シューベルト●交響曲第8番ロ短調D759「未完成」
映画『未完成交響楽』を見たことがある。シューベルトの作品がちりばめられた珠玉の映画であるが、今も心に残
っているのは、ラストで画面いっぱいに映し出されるシューベルトの悲しみとも諦めとも付かない表情と、ピアノ
演奏による未完成交響曲の第1楽章の出だしの旋律である。この映画のあらすじは、音楽の先生をしていたシュー
ベルトが、地方の貴族の娘に音楽を教えることになり、やがてその娘を恋するようになるが果せず、失恋してしま
う。そのため、書きかけていた交響曲が、恋愛と同様に未完に終わるというものだった。一人の女性を真剣に愛し、
そのため自分の一日がその人を中心に過ぎていくということはよくあることである。ただ、それが初恋や一途の
恋であると美しいが、既にすばらしい女性を獲得した人がさらに女性を得ようとするのは、世の中の不思議を思わ
ずにはいられない。美しい女性が眼前に現れ、その人に恋をし、成就すれば、未完成交響曲のような切実な音楽は
出来なかったと思う。だから、この曲は、そんな人を慰める音楽にもなると思う。愛聴盤は、シューリヒトがウィ
ーン・フィルを指揮したもの。