午後10時に指定された空き地に行くと、実土櫓老人が待っていた。
「どうだった、うまく行ったかい・・・その顔だとうまく行かなかったようだな」
おばが未知郎とのやり取りを実土櫓老人に話すと、実土櫓老人は沈痛な面持ちで話した。
「一番の問題は時間旅行者の心情がよくわからない人が興味本位であれこれ意地悪な質問をしたことだ。たとえ時間が限られていたと言っても、相手の気持ちを理解して丁寧に質問しないといけない。一方方向の質問だけなら、会話が行き詰るのは目に見えてる。大川君は次から注意することだ。みっちゃんも大川君もタイムマシンのシステムや操作についてはわからないだろうし、運用のための規則やタイムマシンを操作する人の心理なんかは考えたこともないだろう」
「そうですね、タイムマシンという観光バスに乗って万博に行くくらいにしか考えませんでした」
「ところが彼らは時空を超えてやって来るんだから、そのことをまず理解してやらないといけない。危険を冒してやって来るのを。新幹線を利用してちょっと東京渋谷の名曲喫茶に行ってきますというわけには行かないんだ。それからふたりで行ったので、大川君ばかりがしゃべるのではなくみっちゃんがもう少し話してあげたら、未知郎君もいらいらしなかっただろう。彼はみっちゃんと話がしたかったんだからね。時間制限があるから大川君が頑張ったんだろうが、せっかくの機会だから昔の伴侶とゆっくり話したいという気持ちをわかってあげないといけなかった」
「昔の傷口をめくってしまっただけだったという感じだわ。このまま放っておいてもいつかは癒えるのかもしれないけど、何とかならないかしら」
「まあ、彼の心が癒されるのを待つしかないだろう。24世紀の住民だから20世紀にいる時に未知郎がどんなことをしていたかわからないし、今何をしているかもわからない」
「でも日本庭園で出会ったところとか、そのあとおばさんと出掛けた思い出の場所なんかに行けば、会って話ができるんじゃないですか」
「それはやめといた方がいいだろう」
「なぜですか」
「お楽しみの最中に割り込まれたら、彼は余計腹を立てるだろう。それでその後のつき合いがなくなってしまう恐れがあるということもあるが、そんなことになるとより深刻な事態になる。後でやったことが残ってしまう。つまり上書きされたものが残ってしまう恐れがある」
「ただ待つしかないんですか」
「何事も切っ掛けがあれば、収集がつくまでは流れていくと思う。事故ですべてが終わったと考えたが、みっちゃんが真相を知りたいと願って行動して、未知郎君が亡くなっていないことがわかった。几帳面な性格でなくても、それで終わりとならないだろう。行動によって後々悔いが残ったとしても、未知郎君は納得できる決着を考えるだろう」
「どんな決着ですか」
「これは未知郎君次第だが、みっちゃんとよりを戻すとか・・・」
「わたしはそれがもちろんベストだけど、他にどんな選択肢が彼にあるの」
「彼が今別の女性と暮らしているのなら、説明しなければならないことをきちんと説明して、そういうことなので悪しからずご了承くださいと言って去っていくことかな」
「まあ、その時は仕方がないから、別れの歌を歌って別れるわ」
「彼につき合っている人がいないなら、彼との生活が再開できるかもしれない。でもそうなるといくつか解決しないといけない問題が出て来る」
「どんなことですか」
「みっちゃんは未知郎君のことをもっと知りたいと思うだろ」
「そうねぇ、彼のことも24世紀がどんな世界なのかも知りたいわね」
「そう、みっちゃんは未知郎君のことだけでなく、その周りのことが気になって来るだろう。そしてみっちゃんが未知郎君に、もっと知りたいわと言うと、いろんなものが奔流となって現代に流れ込んでしまって、大混乱になる恐れがある。それを止めるのが未来から来ている未知郎君になるのだが、どこまで我慢できるか、食い止められるかという問題がある。それに事故で亡くなって葬儀まで済ましている人物がいつの間にか家に帰って来て、夫婦仲よく手を繋いでウインドウショッピングをしているというのは驚天動地の出来事としてマスコミに取り上げられるだろう」
「ということは、ふたりでまた生活したいとなるとわたしが24世紀の人にならないと駄目なのかしら」
「その方が安全と言えるが、みっちゃんを頼りにしている人はたくさんいるだろう」
「そうね、大川君と近く一緒になるとは言え、プリコちゃんはわたしを大川君の次に頼りにしているし、大川君も店の従業員もわたしがいないと困ると思うわ」
「みっちゃん、わしのことも忘れんとって」
