本日も待合室で同年輩の男性のN氏と会話がはずみました。N氏は私より
   ひとつ年上で 、クラリネットは私より2ヶ月早く始められたようですが、
   私より遥かにうまく演奏されます。うまくなる秘訣があるのではと私が
   真剣に尋ねるとN氏は、とにかくよく練習しましたね。最初は迷惑が
   かかると思い、家族が留守の時によく練習しました。午前5時30分に
   起きて、仕事に行く前に練習したこともありました。また車の中でも
   よく練習しました。車の中で練習すると、音が籠るので困りました
   と言われました。
   やがて本日の練習が始まりました。最初に ロングトーンの練習をした
   あと、低いファとミを含んだ音階の練習をしました。先生が先週音を
   出すのに苦労していた私を気遣って下さり、くわえ方とかキーの
   押さえ方を指導して下さったお陰で、低いファとミを含んだエクササイズ
   2つも何とか吹くことができました。私は内心北叟笑みましたが、先生が、
   それでは12ページのファ・シャープの練習をしましょうと言われた時
   には、ぎょっとしました。予習をしていなかったのです。私自身が出す
   のに苦労したので、少なくとも今日のレッスンは次に進まないで低いファ
   とミの音を出す練習をすると思い込んでいたのです。悪いことにファと
   ファ・シャープの音は、左手の親指だけを押さえるか、左手の人差し指
   だけを押さえるかの違いだけで、ぎょっとしたままで固まっているわたし
   にとってはシンプルであるが故に頭の中で深い混淆状態が生じてしまった
   のでした。ファ・シャープの入ったエクササイズをまともにできなかった
   ばかりでなく、課題曲のラヴァーズ・コンチェルトもファの押さえ方が
   どちらかわからなくなり、ほとんど音を出せないでうろたえるばかりと
   なったのでした。ここでも、私に勝手な思い込みがありました。大きな
   古時計を少し吹いてからラヴァーズ・コンチェルトを演奏すると考えて
   いたのです。その上、この曲は8分音符の4連符が10カ所も出てくる
   のも脅威でした。都合6回ラヴァーズ・コンチェルトを練習しましたが、
   最後までまともに吹けず、本日のレッスンは終了となりました。
   私は意気消沈して、しばらく教室に居ました。クラリネットの片付けが
   終わって発とうとする時に先生に、やはり暗譜は必要でしょうかと
   尋ねると先生は、そこまでしなくても楽しんでされればよいと思います。
   先程していたように(吹くのではなく)歌いながら、キーを押さえている
   と自然に演奏できるようになりますからと言われました。

 

 

 

 

 


   エレベータのところに行くとN氏がおられました。N氏は、初めて2ヶ月
   余りでそれくらい吹けるのなら心配することはない。自分は1時間の
   レッスンで物足りない気がするので、今からカラオケ喫茶でクラリネットを
   練習しようと思うのですが、いかがですかと言われました。最初、私はカラ
   オケのBGMに合わせてラヴ・ミー・テンダーやエデンの東を演奏すると
   思ったのですが、個室でクラリネットの練習をするということのようでした。
   大人の男性ふたりが一所懸命にカラオケ喫茶で練習するというのも味わい
   深い、ためになることのようにも思いましたが、もう少しレベルアップして
   からにしますと伝え、N氏に礼を言って別れました。漫画の主人公のように
   両目から滝のように涙を流して、「猛烈に感動している」ということはあり
   ませんでしたが、N氏の心遣いには心底ありがたいことだと思いました。