チャイコフスキー●序曲「1812年」作品49
 
大学時代、私は、貧乏学生でオーディオに凝ることはできなかったが、友人の知り合いが、オーディオに凝ってい

ると聴き、そのオーディオ・マニアの人の下宿を訪ねたことがある。その彼が、その頃熱心だったのが、この曲の

テラーク盤をトレースすることだった。まず、彼は、そのレコードを取り出し、レコードの溝を見るように言った。

その曲がりくねった溝を見て、果してこんなレコードを針飛びせずに、最後まで聴かせてくれるプレーヤーがあ

るとしたら、どんなのだろうかと思った。そう思っていると、これだと針は飛ばないと言って、プレーヤーを見せ

てくれた。アームの部分が、蛇が蛇行しているような形をしているプレーヤーだった。残念ながら、このレコード

をかけると近所迷惑になるからと言って、実際トレースできるのか確認できなかったが、一枚のレコードを聴くた

めに、大金を使う人もいるんだなと、感心したことを覚えている。今、私の手元には、このカンゼル指揮シンシナ

ティ交響楽団のレコードはあるが、このレコードを聴くことができるプレーヤーはない。一度、今、持っているプ

レーヤーで聴いてみたが、最初の大砲の音で隣の隣の溝に飛び、その繰り返しで、あっという間に終わってしまっ

た。

                        戻 る