プチ小説「座談会『こんにちは、ディケンズ先生』第5巻について考える』

「今日も、船場さんの著作『こんにちは、ディケンズ先生』についてここにお集りの方に語っていただくのですが、どうも船場さんばかりが話していて、われわれがどのように思っているかが充分に読者の皆さんに伝わっていません。今から、橋本さん、いちびりさん、鼻田さん、私の順で『こんにちは、ディケンズ先生』のこと、主にこれからのことを語ってもらいたいと思います。まず、橋本さんからどうぞ」
「プチ小説は今回で1000となるが、田中君と私の「青春の光」は14、「こんにちは、ディケンズ先生」は15で初登場している。最初はそれぞれの世界を展開していたが、いつの頃からか「青春の光」に作者の船場弘章が登場するようになり、われわれも船場君の小説が売れるようにと一肌脱ぐということになった。それで私は身体に金粉やメリケン粉や青のりを塗りたくって宣伝に励んだのだが、精一杯頑張ったのでよい思い出になっている。恐らく船場君も精一杯『こんにちは、ディケンズ先生』を書いたのだから、第3巻と第4巻を出版してすぐの頃には心地よい疲労感を感じたことだろう。人間の創作活動というものは、達成感さえあれば継続するものだが、船場君の場合、達成感はあるだろうが、少しの友人だけが読者なので、孤独な戦いを、いや孤独な作業を続けていることと思う。『こんにちは、ディケンズ先生』は第4巻までで船場君がやりたいことをやったと私は思うので、あえて第5巻を出版せずに船場君は他の小説を手掛けても良いのではないかと思う。大学図書館や公立図書館への受け入れを期待する自費出版をこれからも続けるよりも、懸賞小説などに応募して普通のやり方で小説家になればいい。もちろん今まで築いた、ディケンズ・フェロウシップで親しくなった諸先生方との関係を大切にして、これからもバックボーンとしてディケンズの小説を大切にして行けばよいと思う」
「わしは『こんにちは、ディケンズ先生』は船場の生き甲斐やと思っとるので、これからもこの小説を書き続けてほしい。1~4を書いている頃は、日常生活と並行して書いていたから、人物に命が吹き込まれてそれぞれの登場人物が生き生きと描かれていたと思う。生活とリンクしていたからこそ『こんにちは、ディケンズ先生』が楽しく弾んだ小説になったのだと思う。そやから1年以上続編を書いていない現状では、続きを描くためにはもう一度一からやり直す気構えでないとええもんは書けんと思う。それに船場が50代前半に楽しんで書いた小説の高揚した気持ちを取り戻すのは難しいと思う。あの頃は登山、フェロウシップで知り合った先生方との交流、LPレコードコンサートの開催と楽しいことが一杯あったが、今はコロナ禍もあって仕事をするのが精一杯というような状況となっとる。それでも何とか頑張って、『こんにちは、ディケンズ先生』を続けて書いてほしい。これからの人生をどうするか、近く大きな決断が必要やないかと思っとる」
「船場はんはディケンズの著作が心底好きみたいやけど、クラシック音楽も心から愛しとる。そやから『こんにちは、ディケンズ先生』の第1巻と第2巻は文豪ディケンズの作品やイギリス文学についての蘊蓄を披露しとったけど、第3巻と第4巻はクラシックの話ばかりで埋め尽くされとる。小川家(弘士、秋子、深美、桃香)と音楽のかかわりを描くばかりでディケンズ先生のことはほとんど書かれていない。ディケンズの小説の登場人物を船場はんの小説に登場させたりしているけど、やっぱり第1巻と第2巻のような小川とディケンズ先生との深い繋がりはなくなってしまった気がする。船場はんは第3巻を出版すると決めた際に大体の方針を決めたと思うんやけど、相川さんの存在が小川より大きくなるとは予想せんかったのやと思う。相川は自分が好きな西洋文学について解説し、自ら書いた小説を披露している。また小川が小説を書くとその小説の添削をしよる。自らがピアノの達人(クラシック音楽に精通している)で外交官であることから小川の娘が海外で修行するようになるといろいろ世話を焼いている。この調子で第5巻ということになるともっと相川の役割が増えて、小川やディケンズ先生の出番がますます少なくなることだろう。『こんにちは、相川さん』にならんよう、気ィつけてほしい」
「ぼくは船場さんの生み出した人物に好感を持っているので、引き続きその方々が登場する小説『こんにちは、ディケンズ先生』を読みたいと思っています。でもさっき鼻田さんがいみじくも仰られたように、特に第4巻では相川さんが目立ちすぎて、どちらが主人公だかわからないくらいです。主人公小川さんの家族に何か危機が迫って家族が団結するというのもありかなと思いますが、登場人物を不幸にさせないのが船場さんの方針のようですから、望みが断たれてしまうようなそんな展開は意気地なしの船場さんには期待できないでしょう。そういうことの解決のためにはしばらく目を他に転じることが必要だと思います。懸賞小説とするかしないかは別としてしばらくは別の長編小説を書いてみて、何らかの手ごたえがあれば、『こんにちは、ディケンズ先生』の続きを書き始めるというのがいいのかなと思います。2~3年はいろいろやってみて、うまく行っても、行かなくってもまた『こんにちは、ディケンズ先生』を書いたらいいと思います」
「みなさんの有難い心からの励まし、いろんなご提案を大切にしてこれからもプチ小説を書き続けたいと思います。読者の皆様のご愛顧のほどこれからもよろしくお願い致します」