「はいはい、それじゃあ、わたしが未知郎さんを説得してここに留まらせて、フラワーマスクでも被ってもらって生活してもらいましょうか」
「うん、わしもそれがいいと思うんじゃ。そうして2代目フラワーマスクとして21世紀の京都で生きるなら、京都洛北格闘サークルに入るのを世話してやろうと思っとるんじゃ」
おばと実土櫓老人は楽しそうに話していたが、傍らにいる大川は沈痛な表情で話を聞いていた。
大川がおば、実土櫓老人と一緒に万博に時間旅行をして数日して、おばがポストに入った朝刊を取るために玄関ドアを開けるとそこにみかん箱ほどの大きさの段ボール箱が置かれてあった。開けてみると中には3Dプリンターでコピーしたアポロ11号のぬいぐるみが20個と手紙が入っていた。日曜日だったので、おばは大川と実土櫓老人に連絡を取り、午後から来てほしいと伝えた。午前10時に一階にある店に下りると王妃が拭き掃除をしていた。
「まあ、プリコちゃん、早いわね。前から言っているけど、お店が午前11時に開店だから、あなたはその30分前に来てもらえばいいのよ」
「はい、わかりました。ご都合がよろしければ、おばさんにちょっとお話ししたいことがあるんです」
「いいわよ、少しだけなら。なあに」
「大川さんから聞いたんですが、時間旅行者の気持ちのことならわたしからお話しできると思うんです」
「そう言えば、大川君やわたしと違って、プリコちゃんの国ではタイムマシンは公認の乗り物として認められていたわね」
「そうです、なので規則というのがありました」
「今回のような場合に適用される規則があったの」
「2禁という規則がありました」
「2禁って、串カツみたいね。どういう規則なの」
「タイムマシンを旅してある人と出会い、その人と生活するか祖国に戻るかの選択はその前にわたしも体験しました。そうしてその規則に付随する規則として、話がややこしくなるから同じことを繰り返すことを禁ずるとなっています。同じことというのは、一度別れた人ともう一度会うこととされていて、もしそんなことをすると終身刑になります」
「やっぱりそういうことに厳しいのね。そういうことだったら未知郎さんの場合、中学生の頃のわたしと再開しているんだから、プリコちゃんのお国では大変なことになるところね」
「そうとも言えますが、記念となるものを取り忘れたのが免責事項になってもう一度だけ会うことを許されるとか、同一人物と気付かれないならこの限りではないというのもありだと思うんです」
「そうか、24世紀の人は自己責任で規則をおおらかに運用していると考えるのも的外れではないのかもしれない」
「でも。未知郎さんの場合は本人が事故で亡くなったことになっていますし、年齢が違うとは言え、おばさんが中学生の時にも会っています。しかも8年間も一緒に暮らしているから、生活を再開するのは難しいかもしれません。でも24世紀の社会でタイムマシンの規則が整備されていれば、二度三度と同じ人と再会しておつき合いしても問題を回避できるかもしれません」
「そうだといいけど、それに24世紀のことがわかるのは未知郎さんだけなんだけど、今のところ音信不通なの。今朝、玄関の前にみかん箱ほどの大きさの箱が置いてあって、3Dコピーされた宇宙船のぬいぐるみと一緒に手紙が入っていたけれど、『ちょっと待っててね』としか書かれていなかった」
「それはいらない心配をしたり、大きすぎる期待をしないように最小限の言葉にしたんだと思います。経緯だけを伝えるにしてもかなりの長さになるでしょうし、思いがきちんと伝わらなかったりしますから。対面して相手の反応を見ながら話をするというのが一番安心して話せると思います」
「よくわかったわ。お昼から大川君と実土櫓さんが来るから、あなたの意見も取り上げてどうすればいいか決めるわ。でも「ちょっと」というのはどれくらいの期間なのかしら」
大川と実土櫓老人は正午少し前におばの店にやって来た。おばは王妃に店番を依頼すると、事務所の奥のソファーに座るようにふたりに言った。
「手紙には『ちょっと待ってて』としか書かれていなかった。待てということだから、何か連絡があるでしょう」
「そのようだが、必ず良い返事がもらえるとは限らない。当局と話し合っていて、結果が出次第連絡をしてくるのだろう」
「「超法規的措置」とか「例外として免責する」というものを考えてもらって、穏便な措置にしてもらえないかしら。そうそう、プリコちゃんがこんなことを言っていたけど、ふたりはどう思う」
おばが王妃の話をふたりに伝えると実土櫓老人は言った。
