舞姫タイスについて
先月、風光書房で、文庫本で何か面白そうなものがないかと見ていたら、「舞姫タイス」アナトール・フランス著という昭和27年発売の角川文庫 を見つけた。フランスの著作では以前、岩波文庫で「神々は渇く」を読んでいるが、読解力のない時に読んだので面白いと思わなかった。それでも「タイスの瞑想曲」が生まれることになった小説になんとなく引かれたので、すぐに購入した。しかしこの小説を読み始めるといくつかの印象的な場面があり引き込まれて行った。特に最後10ページの状況の変化は誰もが驚嘆するだろう。私は、本日この本を読み終えたが、その最後のところを帰宅途上の阪急電車の中で読んだ。主人公パフニュスが改心(?)し、悩みと怒りから叫ぶ言葉に思わず、「●△□×☆♢凸凹」と私はわけのわからない言葉を叫んでしまった。それは、大きな感動からでもあり、驚きからでもあり、どこに着地するのか不安になったからでもあった。
大雑把な筋を言うと、修道士パフニュスは弟子の教育や苦行で多くキリスト教信者の信頼を得ていた。ある日突然パフニュスは、出身地であるアレキサンドリアで信者になる前に劇場で見たことがある、豊麗でこの上なく美しいタイスを正しい道に導こうと思い、アレキサンドリアを目指して出かけて行く。やっとのことでアレキサンドリアに着いたパフニュスは、友人のニシアスの紹介でタイスに会う。タイスは元々信心深かったため、パフニュスの説得を受け、アルビーヌが院主の尼僧院に行くことに同意する。タイスが信者のなることに反対する人たちに攻撃されパフニュスとタイスは命を落としそうになるが、ニシアスの助けでタイスの豪邸を抜け出し、パフニュスはアルビーヌにタイスを預ける。タイスと別れた後、パフニュスは多くの試練に打ち勝つが、ある時アントニウスの一行と出会い、自分が行ったのは苦行ではなくむしろ悪魔に見入られただけだったと告げられた上で、「タイスが死のうとしている」ことを知らされる。その後の展開は是非直接読んでいただきたいが、全く予備知識なしに読むと最後のところで雷にうたれたように衝撃が走るに違いない。
もともと私は美しいヴァイオリンの小品「タイスの瞑想曲」でマスネの歌劇「タイス」を知り、マスネはフランスの「舞姫タイス」をもとにして、このオペラを作曲したことは知っていたが、特にオペラ全曲を聴こうとか(オペラでは舞姫が歌姫になるのだろうか)、原作を読んでみたいと思ったことはなかった。ただ、タイスの瞑想は甘美で切実なものなんだと曲想から推察していたくらいだったが、日本語訳付きの歌劇「タイス」のCDかDVDを購入してそのあたりを確認しようと思う。