午後から試合を前に王の側近からルールの説明があった。説明を王妃が聞いて、大川たちに伝えた。
「そうか、時間無制限の三本勝負、10カウントお内でリングに戻れば場外乱闘は認められる。凶器の使用は不可。選手交代はタッチしてから、フォールされたり10カウント以内にリングに戻らなければ負けになる。また関節技を掛けられてギブアップすると負けになる。タッチしたら速やかにタッチされたレスラーに後退しなければならないが、交代時に協力して技を掛けることは可能。レスラーのひとりが闘えなくなってもふたりで闘うことは可能か」
「時間無制限でレスラーのひとりが闘えなくなってもどちらかが二本取るまでは闘いは終わらない」
「リングや観客席はわたしから闘いやすいようにとお願いしてあるわ。マット、ロープ、会場設営など本物のプロレス会場と遜色がないように舞台を作ってくれているから、思う存分に力が発揮できると思うわ。リングの設営もできたし、もう少ししたらお呼びがかかると思うわ」
それを聞くと実土櫓老人はすっくと立ち上がり、声を上擦らせて言った。
「世紀の一戦を前にみんな緊張していることと思う。こういう時は年長者のわしが明るいジョークを言ってみんなを笑わせるといいのだが、この通りわしもいつも以上に緊張しとるんじゃ。みっちゃん、わしの代わりに何か面白いことを言ってくれ」
「何を言っているの。無茶振りはやめてほしいわ。お笑い芸人でないわたしが左から右へと浮かぶ、いや違うわ、あれやこれやとこれも違うわ・・・」
「おばさん、それを言うなら次々とではないんですか」
「プリコちゃん、ありがとう。で、今の面白くなかったかしら」
「大川君、座が白けてしまうから、もうやめようか」
「そんなー、みんなが心をひとつにして頑張ろうという時に面白いことが浮かばなくて、腰砕けのまま試合に臨むのは危険だと思います。そうだ、アラビアンナイトでは意外とおならをしてしまうシーンがよく出て来ます。そこでおなら・おのまとぺをやります」
「それじゃあ、まず君からやってくれないか」
「いいですか、行きますよ。ぷっすーーん」
「まあ、品がない」
「口でいうだけだから、これは許されるだろう。誰か、これから試合に臨むわしたちを鼓舞するような面白いことが言える者はいないのか」
「そんなに言うんだったら、言い出しっぺの実土櫓さん、あなたが飛び切りのギャグを披露してみんなをリラックスさせればいいのよ。このままだと気持ちが高まらないから危ないわ」
「よーし、それならいくぞ。ぷっすぅうぅうううん」
「まあ、嫌だわ。さらに下品だわ」
それまでじっと聞いていた紳士的なフラワーマスクも我慢できなくなって、会話に加わった。
「ぼくにもやらしてください。いいですか、よく聞いて下さい。ぷっぷっぷっ、うーん」
「まあ、とってもセクシーでうっとりするわ」
大川は、なんでやねんと言い、実土櫓老人は、美男は得ねと言ったが、フラワーマスクは三人を和ませた。
「最強の男はギャグでも一流だ。それに大川君とわしはお笑い芸人で大成することがないということがよくわかっただろう。でもリラックスはできた」
「そうね、みんな、さっきと違って明るい顔をしているわ」
「オカワさん、頑張ってください」
「プリコちゃんを救うために精一杯頑張るよ。フラワーマスクさんも気配りが出来る優しい人のようだし」
「おふたりの邪魔にならないように頑張りますよ」
リングの近くの銅鑼が鳴った集合の合図のようだった。
既に観客席には大勢の人が入れられていて、これから繰り広げられる闘いに大いなる期待を寄せていた。大川たちが入場してしばらくして王が一番高いところに座ると、大きな拍手が沸き起こった。宝石が一杯ついた赤い上着を着た王は言った。
「みなのものおもてをあげい」
大川たちは一分間息を止めて笑いを堪えたが、おばは、おほほほほほほと笑ってしまい、王の顰蹙を買った。
「わたしたちは下手人と違うんですと言ってやればよかったわ」
「ところで、みっちゃん、相手レスラーの呼び名を決めといた方が便利だと思うんだ。二倍強い人、力の人、技の人というのは何だか味気ない気がする」
「じゃあ、こんなのはどうかしら。二倍強い人は鰻丼で言うと上になるから松、だからパイン、その次は中で竹だからバンブー、技の人は並だから梅つまりプラムと言うのはどうかしら」
