ピクウィック・クラブについて

大学に入学してすぐに大学図書館で借りたのがこの本(三笠書房)で、思い出深い本である。今回、装丁は異なる
(筑摩文庫)が、同じ北川訳で読んだ。
筑摩文庫では3巻本となっているが、中巻末のあたりで、ウィンクル氏の目の前でドアがバーンとしまってから、
物語と余り関係ない、ウェラー父子が頻繁に登場するようになって急に面白くなくなる。よくサム・ウェラーが
登場してから、この定期的に刊行された小説の人気が出て来たと言われる。それは事実であろうし、主人思いの
サム・ウェラーの行動にはしばしば感動させられるが、今回じっくりと読んで感じたのだが、ふたりが登場
すると物語の脈絡が寸断され(話の腰が折られ)ることが多く、しばしの間ふたりのよくわからない会話に
つき合うことになるのである。よくウェラー父子が言う、□□が○○した時に言ったように△△だね(あるいは、
△△のために○○した時に□□が言ったようにね)という話を口にするがユーモアが感じられず、何を言って
いるのかわからないことがある。また、上巻、中巻では、ピクウィック・クラブ(の通信部)のメンバー
(サミュエル・ピクウィック、トレイシー・タップマン、オーガスタス・スノッドグラース、
ナサニエル・ウィンクル)の活躍、ウォードル一家との交流、悪党アルフレッド・ジングルおよびその手下の
ジョッブ・トロッターとの対決(ピクウィック氏は騙されてばかりするが)、ピクウィック氏に次々と襲い
かかる災難などを時にはわくわく、時にはどきどき、時にははらはらしながら楽しむのである(これは私個人の
楽しみ方だが 、漫才師の瀬戸わんやさん(ぴーよこちゃんで有名な)とピクウィック氏を重ね合わせて、
楽しんだこともあった)が、下巻においてはフリート監獄内での出来事や裁判のことが中心でやはり
暗い話が多い。ドッドソンとフォッグとの対決も終結していない気がする。明るい話では、ウィンクル氏と
アラベラ・アレンとの結婚がある 。それに反対するボッブ・ソーヤーが、親友でアラベラの兄の
ベンジャミン・アレンと共にピクウィック氏がウィンクル氏の父親を訪問するために用意した馬車に
無理矢理乗り込むが、結局何も起こらずに終わってしまう。そうしてウィンクル氏のカップルと
スノッドグラース氏のカップルが結婚し、めでたしめでたしで終わるのである。
最初に読んだ時、大作を読み終えたという達成感がなかったのもこの辺りにあるのではないかと思うが、
ピクウィック氏のキャラクターは誰しも引かれるものであり、この大作の中で彼の足跡を辿るのは
楽しいことだと思う
インターネットを見ると、吹田市の天牛書店でこの古書(三笠書房)を3000円で販売していたので、
本日買いに行って来た。やはりさしえの印刷がきれいで、装丁も高級感があるので、折りに触れて手に取って
みようと思う。