひょっとするともっと先まで、この家にいようと思って、要するに、しばらくの間はここに腰を落ち着けようと思うんだよ」

「荒涼館のほうはしばらくほうっておおきになるんですの?」

「荒涼館は自分でなんとかやっていってもらわなくてはいけないねえ」

私にはその口調がなんだか悲しそうに聞こえたのですが、私が見つめると、ジャーンディスさんは愉快そうな、明るい笑顔になりました。

「荒涼館は自分でなんとかやっていってもらわなくてはいけない」今度は全然悲しそうな様子でない口調で、もう一度繰り返されました。「エイダからは遠すぎるし、それにエイダは君に近くにいてもらいたいだろうからね」

「いかにもおじさまらしいですわ。そこまでお考えになって、私たち二人を不意に喜ばせてやろうとなされなんて」

「私を他人思いだとほめてくれるつもりかい? いや、それほど僕は他人思いでもないんだよ。かなり自分勝手な考えさ。だってもし田舎に帰ったら、君が終始ロンドンとの間をいったりきたりして、私といっしょにいてくれる時間がろくになくなってしまうだろう。それに私は、リックと仲たがいしてしまったので、できるだけ多く、またできるだけたびたび、エイダの消息を聞きたいのさ。エイダだけでなくて、あの気の毒なリックの消息もね」

「けさウッドコートさんにお会いになりましたか」

「毎朝会っているよ」

「リチャードの状態は相変わらず同じだとおっしゃっているのですか」

「ぜんぜん同じだ。とくにどうという、からだの病気だと思えない。いや、ぜんぜん病気なんかではないんだが、でもやっぱり、彼のことは楽観できないというんだ。もっともなことさ」

 エイダはこのごろ毎日、時には日に2回も、私たちの家に来てくれました。でも、私が元気になったらそうはゆかないだろう、とまえまえから私たちにはわかっていました。エイダが昔と変らずジョンおじさまに対して、愛情と感謝の念を抱いていることは私たちにもよくわかっておりましたし、まさかリチャードがいってはいかんなんて止めるわけはないでしょうけど、エイダとしては、できるだけ私たちの家から足を遠のけるのが、夫に対する自分のつとめだと思う気持も、私たちにはよくわかったのです。ジャーンディスさんはこまかい思いやりのある方ですから、じきにこの点に気づかれて、エイダに向かって、そう思うのももっともだといってあげたのでした。

「誤解にこりかたまった、かわいそうなリチャード」私がいいました。「いったいいつになったら自分の迷いから覚めるのでしょう」

「今のところはだめだろうね」とジャーンディスさんは答えるのです。「自分が苦しくなればなるほど、私に対してますます意固地になるのだよ。自分をこんなに苦しめる元兇だと思ってね」

「そんな筋の通らないこと」私は思わず口にしました。

「しょうがないさ。このジャーンディス対ジャーンディス訴訟事件に筋の通ったことなんかあるものか。てっぺんから底まで、始まりから終わりまで ― もっとも終わりがあるかしらねえ ―筋の通らぬ不正なことばかりじゃないか。いつもその事件の周辺でふらふらしている気の毒なリックが、その結果筋の通らない人間になったとしても、しかたないじゃないか。昔からこのかた、野いばらにぶどうの実がなったり、あざみにいちじくのなるためしはないんだから」

 リチャードの話が出るたびに、ジャーンディスさんは彼に対する思いやりを示しましたが、私はそれに心を打たれて、口にする言葉もなくなってしまうほどでした。

「大法官閣下や、大法官閣下代理や、大法官府全部隊のお偉方は、その訴訟人の一人が筋の通らぬ不正なことを申せば、さぞ驚きになることだろうよ」おじさまが言葉を続けました。「こうした法律家のかたがたが、そのかつらにまいた粉からこけばらの花でも咲かせたら、その時はぼくだってびっくり仰天だ」