「それがいい。そう言えばパインはパイナップル仮面とも言われる七色仮面に似ている。老人レスラーは怪力で竹のようにしなやかだ。青年レスラーは若いが梅干しのように味わい深い技を掛ける」
パイン、バンブー、プラムがリングに上がるとレフリーから大川たちもリングに上がるようにと指示があった。前回と同様にレフリーを置くことを大川が要請していた。レフリーによるボディチェックが終わると試合開始の銅鑼が鳴った。
最初に出て来たのは青年レスラーのプラムだった。
大川が両手を上げて前に出すとプラムはそれに応じて、力比べが始まった。以外に怪力のプラムにかなわないと判断した大川は、頭突きをすると見せ掛けて相手が手を離した瞬間に腰に手を回して投げた。そうしてすぐに前方回転してプラムのお腹の上に落ちた。
「そうそう、最初は身体を相手にぶつけてリラックスするのがいい。長丁場を切り抜けるためには最初からダメージが強い技を掛けない方がいい」
プラムがロープの反動を利用して身体をぶつけてきたので、大川はそれをまともに受けて転倒した。しかし肩に手をやって身体を反らせて起き直った。ここでプラムは予想していたものと別の行動をした。パインとタッチして交代したのだった。大川はプラムの時と同じようにまず力比べをしようとしたが、パインは目にもとまらぬ早業で大川の足を払って倒し、スモールパッケージホールドで固めた。パインの怪力で固められ大川はどんなに藻掻いても解くことができなかった。実土櫓老人のストンピングも間に合わなかった。
「おしかったね」
赤い上着を着た王はそう言いながらも、未知の世界から来た勇者たちから先に一本取ったことに気を良くして、はっはっはっと笑った。
フォールを取られた大川は肩を落として実土櫓老人とフラワーマスクのところに戻って来た。
「すみません、後がなくなりました」
「なーに、気にすることはないよーん」
実土櫓老人はそう言って、大川をリラックスさせた。フラワーマスクも笑っていたが、真顔に戻ると言った。
「でもあんなに俊敏な動きをするのでは、作戦を立てないと勝てません。次はぼくが言う通りのことをやってもらえませんか」
「もちろんさせてもらうが、どうすればいい」
「大川さんが投げかキックでパインを倒したら、すぐにぼくにタッチして交代してください。そうしておふたりは邪魔が入らないようにバンブーとプラムを場外乱闘に巻き込んでください」
「よし、わかった。じゃあ、大川君はプラムでいいね」
「わかりました」
第二ラウンドの銅鑼が鳴って、大川とパインは組み合った。力の差は歴然で大川はじりじりと後退したが、突然全身の力を抜くとパインはバランスを崩して前につんのめった。それを見て大川は素早く延髄切りで相手を倒した。フラワーマスクが笑顔で手を出したのでタッチした。と同時に実土櫓老人がリングに入り相手コーナーにいるバンブーに飛び掛かって行ったので、大川もプラムにエルボースマッシュをかました。そうして四人はそのまま場外乱闘に移った。フラワーマスクは四人がリングから出たのを見計らって、パインを抱き上げそのままバックドロップでマットに叩きつけた。パインは鋭角的に頭頂部から落ちたのでかなりのダメージがあったが、フラワーマスクはさらにパイルドライバーとヤシの実割りでパインの頭部にダメージを与えた。パインは脳震盪を起こしてしばらく動けなかったが、立ち直ると猛然とフラワーマスクに目掛けて低い姿勢で襲いかかった。
「そうそう、そう来なくっちゃ」
そう言って、フラワーマスクは軽く飛び上がるとパインの腰に手を回してそのまま回転してフォールした。レフリーは場外乱闘のカウントを入れている最中だったが、フラワーマスクがローリング・クラッチ・ホールドで固めるとカウントを取り始め、レフリーはスリーカウントを入れ終わるとフラワーマスクの手を高々と揚げた。
「きゃー、すてきー」とおばは叫んだ。
「おばさんに気に入ってもらえてよかったです」
王はフラワーマスクの切れ味のよい技に魅了されて拍手だけでなく足も鳴らしていたが、敵であることを思い出し、
「こらおもろいわ」
と言い訳のような言葉を洩らした。
フラワーマスクはしばし観衆の黄色い叫び声に応えていたが、それが収まって来ると大川と実土櫓老人に声を掛けた。
