本日は、お忙しい中、レコードコンサートにご来場いただきありがとうございます。このレコードコンサートは、ヴィオロンのすばらしいオーディオ装置で私の愛聴盤をお聴きいただくもので、お聴きいただくレコードもなるべくオリジナルに近い音の良いものを選んでいますので、ハード、ソフト共に優れた音楽を心行くまでお楽しみ下さい。なお、コンサートと言いましても普通の営業と変わりませんので、くつろいでお聴き下さい。

今回は、「正統派ピアニスト ウラディミール・アシュケナージ」ということで、ロシア出身のピアニスト アシュケナージのピアノ独奏、ヴァイオリニストとの共演、オーケストラとの共演そして自らオーケストラを指揮したものをお聴きいただきます。 ウラディミール・アシュケナージは、1937年に旧ソ連のゴーリキーに生まれました。父親が軽音楽界で活躍していたこともあり、6才の時にピアノを習い始めると2年後にはモスクワでデヴュー演奏会をするまでになり、9才の時にはモスクワ音楽院附属の音楽学校に入学することになります。1955年にショパン国際ピアノコンクールで第2位となりましたが、この時の審査員をしていたアルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリはそのことに納得できず審査員を降板しました。その年にモスクワ音楽院に入学し、翌年のエリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝し、1962年のチャイコフスキー国際コンクールではジョン・オグドンと優勝を分け合いました。1970年頃から指揮者としての活動を始め、1974年には初の録音(プロコフィエフの交響曲第1番他)、その後ベートーヴェン、チャイコフスキー、ショスタコーヴィチ、シベリウスなどのレコードを録音しています。2004年から2007年にはNHK交響楽団の音楽監督も務めています。本日は1960から70年代に録音された彼のピアノの演奏を中心にお聴きいただきます。

最初にお聴きいただくのは、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第5番「春」です。オイストラフの名盤もありますが、共演のパールマンの明るく爽やかな演奏が心地よく、私個人としては一番好きなレコードです。アシュケナージはパールマンと共演したレコードをたくさん残しており、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ全集、この後お聴きいただくフランクのヴァイオリン・ソナタ、リン・ハレルも加わった、ベートーヴェンのピアノ三重奏曲全集、チャイコフスキーのピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の想い出のために」があります。演奏時間は約24分です。

次にお聞きいただくのは、フランクのヴァイオリン・ソナタです。この曲は前回のシェロモ・ミンツの特集の時にもお聴きいただきましたが、私の大好きな曲です。パールマンとアシュケナージの演奏は私がクラシックを聴き始めた、1978年頃によくFM放送で流れていて、特に終楽章が好きになりました。 この曲を知った最初の頃は、終楽章のところだけを傾聴していた記憶があります。その後、ティボーとコルトーの不朽の名盤がベストと思うようになりましたが、こちらは音の良いレコードがなかなか手に入りません。入手できれば、お聴きいただこうと思っています。演奏時間は約28分です。

次にお聴きいただくのは、シューマンのクライスレリアーナです。アシュケナージのピアノ独奏は、ショパンとベートーヴェンがよく知られていますが、シューマン、特にこの曲とこのレコードのB面のフモレスケは他の曲にないようなピアノの音の広がり、響きが感じられ、私はアシュケナージの独奏では一時よく聴きました。演奏時間は約32分です。

前半の最後は、アシュケナージの指揮を少しだけ、お聴きいただきましょう。ラフマニノフの交響曲第2番から第3楽章をお聴きいただきますが、ラフマニノフではピアノ協奏曲の第2番、第3番それからヴォカリーズに加えてこの交響曲第2番も私の好きな曲なので、いつか全曲をお聴きいただくつもりです。話は変わりますが、私は現在クラリネットを習っており、3年半余りになります。先生がしばしばライヴコンサートをされ、私も何度か行きましたが、一昨年の夏に奈良で開催されたコンサートで、この曲の第3楽章が演奏されました。7、8分のクラリネット独奏でピアノ伴奏用に編曲されたものでしたが、演奏が素晴らしかったので、今まで以上にこの曲が好きになりました。演奏時間は約14分です。

ここで少し休憩をいただきます。

後半最初の曲は、ショパンのバラード全曲です。私がアシュケナージに興味を持ち始めたのはこの旧録音のバラード、彼は後にショパンのバラードとスケルツォを再録音しています、です。フランソワやコルトーのバラードがなかなか入手できなかった頃に、アシュケナージの演奏をFM放送で聴き、よい印象を持ったのですが、なかなか音の良いレコードが入手できずにいました。最近になってようやく音の良いレコードを購入することができましたので、お聴きいただこうと思います。演奏時間は36分です。

次にお聴きいただくのは、ショパンのスケルツォ全曲です。アシュケナージのショパンで有名なのは練習曲集で、特に第1番は激賞されていますが、私はそれよりもう少し演奏時間が長く超絶技巧だけでなく個性も表現できる、バラードやスケルツォのほうがアシュケナージのピアノ演奏を楽しめる気がします。アシュケナージは天才ではなく努力の人で練習時間も他の演奏家より際立って多いと言われており、正確な演奏も練習によって可能にしたのだと思います。正統派とは天才ではなく、日頃からの不断の努力によって高い演奏技術を身につけている演奏家のことを言うのだと思うのですが、いかがでしょうか。演奏時間は約31分です。

プログラム最後の曲は、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番です。アシュケナージはこの曲を4回録音しているのですが、今日は最初の録音で西欧デヴュー盤でもあるレコードをお聴きいただきます。この後、アシュケナージはデッカに多くのレコードを残しますが、このレコードは今でも輝きを失わないレコードであると思います。それは20代半ばのピアニストの瑞々しさやこれからの演奏活動に対する意気込みが強く感じられるからです。演奏時間は約42分です。

本日もアンコール曲を用意させていただきました。チャイコフスキーの幻想曲「テンペスト」です。演奏はエフゲニー・スヴェトラーノフ指揮ソビエト国立交響楽団、演奏時間は約17分です。このレコードは私がよいオーディオ装置でレコードを聴きたいと思うようになった、そのきっかけとなったレコードです。大学に入った年の秋に友人から、自分の友人にクラシックファンでオーディオマニアがいるから会ってみないかと言われ、早速、彼の下宿を訪ねたのでした。お目当てのテラーク盤チャイコフスキーの1812年は近所迷惑になるから(大砲の音が入っているのです)掛けてもらえなかったのですが、代わりにこの曲を掛けてくれました。弦の音に魅了され、オーディオマニアの世界に入り込んで行くことになりました。それから時間がありますので、アシュケナージの演奏をもう一つ。モーツァルトのピアノ協奏曲第23番をアシュケナージのピアノ演奏と指揮、オーケストラはフィルハーモニア管弦楽団です。演奏時間は約27分です。

本日も、レコードコンサートにおつき合いいただきありがとうございました。私のレコードコンサートは少し聴いていただくだけでも、歓迎致しますので、よろしくお願いします。ありがとうございました。