 急に言葉を切ると、風向きを探るようにちらと窓の方をご覧になりましたが、そのまま私の椅子の背にもたれて、

「そこでだね、話の先を続けよう。このやっかいな暗礁は、時が経って、あるいは、なにか運のよいはずみで消えてなくなるまで、ほうっておかねばなるまい。エイダがそれに乗り上げて難破しないように気をつけてあげなくてはいけない。エイダだって、それにリックだって、これ以上仲たがいして友達を失ったらとてもやりきれないだろう。だから私はウッドコート君にも、そして今は君にも、この話をリックの前では切り出さないでほしいと頼んでいるのだよ。ほうっておきたまえ。そうすれば、来週か、来月か、あるいは来年か、ともかく遅かれ早かれいつかはリックも目が覚めるだろう、私はそれまで待っていればいいのさ」

 でも、私はもうすでにその話をしてしまったのですけれど、と正直に白状しました。どうやらウッドコートさんも、同じことをおっしゃったらしいのです。

「そうウッドコート君もいっていたよ。まあ、いいだろう。彼は彼なりに、君は君なりに苦言をいった。それでもう話はおしまいさ。ところで、私はこれからウッドコート夫人のところへいって来るけれども、あのお母さんをどう思うかね」

 この妙にだしぬけの質問に対して、私は、あの方はとてもいい方です、以前よりずっとお付合いしやすくなりました、と答えました。

「僕も同感だ。前ほど家柄、家柄といわなくなった、ということだろう。モーガン・アプ ― なんとかを、そんなに鼻にぶらさげなくなった。というのだろう」

 ええ、そういう意味です、と私は答えました。もっとも、それをさんざん聞かされたころだって、べつにいやなご親戚だと思っていたわけではありませんけれど。

「でも、まあ、そんなご親戚は故郷の山の中にいてくれたほうがありがたい。まったく僕も同感だ。じゃあ、しばらくウッドコート夫人をこの家にお泊めしておいてもいいだろうね」

 ええそれはもちろんですけど ―

 ですけど、なんだい? というように、ジャーンディスさんは私の顔をご覧になりました。

 私にはなんとも答えられませんでした。ともかく、はっきりと口に出しては申せませんでした。泊まって下さる方がだったらいいのだけれども、というような気持がぼんやりとしていたのですが、なぜそうなのか自分でもわかりませんでした。かりに自分にわかったとしても、とても他人には申せないことでした。

「つまり」とジャーンディスさんはいわれます。「このあたりはウッドコート君にも便利な場所だし、好きなだけお母さんに会いに来られれば、母子ともに喜んでもらえるだろう。それにお母さんは僕たちとも顔なじみだし、君のことは気に入っているのだから」

 ええ、それはその通りなのです。私はそれに反対する理由はありませんし、これ以上のいい考えも浮んでは来ないのです。それなのになんだか気持がすっきり割り切れないのです。エスタ、エスタ、どうしたというの。エスタ、しっかりなさい!

「それはとてもいいお考えですわ。本当にいいお考えですわ」

「本当にそう思うかい」

 ええ、本当に。答える前に私はちょっと考え込みました。なにか義務にかられてそう思うみたいな気がしたからです。でも、大丈夫、心から本当にそう思いました。

「よろしい。ではそう決めよう。異議なく決行しよう」

「ええ、異議なく決行いたしましょう」私はそういうと、仕事を続けました。

 仕事というのはジャーンディスさんの読書テーブルのカバーに、刺繍をすることでした。それは私があの悲しい旅をした前の晩にやりかけたまま、その後手をつけていなかったものでした。それをジャーンディスさんにお見せすると、たいそうきれいだとほめてくださいました。私がその模様とか、これでそのうちずっとひきたちますとか、そんな説明を終えると、またさきほどの話に戻ろうと思いまして、

「いつでしたか、エイダが結婚して私たちの家を去る前に、私たちがウッドコートさんの話をしておりました時に、あの方はまたどこか外国へお仕事においでになるのではないかと思う、とおっしゃっておられましたが、その後なにかご忠告なさいましたか」

