バーナビー・ラッジについて

集英社の世界文学全集15のディケンズ著「バーナビー・ラッジ」を鞄に携帯して主に通勤する電車の中で読んだが、後半になって物語が面白くなってくると時間を見つけては読みふけり、最後は仕事に入る前に駅前の喫茶店で30分程読んでから、出勤したりした。やはり「ゴードンの騒乱」を中心に据えた歴史ものであるため、そこに来ると(バーナビーが無理矢理騒乱の一味に加えられるあたりから)物語はぐんと興味深いものとなる。騒乱の中で、それ以前に紹介した人物が善と悪に分かれ、様々な場面で印象に残る言動をするのである。特に悪の筆頭とも言うべきヒューやいろんな事件の黒幕となる人物(これは明かさない方がいいと思います)については厳しい懲らしめがあり、一方、善良なジョーや誠実な青年エドワードには幸福な家庭が与えられるのである。また騒乱で最初にひどい目に遭わされたメイポール亭の主人ジョンや暴徒たちにニューゲイト監獄の門の鍵を開けるようにと迫られる「黄金の鍵」屋の主人ゲイブリエルも、それぞれの子供が結婚したくさんの孫に恵まれる。
この本の中にいくつかの挿絵があり、そのうちの3枚は主人公バーナビーのものであるが、赤毛の巨躯の人物に描かれている。母親が妊娠中に暴行を受け障害を持つことになるが、母思いのやさしい青年である。またバーナビーは乱暴者のヒューも一目置く程の怪力の持ち主であるが、その怪力で鎮圧に当たっている人に暴力を振るってしまったため、苦しい立場に立たされる。それでもウォレン屋敷のヘアデイル氏などの尽力により、絞首刑される直前に救い出されるのである。
ディケンズは脇役の中に興味深い人物を配するが、この小説の中にも強い印象を残す人物(動物)がいる。バーナビーの相棒である烏(九官鳥?)のグリップやおしゃべりなミッグス嬢、愛らしいドリーなどいきいきと描かれているが、私は最後は絞首刑にされてしまう、なぜか憎めない悪人のデニスに引かれる(ある意味でデニスの不可解な行動が騒乱の勢いを止めたとの解釈もできると思う)。
なお、この小説の中でバーナビーの父親がいくつかのエピソードを展開し暗い影を投げかけるが、本筋とは余り関係がないと思う。ポーは注目しているが...。
この小説の翻訳者の小池滋氏は、この他、「荒涼館」、「オリヴァー・トゥイスト」、「エドウィン・トルードの謎」、「リトル・ドリット」などのディケンズの作品を翻訳しておられ、私はいずれも所有しているが、ハードカバーで携帯に不便なため読まずにいたものがある。それでも「バーナビー・ラッジ」に比べるとコンパクトなので、近く「リトル・ドリット」あたりを読んでみようかと思う。