「ここまでは予定通りというところでしょうか。後は持久戦の勝負になると思います。スタミナ切れでフォールされるか関節技を掛けられてギブアップするか・・・」
「それしか考えられないの」
「あとは・・・この仙人のような老人があっと驚くような技を披露するかですね」
「そうか、わしの腰を抜かすようなビックリ技を見たいのか。それなら花ちゃんは相手を一度投げたら、わしと交代してくれ。そしたらわしは耐久性という地道な技を彼らに見てもらう」
「耐久性ですか」
「そう、プロレスはお互いの技を見てもらってなんぼのもの。三分間で例えばジャーマン・スープレックスホールドで終わりというのがいかに味気ない闘いかを認識してもらおうと思う」
それを聞くと電光石火の早業でパインをフォールしたフラワーマスクは申し訳なさそうに話した。
「三分間の味気のないやつをしてしまいました」
「いやいや、あれはわれわれのチームワークの勝利だからいいんだよ。わしは三十分ばかり彼らに技を掛けさせるから、横で見ていてくれ」
「でもダメージがあるでしょう。大丈夫ですか」
「それは問題ない。長年鍛えたわしの身体は衝撃吸収マットのようになっている」
「でも関節技は効くでしょう」
「わしの身体は軟体動物のようになっていて、逆エビ固めやサソリ固めはちーっとも痛くない」
「でも四の字固めは効くでしょう」
「四の字固めは手のひらを返すように身体を上下反対にすれば凌げる。とにかく彼らもプロだから、われわれがリングで見せた技をコピーしたくて、いや観客に見せたくてうずうずしていることだろう。それに応えなくてはいかん。そうして花ちゃんに繋ぐのだが、ここで花ちゃんにお願いしたいことがある」
「何なりと言ってください」
フラワーマスクは笑顔で応えた。
「君は華麗な技を立て続けに披露して相手にダメージを与えてフォールに持ち込めそうになったところで、大川君と交代してほしい。王妃に大川君のいいところを見せてあげたいからだ」
「わっかりました。フィニッシュの寸前で大川さんと交代しますよ」
「よろしく頼む」
第三ラウンド開始の銅鑼が鳴ると、フラワーマスクはパインにショートレンジからのドロップキックを浴びせるとコーナーに戻って実土櫓老人にタッチして交代した」
「それじゃあ。ごゆっくりどうぞ」
「うむ」
実土櫓老人はパインをロープに投げて帰って来たところに膝蹴りを入れた。鳩尾に入りパインはしばらく藻掻いていたが、立ち直ると実土櫓老人の足を払い両足を掴んでジャイアントスイングで回し始めた。パインは実土櫓老人を味方のコーナーの方へ投げると、プラムと交代した。プラムは素早く実土櫓老人両足を取って逆エビ固めを掛けたが、実土櫓老人は腕と足を伸ばしてプラムを一回転させた。それでもプラムはもう一度足を取りサソリ固めを掛けたが、今度も敢えなく一回転させられた。懲りずにプラムは四の字固めを掛けたが、実土櫓老人は身体をねじり上下を反対にして難を逃れた。実土櫓老人は逆にアキレス腱固めを仕掛けたが、相手がすぐにギブアップしそうになったので慌てて掛けるのをやめた。実土櫓老人がバンブーとの交代を促すと、プラムは交代した。バンブーはいきなりボディスラムで実土櫓老人をマットに叩きつけたそうしてすぐにギロチンドロップとコーナーポストからのダイビングヘッドバットを3回ずつ行ったが、実土櫓老人にダメージを与えることはできなかった。バンブーはさらに実土櫓老人をヘッドロックに固めてコーナーポストに打ち付けたが、逆に実土櫓老人にバックドロップで落とされた。バンブーは這う這うの体でパインとタッチして交代した。パインは実土櫓老人をロープに投げてフライング・クロスチョップを浴びせた。続けてジャンピング・ニーパットを顔面に入れて、そのすぐ後にキッチンシンクを鳩尾に入れると、実土櫓老人はマットに大の字になった。バンブーはコーナーポストからダイビング・ヘッドバットを3回敢行した。それに続いて、ブレーンバスター、ダブルアーム・スープレックス、アトミックドロップを見舞った。効果がなと見たパインはプラムにタッチしてツープラトンのブレーンバスター、パイルドライバーでダメージを与えようとしたが、実土櫓老人は、わしはまだぴんぴんしとるよと言った。三人はひとりが逆エビ固めをしてふたりが背中にエルボードロップを浴びせたり、ひとりがサソリ固めをして二人がダイビングヘッドバットを敢行したが、実土櫓老人はそれをものともせずにコーナーポストに駆け上がって雄たけびを上げようとしたが、気が変わって、すきにしてーと叫んだ。
