オリヴァー・トゥイストについて
勧善懲悪という内容の小説は、読みやすい。そういう意味では、オリヴァー・トゥイストはその典型であるからなおさらである。と言いたいところだが、やはりディケンズの小説は読みにくい。19世紀前半の頃のロンドン市内を中心に物語は進んで行くが、登場人物がいきいきと描かれている反面、オリヴァーが行く先々の場面が最初のところはスラム街ばかりで、コンクリートの建物ばかりを見ている私にとっては頭の中で描きにくいものばかりである。もちろん、ディケンズとしては、オリヴァーがローズに救われて以降の明るい生活を対比させたかったのだと思うが。
フェイギンをはじめ、サイクス、バンブル、モンクスのどの悪役も善意のかけらもない人に描かれており、それぞれが最後にひどい目に遭うことに対しては誰もが異論を持たないだろう。読者は、それを自業自得と思い、溜飲を下げるのである。
この小説についてはいくつかの問題点があることが言われているが、そのことについてはここでは触れない。小品集「ボズのスケッチ集」「ピックウィック・クラブ遺文録」に続いて、わずか25才のディケンズがこの読者を夢中にさせる長編小説を書き上げたということが大切であり、少しの瑕疵があるためにこの名作が書店の本棚から消える運命にあるのなら、それこそもったいないことだと思うのである。
話は変わって、この小説には私が最も好きな人物がいる。怒りっぽいが、誠実で、時に「そうでなかったなら、わしの頭を食ってみせる」と心にもないことを真面目な顔で言う、ブラウンロー氏の友人であるグリムウィッグ氏である。ディケンズの小説には他にも魅力的な脇役が出て来て、楽しい気分にさせてくれるが、グリムウィッグ氏はその中でも最も明るい光を放っている。