ヴュータン●ヴァイオリン協奏曲第5番イ短調作品37
ヴュータンは、19世紀半ばに活躍したベルギーのヴァイオリン奏者であり、作曲家である。7曲のヴァイオリン
協奏曲を作曲しているが、演奏されるのは第4番と第5番くらいである。第4番は同じベルギー出身のヴァイオリ
ニスト、グリュミオーの名演があるが、第5番はやはり、ハイフェッツがサージェント指揮ロンドン新交響楽団と
共演したものがすばらしい。ハイフェッツの演奏は、オイストラフ、グリュミオー、フランチェスカッティーに比
べ、かたい気がして、くつろいで安心して聴けない難点があるが、意気消沈している時に、少し武骨だが情熱にあ
ふれた、ハイフェッツの演奏を聴くと、気持ちを取り直すことができる。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲や
ブルッフのスコットランド幻想曲等、一度聴いたら忘れられない、魅力一杯のレコードである。さて、この第5番
であるが、単一楽章でとらえどころのない、しかし、ロマンあふれる感情の起伏の激しいこの曲をハイフェッツは、
いつもどおりの少し硬質の演奏をすることで、曲にメリハリを持たせ、ヴァイオリンの技巧のみが光るこの曲を
心に残る名曲にしている。