本日は、お忙しい中、レコードコンサートにご来場いただきありがとうございます。このレコードコンサートは、ヴィオロンのすばらしいオーディオ装置で私の愛聴盤をお聴きいただくもので、お聴きいただくレコードもなるべくオリジナルに近い音の良いものを選んでいますので、ハード、ソフト共に優れた音楽を心行くまでお楽しみ下さい。なお、コンサートと言いましても普通の営業と変わりませんので、くつろいでお聴き下さい。

今回は、「フリッツ・クライスラーをLPレコードで聴く」ということで、オーストリア出身のヴァイオリニスト フリッツ・クライスラーのピアノ伴奏によるソナタと小品の演奏を、オーケストラ伴奏による協奏曲の演奏をお聴きいただきます。 フリッツ・クライスラーは、1875年にウィーンの音楽好きの医師の家庭に生まれました。3才の頃からヴァイオリンを習い始めましたが、すぐに才能が認められ、ウィーン高等音楽院に入学します。10才で首席卒業、さらにパリ高等音楽院を12才で首席卒業しました。1888年にはアメリカのボストンで初演奏会を開いて成功を収めます。その後父親の勧めで医学を志しますが肌に合わず、オーストリア軍に入隊します。クライスラーは軍人になろうと決心しましたが、家族の要請で1899年頃に音楽界に復帰し、ベルリン・フィルと共演します。その後、クライスラーは1934年頃まではロンドン、ベルリンを中心に活動していましたが、ナチスが政権を獲得する頃からドイツを離れ、フランス、アメリカへと移住して行きます。クライスラーは1943年にアメリカ国籍を取得し1950年に引退しますが、引退の引き金になった1941年の交通事故までが実際の活動していた時期と言えると思います。クライスラーの全盛の頃はレオ・ブレッヒ指揮ベルリン国立歌劇場管弦楽団とベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を入れた1920年代と考えられますが、1935年から38年の頃にロンドンで多くのレコーディングをしており、その時に作られたSP盤は今でも愛好家の間でコレクターズアイテムとなっています。本日はその録音の中からLPレコードとしても残っている、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ、ベートーヴェン、ブラームスのヴァイオリン協奏曲、そして彼の自作および大作曲家の編曲をこちらはピアノ伴奏でお聴きいただきます。

最初にお聴きいただくのは、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第4番と第5番「春」です。第5番「春」はよく知られていて、第9番の「クロイツェル・ソナタ」とカプリングされていることが多いのですが、本日は第4番と共にお聴きいただきます。ベートーヴェンは10曲のヴァイオリン・ソナタを残していますが、この「春」「クロイツェル」の2曲以外にも、第2番、第4番は内容が充実していて、私の好きな曲でもあります。クライスラーはその全曲を録音していますが、オイストラフやハイフェッツも残しており、こちらも音の良いレコードが揃えば聴いていただこうと思っています。演奏時間は約38分です。

次は、クライスラーの自作と大作曲家の編曲をお聴きいただきます。クライスラーは自作の中に〜の様式による〜という作品をいくつか残していて、大作曲家の作品の一部を取り入れていたと称していましたが、のちにそのほとんどがほぼ自作であることがわかります。クライスラーは、「自作ばかりでは聴衆が飽きるし、また自分の名前が冠せられた作品だと他のヴァイオリニストが演奏しにくいだろう。だから、他人の名前を借りたのさ」と釈明していますが、プニャーニの様式(スタイル)による前奏曲とアレグロなどは充実した曲なので、プニャーニの名前を冠することで、この曲が後世に残る名曲となったのなら、クライスラーのしたことは正しかったのかなと私は思います。演奏時間は約47分です。

ここで少し休憩をいただきます。

後半最初の曲は、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲です。先程も言いましたが、クライスラーは1926年にレオ・ブレッヒとの共演で同曲のレコードを残しています。こちらの演奏の方が内容は充実していると言えるでしょうが、 録音が古く、外国盤のLPは見たことがありません。日本盤の復刻LPを見たことがありますが、音がよくないと聞いていて未聴です。今からお聴きいただく演奏は聴いているとやはり終楽章のところで技巧の衰えを感じますが、ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の大家の演奏として聴く価値が十分ある演奏だと思います。演奏時間は44分です。

プログラム最後の曲は、ブラームスのヴァイオリン協奏曲です。先程、お聴きいただいたベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の解説の際に技巧の衰えを感じると言いましたが、このレコードではそのようなことはなく、名演と言えるもので、最後まで巨匠の技巧の冴えが聴けるすばらしい演奏になっています。クライスラーはこの曲の自筆原稿を手放さずにずっと持っていて、彼の死後、アメリカ国会図書館に寄贈されたとのことです。楽器や美術品の蒐集の趣味があったクライスラーですが、この曲に対し強い思い入れと深い愛着があったので、名演を可能にさせたのだと思います。

演奏時間は約37分です。 本日もアンコール曲を用意させていただきました。後半の2つのヴァイオリン協奏曲で指揮をしているジョン・バルビローリの演奏をお聴きいただきましょう。彼にはブラームスの交響曲全集の名演がありますが、今日は、第10回のLPレコード・コンサートでもお聴きいただいた、ディーリアスの「アパラチア」をお聴きいただきます。この「アパラチア」は私がもっとも好きな曲のひとつで、月に一度は聴かないと気が済まないほどなのです。前半は何度も繰り返される郷愁を誘う旋律にからむ2本のハープ、後半はなぜか英語の歌詞でテノールが独唱し、そこから盛り上がって行き最高潮に到達し曲が終わるところが何度聴いてもすばらしいと思います。演奏時間は約39分です。 もう一曲は、シューベルトの未完成交響曲です。演奏はカルロス・クライバー指揮ウィーン・フィルです。演奏時間は約24分です。2曲続けてお聴きください。

本日も、レコードコンサートにおつき合いいただきありがとうございました。私のレコードコンサートは少し聴いていただくだけでも、歓迎致しますので、よろしくお願いします。ありがとうございました。