「そりゃー、お国の規則、法律というものは厳しく取り締まるばかりでないだろうから融通を利かせてもらえるかもしれないが、概ね法律は厳格だからね」
「それじゃあ、よりを戻すのは難しいのかしら」
「よりを戻すのは簡単だろう。お互いの意志が固ければ、でも法律は別問題で、法律上問題があれば厳格に対処し、処罰されたり社会的制裁を受けたりして当事者が大きな不利益を被ることになる。その基準となるのが24世紀の法律ということになるが、それが厳格に適用されるかどうかは未知郎君じゃないとわからない」
「時代が進んでも人間が考えていることは変わらないと思うわ。ここに一組の男女がいて相思相愛の仲なら、ふたりの生活が快適で問題が発生しないように法律が支えてくれるんじゃないのかしら」
「わしが危惧するのはみっちゃんや未知郎君の行動で世界史が塗り替えられることなんだ」
「後世に影響を与えるある人物が居なくなったりある歴史的建造物が壊されたりしたら、後の時代に影響が出る。おばさんや未知郎さんは世界史に名を残す人物ではないと思いますから大丈夫かと・・・」
「いや、みっちゃんはそうではないと言えるが、未知郎君の場合は偉大な人物であるということもありうる」
「そうか、それもそうですね。本当のところは王様であったり芸術家であったり発明家であったりする可能性はありますね」
「とにかく、その辺りのことは本人から聞こう。そう言っていたら、お出ましのようだぞ」
王妃が事務所に入って来て、モスグリーンの背広の紳士がおばに会いたいと言われていますと告げた。おばは、ここに来てもらってと言った。
「みっちゃんは未知郎君とどうしたいのかな」
「もちろん、今日からふたりの生活が再開するのがベストだけれど、難しそうね。時間が掛かったということは未知郎さんがいろいろ骨を折ってくれたんだろうから、それを受け入れることになるかしら」
「でも受け入れられない結果だったらどうする」
「それは・・・駆け落ちしかないわ」
おばが顔を上げると未知郎が事務所の入口のところにいた。未知郎は大川を睨んでいた。
「あら、未知郎さん、どうしたの」
「そこに感じの悪い人がいるから、入りたくない」
「まあまあ、そう言わずにここに掛けてください。彼は幹子さんの甥にあたる大川君ですが、以前お会いした時に言い過ぎたと言っていますので、許してやってください」
「そう言うあなたは親戚ではなさそうだし、幹子とどういう関係なんですか」
「まあ、いろいろあります。わたしはタイムマシンの隊長をしていますので、みっちゃん、いや幹子さんは隊員です。他には幼馴染み、片想いというのがあります」
「幼馴染み、片想いと言っているが、40才近く離れていてそれはないでしょう。話をわかりやすくするために、隊長と隊員の関係と言うことにしてください。ややこしいのは嫌いです」
実土櫓老人がたじたじになっているのを見て、大川は割って入った。
「この前は大変失礼しました。偉そうに質問して不快だったでしょう。ごめんなさい」
「偉そうに質問したから不快だったんではないんだよ。久しぶりに会うことができた、幹子ともう少し話したかったというのがある。公用があって時間がなくなり急いであの場からいなくなったが、幹子ともう少し話したかったのにいちいち話を止められて苛立ちと怒りが湧いて来たのだ」
「未知郎さん、わたしからもあなたが甥っ子の行動で不快になったのなら謝るわ。でも彼も一所懸命に頑張ってくれたのよ」
「それなら、水に流そう。だが今回だけだぞ」
「水に流していただきたい。罰則付きでは話が出来ないですから」
「ねっ、ここのところは負い目なしで腹を割って話をしましょう。じゃないと話が先に進まないわ」
「オーケー、幹子が言っていることは正しいから、これ以上ふたりを弄るのはやめておくよ」
「そうか、われわれはみっちゃんのご主人に弄られていたのか」
「あなた、弄るという言葉はよくないわ」
「じゃあ、どう言ったらいい」
「では実土櫓さんはどう言うのがいいのかな」
「うーんと、そうだ、いちびられていたというのはどうかな」
「それでは品がないし、生々しい気がします。ぼくは、川に流される葉っぱのようだったというのがいいかな」
「おお、メタファー」
「まあまあ、ふたりとも冗談はそのくらいにして、本題に入ったらどうなの」
そう言われると、実土櫓老人は未知郎をじっと見つめて言った。
「では、わしからでいいかな」
「どうぞ何なりと」
「未知郎さんは口調からすると王様や大統領のように思えるが、24世紀ではどんな肩書きだったのかな」
「王です」
「そうなんや、ほんならわしらが子供の頃にようさんホームランを打ってはったよねぇ」
