本日は、お忙しい中、レコードコンサートにご来場いただきありがとうございます。このレコードコンサートは、ヴィオロンのすばらしいオーディオ装置で私の愛聴盤をお聴きいただくもので、お聴きいただくレコードもなるべくオリジナルに近い音の良いものを選んでいますので、ハード、ソフト共に優れた音楽を心行くまでお楽しみ下さい。なお、コンサートと言いましても普通の営業と変わりませんので、くつろいでお聴き下さい。ところで、本日は一昨年の10月に出版された自著「こんにちは、ディケンズ先生」(船場弘章著 近代文藝社刊)について紹介させていただこうと思っています。と言いますのも、本日のアンコール曲として用意したものを、私の小説の中で、ヒロインの女性が演奏しているからです。よろしくおつき合い下さい。それではコンサートの原稿に戻ります。

今回は、「ベルギーのヴァイオリニスト アルテュール・グリュミオー」ということで、ベルギー出身のヴァイオリニスト グリュミオーのヴァイオリン演奏をお聴きいただきます。 ベルギー出身のヴァイオリニスト アルテュール・グリュミオーは、1921年にヴィエー=ブレワンという小さな村に生まれました。祖父の勧めで4才からヴァイオリンを習いはじめ、11才になるまでにシャルルロワ音楽学校のヴァイオリン科とピアノ科の両方で主席をとりました。ブリュッセル音楽院に進み、1949年には音楽院のヴァイオリン科で教鞭を執ることになります。前後しますが、それまでにパリに留学してジョルジュ・エネスコに指示し、1940年にはヴュータン賞を受賞し、1943年にベルギー国際コンクールで優勝します。グリュミオーは1950年代後半からオランダのフィリップス・レーベルに多くのレコードを録音しますが、最初にお聴きいただくクララ・ハスキルと残したモーツァルトのヴァイオリン・ソナタと本日の後半のプログラムでお聴きいただく、モーツアルトのヴァイオリン協奏曲が名演と言われています。グリュミオーはハスキルとベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全集を入れたり、モーツァルトの室内楽のレコードをたくさん残しているだけでなく、バロック、ロマン派の作曲家の作品のレコードもたくさん残しおり、幅広いレパートリーのヴァイオリニストと言えます。またグリュミオーはストラディヴァリウスで演奏しており、音の美しいヴァイオリニストと言われていました。本日は1950年代後半から1960年代に録音されたモーツァルトの演奏を中心にお聴きいただきます。

最初にお聴きいただくのは、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ4曲です。グリュミオーはハスキルともう1枚モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ集を録音しており、こちらには第40番、第42番が入っていますが、昨年3月のクララ・ハスキルの特集でお聴きいただいていますので、本日は1958年に録音された第34番、第28番、第32番、第25番をお聴きいただきます。演奏時間は約53分です。

先程、紹介させていただいた「こんにちは、ディケンズ先生」は今、お見せしている本です。売れ行きはいま一つですが、大学図書館や公立図書館に少しずつ置いてもらっています。今のところ、大学図書館が40、公立図書館が90ですが、この近くですと、杉並区中央図書館、中野区中央図書館で貸し出しができます。また千葉市やさいたま市の区の中央図書館の多くで貸し出しができますので、興味がおありでしたら、私の本を手に取ってみて下さい。出版をしてよかったことは、もちろん私の本を読んでいただけるということが一番ですが、出版することで多くの方と交友関係が持てるようになったということは本当に有難いことでした。本を出版してすぐに愛好家団体であるディケンズ・フェロウシップに本を寄贈したところ、会員にしていただき、私の小説や朗読用台本などをホームページの新着情報に掲載していただきました。それが評価されたのか、今年の10月に福岡の西南学院大学で発表させていただけることになりました。「こんにちは、ディケンズ先生」を書くことになったきっかけやディケンズという作家になぜ興味を持ったのかなどをお話しする予定ですので、よろしかったら、お越し下さい。それから朗読用台本については、ここヴィオロンで朗読会を開催されている荒井先生に読んでいただきました。次回は6月に予定されていますので、是非お越し下さい。それではコンサートの原稿に戻ります。 次にお聞きいただくのは、ヴィオッティのヴァイオリン協奏曲第22番とM.ハイドンのヴァイオリン協奏曲です。ヴィオッティは18世紀後半から19世紀始めにかけて活躍した作曲家兼ヴァイオリニストで29曲のヴァイオリン協奏曲などを残しています。ミヒャエル・ハイドンは交響曲の父と言われるヨーゼフ・ハイドンの5才年下の弟です。先程申しましたように、グリュミオーはたくさんのレコードを残していますが、特に印象に残ったレコードとして本日お聴きいただくことにしました。実際のところはC.ディヴィス指揮のモーツァルトの協奏曲第1番と第4番をお聴きいただくつもりだったのですが、直前になって手持のレコードがステレオ・テイク・モノラルであることがわかり、変更を余儀なくされたのでした。それでもこのレコードも名演奏ですので、楽しんでいただけると思います。演奏時間は約47分です。