「うん、いく度もしたよ」

「外国行きを決心なさいましたか」

「いや、やめたらしいよ」

「じゃあ、なにか別の口が見つかったのですね」

「うん ― まあ ― そうらしいね」とひどくゆるゆるとした口調で、返事をなさいました。「これから半年かそこいら先の話だが、ヨークシャー州のある場所の貧民救護医師の任命が行われるはずなんだ。そこは産業も盛んだし景色もいいし、小川もあれば町もある、都会もあれば田園もある、工場もあれば荒野もあると言った場所で、ああいう人にはもってこいの口だと思うのだよ。ああいう人というのは、つまり、希望や抱負はなみなみならず高い(おそらく大多数の人は皆そうだろうけれども)が、究極のところが世のため人のために奉仕することであるなら、並の平凡な仕事でも充分やりがいがあると思ってくれるような人、という意味さ。奉仕の精神を持った人は、皆高い志を持っているものだろう。しかしその時その時の気まぐれであれこれ手を染めようとしないで、このような道に落ちついて打ち込んでくれる人、これこそ私の好きなタイプ、つまり、ウッドコート君のようなタイプの人間さ」

「それで、ウッドコートさんは任命されるでしょうか」

「さあねえ」おじさんは笑いながら、「僕も予言者ではないから、確かなところはいえないが、たぶん大丈夫だと思うよ。彼の評判はすこぶるいいんだ。それに例の船が難破した時、その地方出身の人がたくさん乗っていたのさ。妙なことだが、結局のところ立派な人間には運が向いて来るんだね。だからといって、それがすてきなポストだと思ってはいけないよ。ごく、ごくありふれた仕事なのだ。労多くして、給料は少ないというわけだが、そのうちきっといいこともあるだろう」

「もしウッドコートさんに決まれば、そこの貧しい人たちは将来きっとよかったと思うことでしょうね」

「その通り。きっとそう思うだろうね」


     3


 私がジャーンディスさんとあのお話し合いを交わして間もなくのある朝、ジャーンディスさんは私に封をした手紙をお渡しになりながら、「これは来月用にね」とおっしゃいました。中には二百ポンド入っていました。

 いまや私は必要と思える支度を内々に整え始めました。私の買物はジャーンディスさんの好み(もちろんそれは私もよく知っていました)に合わせるようにして、衣裳類も気に入っていただけるように揃え、自分でも上首尾にことをはこんだつもりです。私はいっさいを内々にとり行いました。それは、エイダがいくらか悲しむのではないかという懸念に私がまだとらわれていたのと、ジャーンディスさんご自身も、そのことを内々にしておられたからです。どのような形式にもせよ、私たちはきっとごくうちうちだけで、簡素な結婚式を挙げることになるでしょう。たぶんわたしはエイダに、「あしたちょっと私の結婚式に来てみてちょうだい」というだけでよかったでしょう。私たちの結婚式もリチャードとエイダの結婚式のように、飾らない質素なものになることでしょう。そして済んでしまうまで、だれにもなにもいわなくてよいのかもしれません。もし私の思い通りになるのなら、ぜひそうしたいところでした。

 ただ一人の例外はウッドコート様のお母様で、私はジャーンディスさんと結婚します、だいぶ前から婚約していたのです、とお話ししました。お母様は、それはたいへん結構ですね、と本当に心をこめていって下さいました。私たちが初めて知り合ったころにくらべると、今は驚くほどやさしくして下さいました。私のためになることなら、どんな苦労をもいとわずにやって下さいました。もちろんいうまでもありませんが、私もそのご親切を無にしない程度に、できるだけご苦労をかけさせないよう努めたのです。

 もちろん、だからといってジャーンディスさんや、エイダをないがしろにしてよいというわけではありませんでした。それで私にはやる仕事がどっさりありました ― またそれを嬉しく思いました。そして、チャーリーといえば、針仕事となるとどうもはかばかしくゆきません。自分のまわりにどっさり仕事を置いて ― かごにいっぱい、テーブルにもいっぱい山のように ― 実際に手を動かすのは少しで、大部分の時間は大きな丸い目を開いて、これからしなくてはいけない仕事を見つめ、ええ、きっとやってみせるわと自分にいいきかせる ― これがあの子の誇りでもあり、喜びでもありました。

