ベートーヴェン●ピアノ・ソナタ第八番ハ短調作品一三「悲愴」
三大ソナタの一つであり、第2楽章の旋律はよく知られている。この曲に「悲愴」という標題があるが、ベートー
ヴェンのピアノ・ソナタは標題の付いたものが多い。葬送(12)、月光(14)、田園(15)、テンペスト
(17)、ワルトシュタイン(21)、熱情(23)、告別(26)、ハンマークラヴィーア(29)。これらの
標題のおかげで、曲のイメージを作り上げることができる。初めて聴く人にも、「月光」といえば波のない湖に映
る美しい月を描いたもの、「田園」といえばのどかな田園風景を描いたもの、「熱情」といえば情熱が極まって非
常に熱くなった状態という漠然とした予備知識を持つことによって、迷わずにイメージをふくらますことができる。
ただ、この悲愴のイメージはどうであろうか。私は、月光、田園、熱情に比べイメージがふくらませにくく、悲愴
というほど悲愴でないような気がする。三大ソナタ集として多くのピアニストがレコードを残しているが、三大ソ
ナタ集の名盤であり、この曲の名演が聴けるゼルキンのレコードが愛聴盤である。地味で感情の起伏が少ない演奏
だが、何度聴いても飽きの来ない、味わい深い演奏である。