「いいえ、具体的に説明することは法律違反になるので控えますが、将来ずっと先のことですが24世紀にわたしはこの国の王になるんです」
「そうよね、法律に従うとその時ここにどんな国ができているかを説明することはできないでしょうね」
「前の時代の人に先の時代のことを言うと歴史が書き換えられる恐れがあるんです。暗殺の対象になったりする可能性も出て来るんです」
「それは花が咲くのを楽しみにしていたシャクナゲを心無いハイカーに根こそぎ持ち去られるという感じですか」
「おお、メタファー」
「でも人は良識というものを持っているから、善悪の判断はつくはずだわ」
「いや、人間の心というものは案外脆いもので、いろいろな人・ものに影響されるのです。それに大きな組織になればなるほど、個人の力ではどうすることもできないことがよくあるのです。だから後世に影響が出るようなことは漏れてはならないのです」
「王様、芸術家、発明家なんかの言葉は特に大きな影響を与える可能性があるから、未知郎さんが言ったことは、恋愛も含めて市井の人のように歴史に影響しないということはないのですね」
「そういうことなんだ。言葉は悪いが、後の歴史に大きな影響を与えない人ならそれこそご自由のにということになるが、わたしの場合にはそうはいかない。きちんとけじめをつけないと後に大きな影響を及ぼしてしまう。タイムマシンが庶民でも利用できるようになった時に違う時代の人との恋愛は可能かということが検討されたのだが、この時に決めらたことがタイムマシン利用時の鉄則となっていて、今でもその考え方は変わらない」
「長い条文なのかな」
「いいえ、簡単です。まず両者の間に子孫を残さない。2つ目は相手を傷つけない。3つ目は必ず元の時代に戻るというのがあります。それから無闇に周りの人に関係を明かさず、後を濁さずに立ち去ることになっています」
「なるほど、羊の檻に狼を放つと結果が目に見えていますが、猿や犬なら仲良しになって長い間一緒にいられるかもしれません」
「おお、メタファー」
「わたしを猿扱いするのはどうかと思うが、まあそういうところだ。君たちを待たせたのはわたしの希望を当局に受け入れてもらおうとしたかただったが、残念ながら認められなかった」
「どんな希望なの。もう一度やり直したいと言ったの。それとも・・・」
「最初から、つまり日本庭園での出会いからというのは大切な思い出をすべて消去してしまうことになるからこれはできない」
「それじゃあ、亡くなったことになっている未知郎さんが実はいきていたと公言して、何事もなかったように続けるのね」
「そうか、そうすると今まで美味しい果実を実らせている樹木に異なる種類の美味しい果実を実らせる樹木を接木してより濃厚で味わったことのないミックスジュースのような果実がなる樹木にすることですね」
「おお、メタファー」
「濃厚とは言えないが、楽しい生活は予測できる。ただまた幹子と暮らすことになると法律違反になる。そうなると民衆からの王に対する信頼がなくなって、逆に味わったことがないような砂を噛むような人生が待っているかもしれない」
「生活が再開できたら、砂を噛むような生活をさせないつもりよ」
「わたしもそう願っている。今のところわたしの国は父親が統治しているのだが、世襲制なので王が崩御すれば間髪入れずにわたしが後を継ぐことになる。その時に幹子と離れられない仲になっていたら、国事が遂行できないので継承を放棄するしかない」
「他に候補はいるの」
「兄弟はいるが、継承順位一位のわたしが継げないとなると歴史が大きく変わってしまう」
「そうすると、ムカデ競走の先頭の人が突然いなくなったみたいに一致団結して進めなくなりますね」
「おお、メタファー」
「そう、君が言う通りだ。そしてそうなると国の舵を取る人がすぐに決まらず、国の政(まつりごと)に大きな支障が出て来るだろう。それよりもわたしが王を継がないとなると、24世紀以降の歴史が大きく変わってしまう。そういうことで幹子と再会したしたが、前のような生活を再開した方がよいのか、幹子と生活したことは大切な思い出として取っておくのがいいのか迷っている」
「後になって、記念になるものを残しておこうと思って、中学生のみっちゃんに会いにタイムマシンで行くというのは心残りがある証拠かもしれない」
「その通りだ。わたしは今でも幹子を愛している。でもわたしの国を衰退させることはできないし、またタイムマシンの規則を犯して取り返しがつかなくなるようなことはしたくない」