 開廷期もまぢかに迫った頃、ジャーンディスさんはウッドコートさんの用事で、ロンドンを留守にしてヨークシャー州へ出かけました。まえまえからそこへゆかねばならないといっておられたのです。ある晩のこと、エイダの家から帰って来て、私の新しい衣裳にとり巻かれて考え込んでおりました時に、ジャーンディスさんから手紙が届きました。それには、田舎まで来てもらいたい、これこれの駅馬車に席がとってあるから、いついつにロンドンを発つように、と書いてありました。追伸として、そう長いことエイダと別れるわけではないから、と書き添えてありました。

 まさかこんな時に旅行など思ってもいませんでしたが、30分もすれば旅仕度ができましたので、翌朝早く指定の時刻に出発しました。一日じゅう旅を続けましたが、みちみち、どうしてこんな遠くからわざわざ私をお呼び寄せになったのかしら、と一日じゅう考え込んでいました。あのためかしら、このためかしら、といろいろ思いつくのですが、的を射た答えはまるで出て来ないのでした。

 目的地に着くともう夜で、ジャーンディスさんがお迎えに出て下さいました。おかげでとってもほっとしました。なにしろ晩方近くなると、あの方が病気になられたのではあるまいかと心配(手紙がとても短かったので、なおさら心配)になって来たからです。でも、あの方はいかにも元気そうなご様子でいらっしゃる。その晴れやかで穏やかなお顔を見た時私は、ああ、またなにか親切なことをなさっていらしたのだ、と心の中で思いました。そう思うのには、べつだん特に洞察が必要なわけではありません。ジャーンディスさんがここに来られたということが、そもそも親切な行いなのだと、私は知っていたからです。

 宿屋で夕食が出て私たち二人きりで食卓についた時、ジャーンディスさんがおっしゃいました。「どうして私が君をここへ呼び寄せたのか、きっと知りたくてうずうずしているのだろうね」

「ええ、別におじさまが青ひげで、私がファティマーとは思いませんが、私少し知りたい気がします」

「では今晩よく寝られるように、明日を待たず今話そう、私はなんとかしてウッドコート君に、気の毒なジョーに親切にしてくれたことや、私たちの若いいとこたちにいろいろ尽くしてくれたことや、私たち皆に力になってくれたことへの感謝の気持をあらわしたいと思ったのだよ。彼がここに住みつくと決まった時に、しかるべきささやかな、ほんの身を寄せるだけの家を受け取ってもらえたら、という考えが浮かんだのだ。そこでそういったような家を探させたら、てごろな値段で見つかったので、私が彼のために仕上げをして、住めるように手を加えていたのさ。ところが一昨日私がその家を見て廻って、準備万端整ったと報告を受けはしたものの、どうも私は家事のきりまわしになれていないので、万事適当になっているのかどうかわからない。そこで世界一家事に明るい名人を呼んで、忠告や意見を聞かせてもらおうと思った次第。というわけで、ここにその名人がやって来て、泣き笑いをしているのさ」

 だって、あんまりジャーンディスさんが親切で、ご立派で、いい方だったんですもの。私はなんとか自分の思っていることを伝えようとしましたが、おろおろ声になってしまって言葉になりませんでした。

