ストラヴィンスキー●バレエ音楽「春の祭典」
一頃、オーディオ・チェック用のレコードとしてもてはやされたが、今でも、この曲の斬新なリズム、不協和音、
楽器の特殊な扱い方は、他の曲をはるかに凌ぐ。今から17〜20年前には、ショルティ、C・ディヴィス、ドラ
ティ、フェドセーエフ、マゼール、メータ、アバドと当時売れっ子の指揮者たちがこの曲を録音し、録音の完成度
を競った。しかし、果して、楽器の音が必要以上に生々しく、本来の音と違って聞こえることに意味があるのだろ
うか。携帯ラジオから聞こえてくるクライスラーの小品に思わず耳を傾けることもあるだろうし、雨の音のように
ザーザー聞こえるノイズの中からカザルスの演奏する「夕星の歌」が聞こえてくると感動するであろう。もちろん
音楽にはいろいろな楽しみ方があるのだから、録音のよいものを最高級のオーディオ装置で聴くのも一つの聴き
方かもしれない。しかし、私は、演奏自体が完成度の高いものであれば、古くても、モノラルであっても、ライヴ
であっても、聴いてみたいと思う。愛聴盤は、M・T・トーマスがボストン交響楽団を指揮したもの。ブーレーズ
のレコードや当時のFM放送で様々な「春の祭典」を聴いたが、このレコードが一番肌に合うようである。