何を言ったかわからない観衆は大拍手をしたが、大川とフラワーマスクは笑いを堪えるのに難儀した。そろそろぼくの出番かなとフラワーマスクが言って手を伸ばすと、実土櫓老人はタッチした。
フラワーマスクはパインの両脇に手を差し込むと背中で手を固く握り合わせた。しばらくベアハッグをすると相手がぐったりしたので、そのまま持ち上げて後方に投げた。それからパインを再び持ち上げて肩に担いで高速のエアプレーンスピンで10回回した。フラワーマスクはさらに10回ジャイアントスイング10回回してから、大川と交代した。大川はフラフラになった相手にブレーンバスター、とパイルドライバーを掛けるとパインは堪らず場外に退避した。そして降りたその場からパインが動かないのを見て大川はトップロープを握ってしゃがみ込み、ロープの反動を利用してトップロープを乗り越えた。そして大川は身体ごとパインに体当たりして行った。相手がダメージで動けなくなっているのを大川は確認して、リングに戻った。大川がリング内で立ち上がるとレフリーのカウントが入り、テンが告げられるとレフリーは大川の手を取った。レフリーが大川の手を高々と上げると、リングサイドで見ていた王妃がリングに上がり大川に抱きついた。
「素晴らしいデス。オカワさんのことマスマス好きになりました。チューしてもいいですか」
「ゆるしたらあかん」
と王が突然叫んだ。
「王はああ言っていますが、せっかくなのでみんながみていないところでしましょう」
「こっそりやったらええよ」
赤い上着を着た王はそう言って頷いた。王は立ち上がり玉座を離れてリングに上がった。王は自国の三人の強者の肩を叩いて健闘を讃えると大川、実土櫓老人、フラワーマスクと向かい合った。
「あんたらええからだしとるなあ。まいにちやきにくくわせるからうちのところにこーへんか」
「王は何と言われているのですか」
「破格の扱いで契約したいと言われています」
「それよりわれわれは元の世界に帰してもらえるのかな」
「尋ねてみます」
王妃が王に二番目の願いは受け入れられるのかと尋ねると、赤い上着を着た王は威厳を保ちながら言った。
「がまんして、ちょびっと」
それを聞くと大川はむっとした表情で言った。
「待たされてばっかりだよ。嫌になるなあ」
王妃は首を振って、微笑みながら大川に言った。
「王は、みんなご苦労だった。話を聞こう。誰から話を聞こうかと言われています」
実土櫓老人がにこにこしながら言った。
「では、王妃、わたしが最初に話したいと言ってくれ」
王妃が王にそのことを伝えると王は頷いた。
「まず、既に言ったことの繰り返しになるが、王妃と大川君の結婚は認めてもらえるのかな」
王妃が伝えると王は再び頷いた。
「次に王妃がわしらの世界で暮らすことも認めてもらえるのかな」
王はにっこり笑ってそれにも頷いたが、条件があるようだった。
「王は、ちょっとみみかしてちょうだいと言っています」
「それはわしらが受け入れられることなのかな」
「れんにゅうごはんたべたらおいしいやろなー」
「あなたたちの力と技をわたしたちの力自慢の者に教えてほしい。またそのために定期的に競技会に参加してほしい」
「指導と大会への参加を希望されているのだな。わしと大川君は異存ないが、花ちゃんはどうなのかな」
「ぼくもスケジュールの調整ができれば参加しますよ。強い人と闘うこと、知らない技を掛けられることは格闘技を続けていく上でためになると思いますし」
「それじゃあ、王妃、王に、あなたのご希望を受け入れますと伝えてくれ。詳細については、みっちゃんにも入ってもらって後で話し合いで決めよう」
王妃が王に伝えると王は言った。
「よくやった、ぐらんどすらむだね」
普段ポーカーフェイスのフラワーマスクもおかしかったようで、これには地面をたたいて大笑いした。
次に日の昼にタイムマシンで元の世界に戻してくれることになった。大川、おば、実土櫓老人は乗って来たタイムマシンで、王妃は魔法使いに送ってもらうことになった。フラワーマスクは後の交渉は実土櫓さんに任せますと言って闘いが終わるとすぐに元の世界に戻って行った。