「ほらほら、泣くのおやめ。あんまり考えすぎるからだよ。そらそら、そんなに泣かないで」

「とっても嬉しいからですわ ― 感謝で心がいっぱいだからですわ」

「ともかく、ほめてもらえたのはありがたい。きっとほめてもらえると思っていたんだ。私は荒涼館のかわいらしい主婦を、だしぬけに喜ばせてあげようと思ったのさ」

 私はジャーンディスさんに接吻して、涙を拭きました。「わかっていましたわ、もう!」私がいいました。「さっきからお顔にそう書いてありましたもの」

「まさか。本当にそうかい。たいした読心術の名人だね」

 ジャーンディスさんが妙にうきうきしていらっしゃるので、私はいつまでもうかぬ顔をしてはいられなくなり、そんな顔をしていたのが自分でも恥ずかしくさえなってきました。私は床につくと泣いてしまいました。正直に白状しますが、泣いてしまったのです。でも、それは嬉し泣きだったつもりでおります。もっとも、嬉し泣きだったという確信はあまり持てないのですけれど。私はあのお手紙の一字一句を、二度繰り返して唱えました。

 翌朝は上天気の夏日和でした。朝ご飯の後私たちは腕を組み合って、私が家政上の重大意見を述べることになっている家を見に出かけました。横側の塀についている門を、持っている鍵で開けて中に入ると、花壇がありましたが、私が最初に気づいたことは、花壇の配置が家にある私の花壇とそっくり同じになっていたことです。

「そら、見たまえ」ジャーンディスさんは立ち止まり、嬉しそうな顔をして私の顔つきを眺めていらっしゃいましたが、「あれ以上いいプランが思いつかなかったので、君のを拝借したんだよ」

 美しい小さな果樹園のそばを通ると、さくらんぼが緑色の葉の間に顔をのぞかせ、りんごの木の影が芝生の草とたわむれていました。それから屋敷のところへ来ると、それは田舎の屋敷風の、かわいらしいお人形さんの家みたいでした。でも、とても静かで美しいお屋敷で、まわりには平和な田園の風景が広がり、きらきらと日に光る小川が遠くまで続き、緑の枝がいっぱいに垂れているところがあるかと思うと、ことことと水車が廻っているところもあります。牧場を越えて彼方の活気のある町の方を眺めますと、その手前ではクリケットをやるひとびとのにぎやかな群が見え、白いテントの上には旗がさわやかな西風を受けてひるがえっています。私たちがきれいな部屋を通り抜け、小さな簡素なベランダへ出て、すいかずらやジャスミンの花が咲き匂う、小さな木の柱の並んだ渡り廊下までやって来る間にも、壁紙の模様や家具の色、さまざまな調度類の並べ方などに、やはり私の好みや趣向、私独特のやり方や発明や気まぐれ ― 皆さんがよく笑いながらほめて下さいました ― がどこにもかしこにも顔を出しているのがわかりました。

 これらの美しいものを眺めて、私の感嘆はとても言葉でいいつくせるものではありませんでしたが、ひそかな疑惑が一つだけ私の胸の中に湧いて来たのです。あの方はこれをご覧になって幸せな気持が増すでしょうか。私の姿が目の前に浮かばないほうが、あの方の気持が安らぐのではないかしら。だって、私はとうていあの方がお考えになっていたような女ではないとしても、それでもあの方は私をとても愛していらっしゃるのですから、自分の失ったと思ったものを思い出されたら、悲しい気持になるのではありますまいか。私のことを忘れてほしいとは思いません ― それに、こんなものの助けをかりなくても、あの方はきっと私をお忘れにはなりますまいが ― でしたが、私の前途よりもあの方の前途のほうが、ずっと厳しいつらいものなのですから、あの方さえそれで幸せになれるのでしたら、私は忘れられてもじっとこらえるつもりだったのです。

 ジャーンディスさんは私にこうしたものを見せ、私がすっかり感心するのを眺めながら、今までになく誇らしげに喜んでおられる様子でしたが、「さて、最後にこの屋敷の名前だがね」

