ベートーヴェン●ピアノ・ソナタ第4番変ホ長調作品7
 
ベートーヴェンは生涯で32曲のピアノ・ソナタを作曲しており、一時期に集中することなく、芸術性の高い作品

を残している。初期のピアノ・ソナタで代表的な曲といえば、この第4番である。全体的に明るく美しい旋律が泉

のごとく涌き出る感じである。ベートーヴェンのピアノ・ソナタは三大ソナタに代表されるように、陰影の濃い作

品がほとんどであるが、この曲は田園ソナタと共に例外と言える。このソナタは若々しい女性の姿を描いた作品と

言われている。第1楽章は躍動する若い女性を連想させ、第2楽章は若い女性の逡巡と決意、第3楽章は一段と美

しくなったその女性が語りかける様子、終楽章は心を開いた女性の幸福な未来。そうした生き生きとした、若い女

性の自然な姿を見事に描いているように思える。ベネデッティ=ミケランジェリの演奏がすばらしい。彼は完全主

義者で、コンサートはキャンセル魔だった。そんな彼が残しているレコードは、あまり多くない。ドビュッシーや

ショパンの作品集が録音されているが、私が最も好きなのはこのレコードである。ミケランジェリのやさしいタッ

チは、特にピアノがきらきらと輝かしい音を出すとき、最高に美しくなる。まるで美しい女性がにっこりと微笑ん

でいるようだ。

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