「結局、花ちゃんとわしが定期的にここにやって来ることになったが、花ちゃんの分を少しわしが取ってやろうと思う」
「そうよね、あんまり、フラワーマスクが頻繁にここにやって来るのは危険だわ。何か事故が起こって戻れないようになったら、格闘界の大きな損失になるし」
「いや、わしの操作は間違いない。でも彼は忙しい人間だし、ファンも多い。わしはいくらでも時間があるが、花ちゃんは一分一分が貴重だ」
もう少ししたら、タイムマシンで元の世界に戻るけど、それまで大川君とプリコちゃんはデートしているみたいね」
「王妃は愛する人と自分の国の素晴らしいところを見ておきたかったんじゃないかな。これが見納めで、これからは20世紀の京都で生活しなけりゃならないんだから。大川君はよく頑張ってくれたと言えるだろう。王妃を守ると心に誓ってからは日々精進を怠らなかったので、信じられないような活躍が出来た。大学を卒業してからもしばらくはいざという時い備えて、ジム通いとロードワークを欠かさなかったようだ。お父さんが亡くなってからしばらく練習を休止していたが、愛する人のために練習を再会した。それで全盛時代に近い状態で闘いに臨めたようだ」
「あっ、ふたりが戻って来たわ。大川君が嬉しそうにしているし、プリコちゃんははにかみながらも手を放そうとしない。ほんとにお似合いのカップルだわ」
「わしもあと四十才若かったら、みっちゃんに告白するのだが」
「そうねえ、でもその話はもう少ししてからね」
「うーん、やっぱりそうか。10年経ったらまた持ち出すことにするよ。その時わしは105才になるのだが・・・でもわしがここに来る時は通訳を頼むよ」
「オーケーよ。というのもプリコちゃんを来させるわけに行かないからね。でもまーちゃんもめーちゃんも日本語を勉強すると言っていたわ。ところで、実土櫓さんにお願いがあるんだけれど」
「つき合うのは嫌だけど、お願いがると言うのか。いいよ、みっちゃんと時間を共有できるのだったら、何でもするよ。何かな」
「じゃあ、言うわ。無事に帰れたら、タイムマシンで連れて行ってほしいところがあるの」
「ほう、それはどこなのかな」
「1970年の大阪万博なの。亡くなった主人と出会ったのがこの時のようだけど、いろいろわからないことがあってそれをはっきりとさせたいの」
「その頃、みっちゃんはいくつだった」
「中学生で、好奇心旺盛だったわ」
「その時にご主人と出会ったの?」
「そこのところがはっきりしないのよ。主人はこの時に会ったと言っていたけれど、わたしの記憶には残っていないの。わたしは社会人になって万博公園の日本庭園で主人と出会って親しくなって行ったと記憶しているんだけれど、主人は亡くなるまで知り合ったのは大阪万博開催中だと言っていたの」
「何か秘密がありそうだね。あっ、王がこちらにやってくる。闘った三人のレスラーも一緒だ」
王は濃紺の生地に宝石を施した上着を着ていて、にこにこしながら大川たちに言った。
「つわものどものゆめのあと」
「王妃、王は何と言ったの」
「闘いの後は友人を増やすのがいい。今度いつ来ると言われています」
「そうだなー、花ちゃんの都合を訊かないといけないし・・・」
「なんべんもなんべんもやったって」
「都合がいい時にしてもらえばいいが、ずっと続けてほしいと言われています」
「ふらわーますくはええよ」
「わたしはフラワーマスクのファンだと言われています」
「まあ、彼との交渉は王妃に任せよう。お願いしておくよ」
「はい、わかりました」
「大川君からパイン、バンブー、プラムに言っておくことはないかな」
「さっき彼らにトレーニングの方法を説明しました。効率的に筋力をつける、こと技を磨く方法を喜んで聞いてくれました。また会場設営やルールについても説明しておきましたので、近い将来にこの国で格闘技の大会が開催されると思います」
大川は三人と握手してそれぞれの手を高く上げた。実土櫓老人はそれを温かい目で見ていた。
「そろそろ出発だが、王から別れの言葉があるのかな」
みんなからの視線が集まっているのに気付いた王は少し寂しそうに言った。
「ほたるのひかり」