戦争と平和について

私が「戦争と平和」を読もうと思ったのは、「チボー家の人々」の解説の中で、作者ロジェ・マルタン・デュ・ガールが「チボー家の人々」を書こうと決心したのは、トルストイの「戦争と平和」を読んで感銘を受けたからと書かれてあったからである。デュ・ガールは、「戦争と平和」は複雑多岐なエピソード、無数の登場人物の上に立った息の長い小説であり、自身もそのような小説を書いてみたいと思ったとも述べている。
「チボー家の人々」(全13巻)は、アントワーヌとジャックのチボー兄弟が主人公であるが、どちらもいきいきと描かれており、それがこの小説の大きな魅力となっている。デュ・ガールは、チボー兄弟に「戦争と平和」のピエールとアンドレイのような役割をさせたかったような気がする。
「戦争と平和」は登場人物が559人とのことで、そのことを聞いただけで、二の足を踏んでしまうが、ピエールとアンドレイを取り巻く人たちの物語と考えると少し読む気が起こるかもしれない。ベズウーホフ伯爵の大いなる遺産を相続したピエール、ボルコンスキイ家の人たち(アンドレイ、その姉(マリア)とその父親他)とロストフ家の人たち(ナターシャ、その兄(ニコライ)他)を中心に置き、これらの家族に大きな災いをもたらすワシーリイ家の人々(ワシーリイ公爵、アナトーリ、エレン)とナポレオンの行動に注目して読み進めば、興味を持って最後まで読むことができると思う。
ピエールはフリーメーソンの入会やカラターエフとの出会いで興味深い物語を展開するが、やはり行動的なアンドレイに引かれる。アンドレイは、戦争に深く関わり、ナターシャを愛し、ナポレオンと遭遇する。
他にも、ナターシャの弟ペーチャの死、ドーロホフの改心、マリアの活躍、クトゥーゾフの勝利とナポレオンの敗北など、興味は尽きない。まさに複雑多岐なエピソードを持つ小説である。