本日は、お忙しい中、レコードコンサートにご来場いただきありがとうございます。このレコードコンサートは、ヴィオロンのすばらしいオーディオ装置で私の愛聴盤をお聴きいただくもので、お聴きいただくレコードもなるべくオリジナルに近い音の良いものを選んでいますので、ハード、ソフト共に優れた音楽を心行くまでお楽しみ下さい。なお、コンサートと言いましても一般の営業と変わりませんので、くつろいでお聴き下さい。
今回は、「ビーチャムとバルビローリのディーリアス」ということで、ディーリアスの音楽をたっぷりと楽しんでいただこうと思います。
作曲家フレデリック・ディーリアスは、1862年に英ヨークシャー州ブラッドフォードに生まれました。17才の頃にワーグナーの楽劇に深い感銘を受け、作曲家を志しますが、父親の反対にあったため、フロリダでのオレンジ栽培を口実にアメリカに渡り音楽に傾倒して行きます。24才の頃にヨーロッパに戻り、ライプツィヒ音楽院で学ぶことになりますが、アメリカでの生活の中で体験したことは、「フロリダ」組曲、「アパラチア」、歌劇「コアンガ」等の曲に生かされることになります。1890年以降はほとんどフランスで生活し、1903年にグレ=シュール=ロワンの邸宅に移り1934年に没するまで隠遁して作曲生活を送りました。ディーリアスの音楽を一言で言えば、「郷愁(ノスタルジー)」でしょうか。馴染みやすい旋律に引き込まれて、昔のことを懐古する。そんな感情が心の中から染み出て来る気がします。音楽評論家の三浦淳史氏は、ディーリアスの音楽を「あえていえば印象派的なロマン主義といえなくもないが、音楽的イメージや様式、技法はまったく彼独自の個性的なものである」と解説されています。
少しお話しが長くなりましたので、まずディーリアスの小品を聴いていただくことにします。「春初めてのカッコウを聞いて」「河の上の夏の夜」「そり乗り」「オペラ“フェニモアとゲルダ”から間奏曲」以上4曲をトマス・ビーチャム指揮ロイヤル・フィルの演奏でお聴きいただきます。演奏時間は約24分です。
次にお聴きいただくのは、「フロリダ」組曲です。ディーリアス35才の頃に作曲された彼の最初のオーケストラ作品です。「夜明け」、「河畔にて」、「夕暮」、「夜に」の4つの楽章から成り、美しい旋律でフロリダの自然を描いています。この曲を指揮するサー・トマス・ビーチャムはイギリス人の指揮者で多くのレコードを残していますが、ビーチャムといえばやはり最晩年に録音したロイヤル・フィルとのディーリアス管弦楽作品集につきるといえると思います。演奏時間は約35分です。
ここで10分間の休憩をいただきます。
後半は、バルビローリ指揮ハルレ管弦楽団の演奏でディーリアスの管弦楽曲をお聴きいただきます。サー・ジョン・バルビローリの名を私が初めて知ったのは、クライスラーと共演したベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲でしたが、その後私は彼が指揮したイギリスの作曲家やシベリウスやマーラーの演奏も聴きました。アンコール曲としてお聴きいただく、ジャクリーヌ・デュ=プレと共演したエルガーのチェロ協奏曲も名演ですが、バルビローリもやはりこのディーリアスの演奏が一番すぐれたものといえるのではないでしょうか。まず管弦楽の小品を4曲お聴きいただきます。「歌劇“コアンガ”よりラ・カリンダ」、「春初めてのカッコウを聞いて」、「河の上の夏の夜」、「去りゆくつばめ」で、まん中の2曲は先程ビーチャム指揮ロイヤル・フィルの演奏でもお聴きいただきました。また最初の曲は、「フロリダ」組曲の「夜明け」の後半とほぼ同じです。演奏時間は約30分です。
プログラム最後の曲は、アパラチアです。多分この曲の最後の英語で歌われるところを聴かれると、違和感を感じられる方もおられるでしょう。また映画音楽みたいだなと思われる方もおられるでしょう。私も最初に聴いた時はそうでした。それでもこの曲に一貫して流れている心の奥まで届く懐かしい旋律というのは他のどの曲よりも私にとってかけがえのないものです。この曲をお聴きいただいてお一人でもディーリアスのファンが増えれば私としては非常にうれしいのですが、どう感じられるでしょうか。では、バルビローリ指揮ハルレ管弦楽団の演奏でお聴き下さい。演奏時間は約38分です。
コンサートの最後に、アンコール曲を用意致しました。エルガーのチェロ協奏曲です。チェロは、ジャクリーヌ・デュ=プレ、ジョン・バルビローリ指揮ロンドン交響楽団の演奏です。演奏時間は約30分です。
本日はディーリアス、エルガーとイギリスの作曲家のどちらかというと地味な音楽ばかりでした。ドイツ音楽こそクラシックと思われている方には、きっと退屈なプログラムだったと思います。でも私は個人的に大好きな作曲家ですのでこのコンサートを企画しました。このコンサートをきっかけにしてひとりでも多くのディーリアスの音楽のファンが増えればと思います。ディーリアスは、この他チェロ協奏曲(デュ=プレもレコーディングしています)、ピアノ協奏曲、歌劇「村のロメオとジュリエット」(この中の《楽園への道》は単独でよく演奏されます)、海流、レクイエム、田園詩曲、夜想曲「パリ」、シナーラ、人生のミサなども作曲しており、メレディス・デイヴィス、グローヴス、ヒコックスなどの指揮者がディーリアスの作品を演奏しています。ディーリアスの音楽をいろいろ聴きましたがやはり名演にはなかなか出会うことができません。今後もいろいろなレコードを聴いて、ディーリアスのすばらしい作品をすばらしい演奏で皆様にお聴きいただくことができれば本当にうれしいのですが。
本日は、長い時間レコードコンサートにおつき合いいただき、ありがとうございました。今後とも、このレコードコンサートをご愛顧いただきますよう、よろしくお願い致します。またプログラムの一番下にありますように、私のホームページも是非ご覧下さい。よろしくお願いします。