二都物語について


私が幼少の頃、母親が近所の書店でパート勤務をしていたため、同年の子供より多くの本に触れることができた。母親が、これはよいと思った本を購入してくれたからだが、中には私自身が興味を示さずほとんど開いてみることがなかった、某出版社の英和辞典のようなのもある。逆に頻繁に開いて見た図書には同じ出版社の百科事典や偕成社の少年少女世界の名作(全100巻)がある。この小、中学生向きの名作全集のすべてが自分の家にあったのではなく、30巻位だったように思う。表紙を開いて、2、3枚めくると登場人物の肖像の下にプロフィールが書かれてあり、物語への興味をそそられた。なかなか本文を読むところまで行かずにいつの間にか本棚から消えてしまったが、少し世界の名作に興味が持てたような気がする。「二都物語」もその名作全集の中にあった。
「二都物語」は、ディケンズの代表作ということで大学に入学してすぐに文庫本を読んだが、よくわからなかった。フランス革命の頃の話で、愛するルーシー・マネット(のちにチャールズ・ダーニーと結婚)のためにシドニー・カートンがチャールズ・ダーニーの身代わりになるという話であるが、全体を貫いている暗い背景と場面が頻繁に変わることが読みにくくしているように思う。登場人物も、みんな暗い。「デイヴィッド・コパフィールド」のミスタ・ミコーバのような人が出てくればと思うのだが。
ミスタ・ロリーやミス・プロスのような魅力的な登場人物もいるが、ドクトル・マネット、ダーニー、カートンの主役級の人は皆、何らか暗い過去を背負っている。さらにダーニーの叔父やマダム・ドファルジュが登場するシーンはあまり繰り返して読みたいと思わない。こう言ったことが、気分を滅入らせ、名作とは言え、辛い話だなあと思い、次を読もうとする気にブレーキをかけるのかもしれない。
「二都物語」を翻訳した中野好夫氏は、解説の中で全作品の中で最も有名な作品と書かれているが、「骨董屋」やこの作品が代表作として読まれるのではなく、楽しくて希望の持てる、「デイヴィッド・コパフィールド」や「オリバー・ツイスト」をディケンズの代表作として取扱ってほしい。