休憩に入る前にもう少し「こんにちは、ディケンズ先生」についてのお話をします。実はこの小説には実在の人物が2人登場します。一人はヴィオロンのマスターでヒロインがここヴィオロンでクラリネットのコンサートをすることになり、主人公の青年と会話を交わしています。もう一人はJRお茶の水駅から徒歩で5、6分のところにある古書店風光書房の店主のSさんです。Sさんは残念ながら、ディケンズは『クリスマス・キャロル』しか読んでいないそうですが、フランス文学、ドイツ文学、ロシア文学について幅広い知識をお持ちで、店に置いてあるステレオでクラシック音楽を聴きながら、Sさんのお話を聞くのを楽しみにしています。昨日も風光書房に行き、Sさんのお話を聴いたのですが、私がSさんに、ゲーテがよくわからない。以前、『ヘルマンとドロテーア』を読んだが、面白くなかった。『ファウスト』は難しすぎて読めないと話すとSさんは、やはりゲーテの作品で最初に読むのは、『若きウェルテルの悩み』でしょう。ナポレオンも愛読していたくらいですから。それから『ウィルヘルム・マイステルの修業時代』の核になっている、ミニヨンの話もいいですよ。でも、私が愛読しているのはゲーテが書いた科学論文で、特に『色彩論』はすばらしい…。と楽しい話が続くのです。古書に興味をお持ちの方は是非一度行ってみられてはどうでしょうか。
ここで少し休憩をいただきます。

後半はモーツァルトのヴァイオリン協奏曲3曲とヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲をお聴きいただきます。最初は、協奏交響曲とヴァイオリン協奏曲第2番をお聴きいただきます。モーツァルトは第6番、第7番のヴァイオリン協奏曲を残したとも言われ、レコードも出ていますが、自筆の楽譜が残っておらず、内容的にも他の5曲のヴァイオリン協奏曲と比較して見劣りするので、贋作であると言われています。第1番から第5番のヴァイオリン協奏曲はいずれも1775年にザルツブルグで作曲されています。モーツァルトは1756年生まれですから、19歳の頃になります。グリュミオーのヴァイオリン、コリン・ディヴィス指揮ロンドン交響楽団との共演、協奏交響曲の方はヴィオラのアリゴ・ペリッチャが加わります。演奏時間は50分です。

プログラムの最後にお聴きいただくのは、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番と第5番です。モーツァルトがお好きな方なら、一度はお聴きになられたレコードだと思います。そうして一度このグリュミオーのすばらしい演奏をお聴きになられれば、折りに触れて聴きたくなることと思います。ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームス、チャイコフスキーのような迫力はありませんが、音が美しく端正な演奏はいつ聴いてもさわやかな感動を与えてくれます。演奏時間は約49分です。

本日もアンコール曲を用意させていただきました。先程からお話ししていますように、私は一昨年の10月に「こんにちは、ディケンズ先生」という小説を出版しました。その小説のヒロインはクラリネットの演奏家でこの名曲喫茶ヴィオロンでブラームスのクラリネット・ソナタ第2番とシューベルトのアルペジオーネ・ソナタを演奏するシーンがあります。今日はその2曲をお聴きいただこうと思います。アルペジオーネ・ソナタはクラリネットの演奏を入手できなかったので、チェロの演奏でお聴きいただきます。ブラームスのクラリネット・ソナタ第2番はカール・ライスターのクラリネット、ゲルハルト・オピッツのピアノで、シューベルトのアルペジオーネ・ソナタはポール・トルトゥリエのチェロ、マリア・デ・ラ・パウのピアノでお聴き下さい。

本日も、レコードコンサートにおつき合いいただきありがとうございました。私のレコードコンサートは少し聴いていただくだけでも、歓迎致しますので、よろしくお願いします。ありがとうございました。