「なんという名前なのですか」

「さあ、こっちへ来てごらん」

 これまで避けて通らなかった玄関へ私を案内すると、そこから出る前に足を止めて、

「ねえ、どんな名前か見当つかないかね」

「わかりませんわ」

 玄関から外へ出ると、そこには「荒涼館」と書いているではありませんか。

 ジャーンディスさんは近くの木蔭の椅子へ私を連れてゆくと、私の傍らに腰を下ろし、私の手をとってこうおっしゃるのでした。

「ねえ、これまで私たちの間に起ったことについては、私は心から君の幸せを思ってしたつもりだ。いつか私が君に手紙を書いて、それに返事をもらった時は」といいながら、にこにこ笑って言葉をつがれるのでした、「私は自分勝手なことも考えていたけれども、君のことも考えていたのだよ。事情が違っていたら、君がまだずっと年若だったころ私が抱いていた古い夢を、いつか君を妻にしたいという私の古い夢を私がふたたび心に抱いたかどうか、これはみずから問うまでもあるまい。とにかく、私がその夢をふたたび心に抱いたのは事実だ。そして私は手紙を書いた。そして返事をもらった。私のいうことがわかるかい」

 私は全身が凍るような思いがして、わなわなとふるえました。しかしひとことも言葉を聞き洩らしませんでした。私がじっとジャーンディスさんをの顔を見つめておりますと、木の間をもれて来る柔かい日の光が、その帽子をかぶっていない頭のあたりを照らしていました。まるで天使の後光のように輝いている、と私は感じたのです。

「なにもいわないで、私のいうことを聞いておくれ。今は私がしゃべる番なのだ。私のしたことが本当に君を幸せにするかどうか、と疑いを持ちはじめたのがいつの頃か、そんなことはどうでもよろしい。ウッドコート君が国に帰って来た。じきに私は一点の疑いも持たなくなった」

 私はジャーンディスさんの首にすがりついて、その胸に頭を埋め、さめざめと泣きました。

「そのままじっとしておいで。心配はいらないよ」ジャーンディスさんはやさしく抱き寄せながら、おっしゃいました。「私は今は君の後見人で、父親でもあるのだから、そのまま安心して、じっとしておいで」

 ジャーンディスさんのお言葉は、木の葉のやさしいささやきのように心地よく、うららかなお天気のようにゆったりと、日の光のようにほのぼのと暖かく耳に聞こえました。

「私のいわんとすることをわかっておくれよ。君は献身的で恩を忘れない人なのだから、私といっしょになっても幸せに満足して暮してくれることは、私も疑わなかった。でもだれといっしょになれば、もっと幸せになれるか、私にはわかったのだ。君がまだ気づかない頃に、私が彼の秘密を見破ったのは不思議ではあるまい。私には君のいつまでも変らぬよい気だてが、君よりよく、ずっとわかっていたのだからね。アラン・ウッドコート君は、彼の気持をずっと前から私に打ち明けてくれていた。もっとも私の気持はつい昨日、君がこちらへ来る数時間前にやっと彼に打ち明けたばかりだけれどもね。でも、私は私のエスタの模範的な人徳を隠したくはなかったのだよ。その美点を逐一はっきり知ってもらいたかったのだ。おなさけでモーガン・アプ・ケリグの一族に加えてもらうのはごめんだった。ウェールズじゅうの山だけ黄金を積んでもらっても、ごめんだったよ」

 ジャーンディスさんは話を途切らせると、私の額に接吻なさいました。私はまたしゃくりあげ、さめざめと泣きました。こんなにほめられると、嬉しいようなつらいような、なんとも我慢できないような気持になって来たからです。

「しっ!泣くのはおよし。今日はおめでたい日なんだからね。私は今日のよき日を何ヶ月も前から、楽しみにしていたのだからね」ジャーンディスさんは誇らしげな口調でおっしゃいました。「もう少しで私のいうことはおしまいだよ。私のエスタの真の値打ちを一つ残らず知ってもらおうと決心したので、私は別にウッドコート君のお母さんにも本当のことを打ち明けたのだよ。

『さて、お母さん。私にははっきりわかるのです ― いえ、それどころではなく、はっきり知っているのです ― が、あなたの息子さんはエスタを愛しておられます。そのうえ私は絶対に間違いないと思いますが、エスタもあなたの息子さんを愛しています。しかし義務感からその恋心を犠牲にしようとしているのです。その犠牲の気持がたいへん献身的で徹底しておりますから、お母さんが昼夜通じてエスタを見張っておられても、絶対におわかりになりますまい』

