ベートーヴェン●ピアノ・ソナタ第26番変ホ長調作品81a「告別」
ベートーヴェンは、この曲の3つの楽章に、告別・不在・再会という標題を付けている。フランス軍のウィーン進
駐で、友人であるルドルフ大公がウィーンを去り、落ち着きを取り戻した頃に再会した、その過程をその都度各楽
章に作曲したと言われる。この曲の標題の「告別」だけを見ると、一時的あるいは永遠の別れの曲と思われる。と
ころが、終楽章の再会の大きな喜びを表現するような旋律を聴くと、別れの悲しみだけの曲でないことがよくわか
る。この曲も、ベートーヴェンの曲によくある苦悩を突き抜けて歓喜に至るという構成の曲の一つと言える。ゼル
キンの75才の誕生日を記念して制作された、ルドルフ・ゼルキン・オン・テレビジョンというレコードの中のこ
の曲をよく聴く。このレコードには他に、シューベルト、ピアノ・ソナタ第21番の名演もあり、充実したものに
なっている。レコード・ファンの私は、映像は曲目自体のイマジネーションを大きくふくらませるのに不要と思う
が、演奏していた時の容貌とか動作には非常に興味がある。このコンサートの模様のビデオが販売されているかど
うかは詳らかでないが、75才にして矍鑠と完璧にピアノの生演奏をするゼルキンを見ると、励まされる人は多い
だろう。