実土櫓老人は王の話を聞いて腕を組んで考え込んでいたが、名案を思いついたようで大川にプリコちゃんを呼んで来てくれと言った。
王妃は大川と手を繋いで事務所に入ると実土櫓老人に言った、
「オカワさんから急ぎの用事があるからと聞きましたが、なんでしょうか。お役に立てるなら、何なりと言ってください」
「王妃も日本語が上手になった。未知郎さん、紹介しよう。こちら16世紀の中東の国からタイムマシンでやって来た王妃だ」
未知郎は最初当惑していたが、王妃が、エンリョシナイデと言うと表情を和らげた。
「王妃が乗って来たのは、言わば初期の頃の乗り物タイプのアナログのタイムマシンで、未知郎さんが使っている携帯タイプの最新式のものと異なっている。だが初期でアナログと言っても時代を行き来できるタイムマシンに変わりはない。未知郎さんも先人の知恵には敬意を払われると思うのだが」
「あなたがおっしゃる通りです。わたしが生活している800年前にタイムマシンがあったというのは驚異です。それにそんな昔にマシンの取り扱いが出来た人は尊敬に値します」
おばがここからはわたしが説明するわと言って前に出た。
「王妃、わたしはこの子のことをプリコちゃんと呼んでいるけど、彼女は16世紀の中東の国からこの時代にやって来てすぐ甥っ子と親しくなり、わたしのところにやって来たの」
「さっきから中東の国と言っているが、言葉は通じたのか」
「甥っ子は中東の言葉がわからなかったから身振り手振りで意思疎通しようとしたけど、わたしは若い頃に中東を旅したことがあるから、プリコちゃんの話す内容が少しわかったの。そうしてわたしのお店で働くようになったんだけど、いつしかふたりの間に恋愛感情が芽生えて、プリコちゃんは甥っ子と結婚したいと言い出したの」
「ふぅむ、もうひとつの時空を超えての恋愛か」
「そういうことなの。でもあなたと同じように規則と抵触するところがあったの。タイムマシンの乗組員は同じ行動をしなければならないという規則があって、プリコちゃんは辛い思いをした」
「そうだろうか、後の時代に影響がなければ、別々に行動しても問題ないと思うが」
「でもプリコちゃんが規則で決まっていると言ったので、交渉のためタイムマシンでプリコちゃんの時代まで出掛けたの」
「乗り物タイプのタイムマシンだと言っていたけど、誰が操作したのかな」
「プリコちゃんを連れて来た魔法使いから実土櫓さんが操作方法を教習してもらって、タイムマシンを操作できるようになったの。こういう人も時間旅行者と呼ぶのよね」
「そうだね、習得して使えるようになったんだから、実土櫓さんも時間旅行者と言える。そうして王妃の時代に交渉しに行ったのか。どんな王だった」
「未知郎さんと違って、16世紀の中東の王で思い浮かべる通りの人だったわ」
「交渉はうまく行ったのか」
「王が闘いに勝ったら希望を叶えようと言ってくれて、みんなで頑張ったの。甥っ子も実土櫓さんもフラワーマスクも」
「フラワーマスクってなんだ」
「6人タッグでプロレスの試合をしたんだけど、その時の助っ人よ」
「試合で勝って、晴れてふたりの結婚が認められたわけなんだね」
が
「それにその後も王との交流は続いていて、甥っ子と実土櫓さんはプリコちゃんの故郷を月に一度は訪ねているの」
「どんな交流なのかな」
「王はプロレスの試合を見て熱狂的な格闘技ファンになったみたい。王の希望で、たまに大川君の代わりにフラワーマスクが行くこともある」
「フラワーマスクは格闘家なんだね」
「そう、最強の格闘家で、最高の指導者とも言えるわ」
実土櫓老人が自分の方を見ていることに気付いて、未知郎は言った。
「だいたいのことはわかったが、わたしは何をすればいいのか」
「今からあなたと大川君とみっちゃんとわたしがその王に会いに行く。そうしてそこであなたが王に人生相談に乗ってもらって、その結果をあなたが受け入れてほしいと言うことなんだが、いかがでしょうか」
「なるほど、その王はわれわれが考えつかない素晴らしい解決策を考えてくれると言うことなんだね」
「実土櫓さん、わたしがそんな大事な交渉で通訳をして、誤訳があったら困るんじゃないの」
「でもタイムマシンには三人しか乗られないし、プリコちゃんは元の世界に戻ることはできないことになっている。大川君と三人で頑張るしかない。それにフラワーマスクは王のお気に入りなので、同席してもらうつもりだ。さっき魔法使いがタイムマシンで連れて来たから」
「彼が同席したら、王も和んで相談ごとがうまく行くでしょう」
「じゃあ、未知郎さん、それでいいかな」
「もちろん、いいですよ。行きましょう」