 それから私は私たちの ― つまり君と私についての話を逐一してやった。

『さあ、お母さん、このことを知った上で、家へ来ていっしょに暮して下さい。そして朝から晩まであの子をよーくご覧になって下さい。そしてご覧になっての意見と、あの子のこれこれしかじかの氏素性とを、はかりにかけてくらべて下さい』 ― 私ははっきり、あけすけにいってしまうのが好きだからね ― 『そしてこの点でお考えが決まりましたら、率直な考えを私におっしゃって下さい』と、私はいったのだ。すると、さすがにウェールズの名家の出だけあるねえ」ジャーンディスさんは熱心な口調で叫びました。「君に対して、私にまさるとも劣らぬくらい感心し、気に入って、ほれこんでしまったのだよ」

 ジャーンディスさんは私の頭を起こすと、すがりつく私にいくたびもいくたびも、かつてのように父親らしい慈愛にあふれた接吻をなさいました。これまでよくいたわるような態度をお見せになっていたのが、これで私にはっきりとわかりました。

「最後にもうひとこと。アラン・ウッドコート君が君に心中を打ち明けたのは、私にあらかじめことわって諒承を得てからのことだったのさ。しかし、私は彼をけしかけるようなことはしなかったよ。というのは、きょう君をだしぬけに驚かせてやろうと、大いに楽しみにしていたので、その楽しみがこれっぱかりも減るのはいやだったからだよ。彼は君に会った次第を私に話してくれる約束だった。そしてそのとおり話してくれた。私はもうこれ以上なにもいうことはない。アラン・ウッドコート君は、君のお父さんが亡くなった時、そばでみとってくれた人だ ― お母さんが亡くなった時も、そばでみとってくれた。これが荒涼館。今日この屋敷に私はかわいい主婦を与えるのだ。誓っていうが、今日こそ私の生涯のもっとも嬉しいよき日だ」

 ジャーンディスさんは立ち上がると、私をたすけ起こしました。私たちはもう二人だけではありませんでした。私の夫となる人が私の傍らに立っていたのです。

「アラン」とジャーンディスさんがおっしゃいました。「私の手からすばらしい贈り物を受け取ってくれたまえ。またと得がたい立派な奥さんだ。君もそれにふさわしい立派な男だということは、私もよく知っているから、これ以上君になにもいうことはない。奥さんといっしょにその家庭も受け取ってくれたまえ。この人がそれをどんな家庭にしてくれるか、君はよく知っているはずだね、アラン。これと同じ名前の家を、この人がどんなすばらしい場所にしてくれたか、君はよく知っているはずだね。ときどきは私にもその幸福のおすそわけをしてくれたまえね。え、私がどんな犠牲を払うかだって。いやいや、ぜんぜん犠牲なんか払ってはいないよ」

 ジャーンディスさんはもう一度私に接吻なさいました。それから、いまや目に涙を浮かべながらやさしい口調で、

「エスタ、こんなに長いこといっしょに暮して来たが、やっぱり別れというものはあるものだよ。私の間違いから、君に少々苦労をかけることになったのは、私にもわかっているが、どうか許しておくれ。昔ながらの愛情で私のことを考えておくれ。苦労は忘れておくれ。さあ、アラン、このかわいい人を受け取ってくれたまえ」

 ジャーンディスさんはそういうと、緑の木蔭から立ち去りかけましたが、ひなたに出てから立ち止まると、元気よく私たちの方を振り返って、

「私はそのへんをひと廻りして来るからね。西風になったよ、真西の風だ。これ以上だれも私にお礼などいってはいけない。私はこれからまた元の独身者の生活に戻るのだから。もしこの警告をきかぬ人がいたら、私は逃げ出して、二度と戻って来ないぞ」



この台本を作成にするにあたり、青木雄造・小池滋訳「荒涼館」(ちくま文庫)から多くの引用をさせていただきました。

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