大川、おば、実土櫓老人それから未知郎はタイムマシンが到着すると、宮殿に行き王との面会を求めた。しばらくすると以前おばの店で働いていた魔法使いが出て来た。

「オヒサシブリデス。オゲンキデスカ」

「あら、まーちゃんじゃないの。あなた出世したのね」

「オウサマニコウイヲモッテイタダイテ、アナタガタガコラレタトキニタイオウスルヨウニナッテイマス、ナニカゴヨウデスカ」

「王との面会をお願いしたいの。それとその席にフラワーマスクも同席してほしいの」

「ワカリマシタ。シバラクオマチクダサイ」

 四人はそこで少し待っていると、魔法使いが四人に伝言を持って来た。最近突貫工事で新設された施設にフラワーマスクがいるから、そこで話をしようと王が言っていると。

 魔法使いにその施設を案内されてしばらく待っていると、王妃の召使だった下僕がやって来た。

「めーちゃんはここで働いているのね」

「ソウデスフラワーマスクサントハナシガデキルノデ、ツカッテモラッテイマス」

「今ここに来ているフラワーマスクと話がしたいんだが、できるかな」

「チョットマッテクダサイ」

 しばらくするとトレーニングウエア姿のフラワーマスクがやって来た。

「ご無沙汰しています。その節はお世話になりました。国王も来られていますが、何かあるのですか。実土櫓さんとタッグで対戦するならいつでもオーケーですよ」

「いや、そうじゃないんだ。王に相談したいことがあると申し入れたら、フラワーマスクにも同席してもらおうということになったんだ」

 五人で話していると、王が貴賓席に来るようにと言った。王はフラワーマスクに笑いかけた後、実土櫓老人に厳格な表情で言った。

「なげたらあかんよ」

「みっちゃん、王は今何と言ったのかなぁ」

「今のは王が収集した言葉で、簡単なアラビア語ではないからわたしには通訳不可能だわ」

「それを聞いて、フラワーマスクは言った。

「王は、みんなで頭を絞って考えようと言われています。でも何を考えるのかな」

 実土櫓老人はフラワーマスクに今までの経緯を説明した。

「そうですか、ぼくはただタイムマシンという乗り物を利用させてもらっているだけだけれど、それを利用して別の時代に行って恋愛が発展するといろいろ難しい問題が出て来るんですね」

 おばと召使が通訳して王に伝えていたが、王は突然立ち上がって未知郎に言った。

「あんた、すかんひと」

「と言うことは、今から王と未知郎君が闘うのかな」

「いいえ、普通の人なら感情を表に出して、例えば桜が満開の円山公園のようなところに行くと喜びを表したり、自分の一つ前で整理券がなくなりマグロ食べ放題のチケットをもらいそびれた人のように怒ったり、大学4年間一緒に過ごした親友が卒業後に海外に留学することになり自分は留年することになったのを哀しんだり、ゴミ置き場にMSXパソコンと麻雀ゲームのカートリッジとブラウン管テレビが捨ててあるのを見ると持って帰って当分遊べるぞと楽しい気分になったりするのですが、未知郎さんの場合、一見して彼が何を考えているのかわからないということを王は言っているのだとと思います」

 大川がフラワーマスクを見たので、フラワーマスクは言った。

「だいたい大川さんが言われた通りです」

「そう、大川君が言ったようなことを王は言われているのだが、未知郎さん、王に相談するんだったら、もう少し態度を改めないといけない」

「わたしも王だから、ペコペコしたくない。だが、別の時代に来て諍いを起こすのもどうかと思う。フラワーマスクさん、あならならどうします」

「そうですね、公平な条件の下で闘ってその勝敗を受け入れればいいと思います。勝てば自分の主張を通す、負けたら妥協して一般的な意見を尊重するとか・・・」

「となると自分の主張と一般的な意見をそれぞれどうするか誰と誰がどういう闘いをするかが問題となるが、王はどうするのがいいと思っているのだろう」

「ほんでもあかんかったら、やめときや」

「今、王が言われたのは、言い出しっぺとフラワーマスク、つまりわたしとですが、が闘うのがいい。未知郎さんが勝ったら、ふたりで駆け落ちしてひっそり暮らせばいい。彼が負けたら、法律に違反しない程度にこれからもふたりでデートすればよいといったことです」

「そうなんですね、勝てばそこそこの喜びで満足するのではなく、駆け落ちしてこっそりと愛欲にまみれた、いや言いすぎました、愛に溢れた生活を営む。残念ながら負けてしまった場合には、法律に従って、限られた範囲内でおつき合いを続けていくと言うのが王の解決策なんですね」

「みっちゃんも五十才を過ぎたし、未知郎さんも同年齢だから、今更愛欲にまみれた生活はできないと思うが、王が決めたんだから後戻りはできないな」

 未知郎は王に一礼して言った」

「わたしもわざわざ解決方法を考えてくださったので、そのようにして解決するのがいいと思います」

「おばさんはどう思われます。大人と子供の対決の結果を受け入れるのを」

「愛する人のために死に物狂いで闘う男性の姿は美しいわ。今までは未知郎さんのクールな横顔しか見たことがないから、額に汗して奮闘する姿をしっかり目に焼き付けたいわ」

「みっちゃんがああ言って応援するのだから、未知郎さんは悔いのないよう精一杯頑張るといい。ただあまり無理をしないように。フラワーマスクはわれわれの時代で最強の男だから。ところで24世紀にプロレスはあるのかな」

