ベートーヴェン●ピアノ・ソナタ第21番ハ長調作品53「ワルトシュタイン」
ベートーヴェンの後援者であった、ワルトシュタイン伯爵に捧げられたピアノ・ソナタである。ベートーヴェンの
曲には、「大公」をはじめ、曲を献呈した人名など(大公はルドルフ大公のこと)を標題にしている曲がいくつか
ある。ラズモフスキー(ロシア大使)、クロイツェル(フランスのヴァイオリンの大家)とこの曲がある。曲のイ
メージは、当人と何ら関係が無いようであるが、気に入られるようにと骨を折ったことは疑いを入れない。この曲
も、ゆったりとした哀愁のある第2楽章をはさんで、第1楽章と終楽章は泉のごとく美しい旋律がわき出るような
感じで本当にすばらしい。こういう曲を贈られた人の気持ちはどんなだろうか。私なら、好きなものを持っていっ
ていいよ、君と僕とは永遠の親友だからと言いたいところだ。バックハウスが演奏したレコードを愛聴している。
鍵盤の獅子王と言われ、ダイナミックで風格のある演奏をした。ベームと共演したブラームスのピアノ協奏曲第2
番が、その代表的なものである。「ワルトシュタイン」の演奏は、力強さや大家の風格はあまりなく、淡々と古典
をひいているといった感じである。それがかえって、この華やかな曲を耽美に浸ることなく、抑制の効いたものに
している。