を残している。初期のピアノ・ソナタで代表的な曲といえば、この第4番である。全体的に明るく美しい旋律が泉
のごとく涌き出る感じである。ベートーヴェンのピアノ・ソナタは三大ソナタに代表されるように、陰影の濃い作
品がほとんどであるが、この曲は田園ソナタと共に例外と言える。このソナタは若々しい女性の姿を描いた作品と
言われている。第1楽章は躍動する若い女性を連想させ、第2楽章は若い女性の逡巡と決意、第3楽章は一段と美
しくなったその女性が語りかける様子、終楽章は心を開いた女性の幸福な未来。そうした生き生きとした、若い女
性の自然な姿を見事に描いているように思える。ベネデッティ=ミケランジェリの演奏がすばらしい。彼は完全主
義者で、コンサートはキャンセル魔だった。そんな彼が残しているレコードは、あまり多くない。ドビュッシーや
ショパンの作品集が録音されているが、私が最も好きなのはこのレコードである。ミケランジェリのやさしいタッ
チは、特にピアノがきらきらと輝かしい音を出すとき、最高に美しくなる。まるで美しい女性がにっこりと微笑ん
でいるようだ。