モーツァルト●ピアノ・ソナタ第8番イ短調K310
 
モーツァルトのピアノ・ソナタは、トルコ行進曲付きしか知らなかった私がこの珠玉の作品を知ったのは、神谷郁

代さんのコンサートでこの曲を聴いてである。夢見るような表情でこの曲をひく神谷さんを見て、コンサートはこ

ういう付加価値もあるんだなと思った。神谷さんが曲にうっとりして演奏を楽しんでいるのが、充分に納得できる

のがこの曲の第2楽章の旋律である。とにかく、この上なく美しい。すぐにこの曲の名演と言われる、ブレンデル

のCDを購入した。いぶし銀の渋い演奏をするブレンデルが、この曲では実に叙情的に、そしてより丁寧にひいて

いる。第2楽章も本当に美しい。ただ演奏次第では、この曲の美しさが充分に伝わらない場合がある。名盤と言わ

れる、リパッティの演奏はテンポが速くて、消化不良な気がする。最近になって、ブレンデルの同一演奏のLPを

購入した。ますますこの演奏が気に入り、今まで以上に頻繁に聴いている。何気なく出かけたコンサートですばら

しい曲に出会う可能性を高めるのは何にも増して、演奏者の肩にかかっており、そのためには少なくとも演奏者が

心をこめて演奏できるような曲を選んでほしい。

 

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