バッハ●無伴奏チェロ組曲全曲
カザルスが13才の時、偶然にこの無伴奏チェロ組曲全集の楽譜を見つけ、当時全曲を完全なかたちで演奏される
ことがなかった曲を非常な熱意を持って聴衆に紹介した。現在聴くことができるのは、カザルスが60〜63才の
時に録音したレコードである。カザルスは、この後この曲を録音していない。カザルスのレコードを聴く時にいつ
も思うのは、彼が20年後に生まれていたらということである。LP初期にもカザルスは録音しているが、やはり
全盛時代は1930年代以前である。私は、1910年代や1920年代のカザルスの演奏を聴いたことがあるが、
堂々とした、魅力あふれるすばらしい演奏だった。このレコードが録音された、1930年代後半はSPレコード
の全盛時代で、やはり音が良くないので満足できない。カザルスのこの曲に対する情熱が強く心をとらえるだけ
に、間にもやもやしたものがあると消化不良になってしまう気がする。解決法はやはりオリジナルに近い音の良い
レコードを入手することだろう。カザルスは、この曲集に出会ったことを天啓と思い、バッハをはじめクラシック
音楽を深く研究するようになる。一冊の楽譜をたまたま見つけたことが人生の方向づけをした。非常に幸運な出会
いだったと言える。