シューマン●ヴァイオリン協奏曲ニ短調
人間、誰しも苦境に入ることがある。入学試験、就職試験がうまく行かなかったり、恋に破れたり、肉親を失った
り。そんな時に、何かにすがりたくなるのが人である。「風立ちぬ」の主人公が、遠くに輝くほのかな明かりに希
望を見出して立ち直っていくように、音楽で傷んだ心をいやすことができないのか。もし、そういったいやしの音
楽がないのかと尋ねられたら、私だったら、迷わずこの曲を推薦する。出だしの余りにゲルマン的な旋律は嫌悪感
を持つかもしれないが、その後の紆余曲折を経て、第1楽章の最後に達するまでの高揚感は、何物にも勝るいやし
になるのである。第2、第3楽章も美しく、やさしい。レコードは、クーレンカンプが、シュミット=イッセルシ
ュテット指揮ベルリン・フィルと共演したものが、唯一無比のものである。古い録音にあるこもったような感じが、
独自の閉塞感を作り出し、そこからもがき出ようとしているようなヴァイオリンの音が、深い感動を呼び起こし
ているように思う。ヴァイオリンに自分の気持ちを乗せ、カタルシスを図るのかもしれない。