「格闘技はいつの時代にもありますし、わたしも護身のためのトレーニングはいつもしています。フラワーマスクさんに勝つ自信はあります」

「じゃあ、新しくできたこのリングを使わせてもらおう。時間無制限でどちらかのギブアップで勝負が決まることにしよう」


 試合が始まって30分経過したが、ふたりが組み合うことはなく、未知郎は逃げ回り時にフラワーマスクの隙を見て頭突きをかますという展開で試合は進行した。大川は言った。

「ヘッドバットをフラワーマスクが食らうたびにおばは大喜びですが、ダメージがまったくないので半日やっていても決着がつかないでしょう。こんな退屈な試合では怒りそうですが」

「てかげんせんとって」

「もう少し未知郎君が頭突き以外の技を掛けないという状況が続くと、王は激怒するだろう。セコンドのみっちゃんからそのことを伝えてもらおう」

 実土櫓老人がおばに耳打ちすると、おばは叫んだ。

「あなた、この闘いは一世一代の大勝負なのよ。逃げ回ってばかりじゃなくて、いいところを見せてよ」

 おばの叱咤激励を聞くと未知郎は頷き、身軽な彼はロープの際をくるくると回転してフラワーマスクの攻撃をかわした。そうしてロープを駆け上がりトップロープを綱渡りのようにしてコーナーポストまで行ったかと思うとそこからバク転して月面宙返りをして頭からフラワーマスクに突っ込んで行った。

「ぐえっ」

 大きな衝撃を受けたフラワーマスクはそのまま仰向けに倒れて動かなかった。意外な展開に王は拍手だけでなく足で床を踏み鳴らして大喜びだったが、突然それをやめたので王が見つめる先に皆の視線が集まった。見つめた先では、未知郎がフラワーマスクを抱き起して身体を揺すっていた。

「このまま王の裁定を受け入れると、幹子とわたしの駆け落ちが決まってしまいます。王が他の時代の女性と駆け落ちするというのはロマンチックかもしれませんが受け入れることは憚られます。というのはわたしは近い将来に国を統治しなければならないからです。どうかもう一度ファイティングポーズをとって、わたしと闘ってください」

 実土櫓老人はあんぐりと口を開いてふたりを見ていたが、ズボンのポケットをまさぐるとなぜか携帯用で伸縮自在の孫の手が手で来たので、それでフラワーマスクの足の裏をくすぐってみた。

「はははははははは、油断してしまいました。レフリーがまだ相手の勝ちを認めていないので、闘いを続けます」

 フラワーマスクは立ち上がると、ブレーンバスターとバックドロップで相手を朦朧とさせた。四の字固めを掛けると、未知郎はしばらくもがいていたがギブアップと言った。

「わしはなっとくせえへんよ」 

 王はそう言ったが、リング上のふたりが互いの手を取って上げると、観客席の大川、おば、実土櫓老人は大きな拍手をした後でほっと一息ついた。

 王はこれから宴会をしようと言ったが、実土櫓老人は言った。

「恐らく王は、もっと闘いを見たいと言うだろうが、今の技をもう一度未知郎君に望むのは酷だ。それにダメージが大きくて闘えない」

 それを聞いて未知郎は言った。

「そうですね。その前と同じように逃げ回ることならできますが」

「ここは王の信頼を得ているフラワーマスクに後のことを任せて、タイムマシンに乗ろう。後のことを任せていいかな」

 実土櫓老人の要請にフラワーマスクは笑顔で回答した。

「ええ、王には、実土櫓老人が急ぎの用事があるので帰ると言っていたと言いますよ。わたしも幹子さんと未知郎さんは駆け落ちするより年に一度くらい会って旧交を温めるくらいがいいと思いますし、王のおかげで良い解決が出来たと思います」

「それじゃあ、よろしく」

 フラワーマスクが赤い上着を着た王に、四人は急ぎの用事があるので帰ると言っていると伝えると王は残念そうに、ほたるのひかりと言った。


 その後、幹子と未知郎のつき合いは幹子が60才になるまで続いたが、それ以後は未知郎が国事に専念したいと言ったので未知郎が幹子のところへやって来ることはなくなった。大川と王妃との間には男の子ふたりと女の子ひとりが生まれたが、大川の家族がおばの家の近くに住んだのでおばはしばしば甥の子供と遊ぶために大川の住まいを訪れた。実土櫓老人とフラワーマスクは年に数回は16世紀の中東の王を訪ねて親善試合で闘ったが、王が、てかげんせんとってとかなっとくせえへんよと言うとふたりが遮二無二頑張るので王は退屈して来るとふたりに大声で呼び掛けたと言われている。