ベートーヴェン●ピアノ・ソナタ第14番ハ短調作品27ー2「月光」
 
月を見るのが好きである。中秋の名月もすばらしいが、冬の夜、澄み渡った空の地平線近くに見える新月に限りな

く近い月も美しい。満月の頃望遠鏡で見ると、月面の模様は色んなものに見える。うさぎの餅つき、立ちあがる獅

子、片方のハサミだけ大きいカニ、女性の横顔等に見えて楽しい。半月の時は、クレーターが美しい。コペルニク

ス、アリスタルコス、アリストテレス等のクレーターは望遠鏡で実際に見ていると、月に吸い寄せられて行くよう

だ。皆既月食の月も望遠鏡で見た。螢石を加工したレンズの望遠鏡で見ると、肉眼で見るより明るく見え、ぼんや

りと赤っぽい黄色の月を見ることができた。月光ソナタの月のイメージは湖の水面に映る満月、空は澄み渡り、あ

たりは静寂、波はほんの少し湖面をゆらす、そんな情景を想像する。月光ソナタはピアノの大家が名演を多く残し

ているが、私は、グルダの演奏をよく聴く。モノトーンの風景を想像しがちになるこの曲を、グルダが演奏すると、

月は黄色く、湖面は少し紫色がかって見えて来る。グルダの新鮮な解釈は、古典に彩りを添え、一段と美しいもの

にしている。

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