ベートーヴェン●ピアノ・ソナタ第32番ハ短調作品111
神戸の中古レコード店の店主阪口昭夫さんは、学生時代にカラヤン指揮ウィーン・フィルのブラームス、ドイツ・
レクイエムのレコードを購入し、夕方から夜中の2時まで2回半夢中になって聴いたという。その頃はSP盤
(10枚)でレコードを何度も取りかえるのが面倒であったろうに、家族からええかげんに寝なさいと言われるまで、
聴き惚れていたそうだ。私の場合、阪口さんほどクラシック音楽に対しての情熱がないためか、深夜に至るまで
一つの曲を聴き続けたことはない。しかし、この曲を初めてグルダの演奏で聴いた時、3回続けて聴いたことを覚
えている。最初の低音を大きく鳴らすところで全身に電気が走り、全体の3分の2くらいの突然曲が明るく輝き出
すところでもう一度電気が走る。そして、この上ない至福に満ちた状態で曲を終える。自分の人生もこうであった
らいいなと願いつつ、いつもこの曲を聴いている。バックハウスやケンプも聴いたが、やはりグルダの演奏が耳に
なじんでいるからか、はるかにすぐれていると思う。廉価盤の全集の音では満足できず、1968年に出た日本盤
を購入し、現在は1967年に出たチェコスロバキアのオパス盤を聴いている。音質には満足しているが、是非
オリジナル盤を入手したい。