シューベルト●交響曲第9番ハ長調D944「ザ・グレート」
ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のレコードを、学生時代によく聴いた。テンポが異常に速く、全楽章が白熱化し
ていて、多感だった私は、この曲を聴いて、心地よい感動に浸ったものだった。ところで、感動というものは、喜
びからも生じるが、悲しみから生じる感動の方が、大きく出会うことも多いのではないだろうか。喜びは、ほんの
一瞬のこと。悲しみは、持続すること。だから、慰めが必要であり、今はやりの言葉で言い換えれば、癒しが必要
なのである。そんな悲しみに遭遇した時に、特効薬になりうるのが、クラシック音楽であると思う。様々の種類の
個性豊かな曲は、それぞれの悲しみに応じて特効薬を提供してくれる。今の世の中は、刹那的な喜び(感動)にも
満ちている。例えば、うまいものを食べる、美しい景色を見る等。これを、苦あれば楽ありという風に変えてみれ
ば、喜びも大きくて良いのではないだろうか。二、三時間かかって登った山の頂でのおにぎりはおいしいだろうし、
苦労して3000メートル級の山に登った時に下界を見下ろすのは爽快であろう。言い換えると、人間極限に近い
状態に達した後には、ささいなことにも心が動く、と言うことである。