本日は、お忙しい中、レコードコンサートにご来場いただきありがとうございます。このレコードコンサートは、ヴィオロンのすばらしいオーディオ装置で私の愛聴盤をお聴きいただくもので、お聴きいただくレコードもなるべくオリジナルに近い音の良いものを選んでいますので、ハード、ソフト共に優れた音楽を心行くまでお楽しみ下さい。なお、コンサートと言いましても普通の営業と変わりませんので、くつろいでお聴き下さい。

今回は、「イタリアの名ピアニスト アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ」ということで、前半はロマン派の作曲家の作品を、後半はベートーヴェンの作品をミケランジェリの演奏でお聴きいただきます。

アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリは、1922年にイタリアのプレーシャに生まれました。10才でミラノ音楽院に入学。1939年ジュネーヴ国際音楽コンクールで優勝し、審査員長のコルトーから絶賛されます。しかし第2次大戦中パイロットとして戦場に赴き負傷をしたため、一時的に演奏活動から遠退くことになります。ミケランジェリが演奏を再開するのは1955年になってからで、それからは世界中でコンサートを開催することになります。ただ録音嫌いであったため、1970年代になっていくつかドイツ・グラモフォンにレコードを残す他は、本日お聴きいただく、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番他のレコードとシューマンの謝肉祭他のレコードくらいで、われわれレコードファンのためにもう少し録音を残してほしかったと思います。また彼のコンサートはすばらしい演奏が聴けるとの評判で、彼の生演奏を聴きたいという人々が沢山いましたが、キャンセルが頻発し日本でも日程変更や中止があったようです。その理由はミケランジェリの非常に強い完璧主義からと言われていますが、第2次大戦の時の古傷が痛んで演奏できなかったとも言われています。

私が初めてミケランジェリを聴いたのは、ドビュッシーの前奏曲集第1巻ですが、その時から今に至るまで何回聴いても、A面に比べて、B面の演奏が物足りなく感じます。今回も最初は聴いていただこうと考えていたのですが、他のレコードと比較して遠慮してもらうことにしました。また演奏が完璧だったため1回3時間の録音で収録が終わったと言われるショパンのレコードもバラード第1番やスケルツォ第2番はすばらしい演奏と思うのですが、マズルカの演奏がカペルの演奏に比べて物足りなく感じたのでこちらも取り上げませんでした。 最初のデジタル録音(このレコードコンサートでデジタル録音を取り上げるのは初めてです)がどのような音になるか気になるのですが、演奏自体はすばらしいものと思いますので楽しんでいただけることと思います。

最初にお聴きいただくのは、ブラームスのバラード全4曲とシューベルトのピアノ・ソナタ第4番です。ブラームスのピアノ曲は2つのピアノ協奏曲が有名で、独奏曲は青年時代の若々しい情熱は感じられるが壮年期以降のような味わい深い旋律や重厚な響きが見られない場合が多いのですが、ミケランジェリはピアノという楽器の特性をフルに生かした演奏でこのどちらかというと馴染みのうすい曲を魅力的なものにしています。シューベルトのピアノ・ソナタ第4番の方もミケランジェリの独特な演奏が堪能できます。演奏時間は約47分です。

次にお聴きいただくのは、シューマンの謝肉祭です。この演奏はこの曲の定番と言える演奏でミケランジェリの魅力を充分にご堪能いただけることと思います。なお、今回のコンサートはベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番以外はオリジナル盤でないばかりか、ドイツ・グラモフォンのブルーライン盤ばかりです(ちなみにこのレコードもエンジェル盤で、音のよいEMI盤ではありません)ので、深い音の出るレミントン盤の謝肉祭(演奏はキレニーです)をアンコールのところでお聴きいただこうと考えていますので、よろしければおつき合い下さい。でも、場合によっては他のレコードに差し替える場合もありますので、そのときはご了承下さい。演奏時間は約36分です。

ここでしばらく休憩をいただきます。

後半最初の曲は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第4番です。この曲は、若い女性の姿を音楽で表現したと言われていて、明るく甘味なメロディもたくさん聴かれる、ベートーヴェンもこんな明るい曲を書いたんだと思わず言ってしまいたくなる曲です。プログラム最後の第32番のピアノ・ソナタと比較されるのも面白いかもしれません。演奏時間は約31分です。

後半の2曲目は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第1番です。第3番以降のピアノ協奏曲がすばらしすぎるため、目立たないところがありますが、ケンプやバックハウスと違う、ミケランジェリのメリハリの利いた緻密な演奏がこの曲の魅力を引き出していると思います。演奏時間は約38分です。

プログラム最後の曲は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第32番です。最後のピアノ・ソナタでベートーヴェンの作品の中で最も心を動かされるものの一つと言える曲であると思います。他には第23番「熱情」がそうだと思います。この作品のレコードでは他にフリードリッヒ・グルダの名演がありますが、私はこのレコードを初めて聴いたとき余りのすばらしさにもう一度最初から聞き直したという記憶があります。グルダほど心は揺さぶられませんが、ミケランジェリは落ち着いて演奏しているためじっくり細部に至るまでかみしめて聴けるところがありこちらも楽しんでいただけると思います。演奏時間は約25分です。

本日もアンコール曲を用意させていただきました。誠に申し訳ありませんが、エドワード・キレニーのシューマン「謝肉祭」の代わりに2曲合計3曲を聴いていただきます。最初は、やはりピアノの曲ばかりを聴いていただいたので、ヴァイオリンの曲をまず聴いていただこうと思います。フランクのヴァイオリン・ソナタをシェロモ・ミンツの演奏でお聴きいただきます。ピアノ伴奏はイェフィム・ブロンフマンです。演奏時間は約28分です。2曲目はカール・ライスターのクラリネットでブラームスのクラリネット・ソナタ第2番をお聴きいただきます。ピアノ伴奏はゲルハルト・オピッツ、演奏時間は約21分です。3曲目はベンジャミン・ブリテンの自作自演で青少年のための管弦楽入門をお聴きいただきます。オーケストラはロンドン交響楽団で、演奏時間は約17分です。

本日も、レコードコンサートにおつき合いいただきありがとうございました。私のレコードコンサートは少し聴いていただくだけでも、歓迎致しますので、よろしくお願いします。ありがとうございました。