プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 自宅で手軽に編」

わしがちいこい頃は、体力が有り余って公園を走り回ったり、川で魚を追いかけてもぐったりするということが全然なかったから、中学生くらいになるとラジオを聞いたり、レコードを聞いて家で過ごすことがほとんどやった。そやけど天体ショーや花火を見るのが好きで、自宅の天井に穴を開けたり、窓を花火大会の会場に向けることはでけんかったから、しゃーないなと言いながらも近所の見晴らしがええ高台に行ったもんやった。小学生の頃は、月や火星(これは宇宙人と関連付けられることが多かった)、木星(当時は、太陽系で一番大きくて縞模様が神秘的な印象やった)、土星(あの輪っかは一体なんなんやという興味とカッコよさやな)に興味があったけど、月はともかく惑星は望遠鏡がないと観測でけんと知ってそれ以上のことはせんかった。それでも中学2年生の時に、にわかにジャコビニ流星雨のことが新聞で取り上げられて、わしの心にむらむらと探究心が湧きあがりにわか雨が降ったんやった。って、わしの言い方おかしかったら、言うてな。ま、そういうことで、もっと見晴らしのええ、空が暗いところに行ったら、10個しか見られへんところが100個見えるちゅーことになって、遠征する話も出たんやが、付き添いの大人がおらんし交通手段もないちゅーことで、近所のおいなりさんの際で(そこが1キロ四方で一番高いところやった)観測しようということになった。ほやけどその日は曇りでたまに雨がぽつぽつ降るような天気で、午前1時過ぎまで空を見上げたけど、何にも見えんかった。そんなことがあったから、「天気が悪かったら天体ショーはさっさと諦めよう」という鉄則ができたわけやが、ちょびっとでも、空が見えてたら頑張るちゅーのは今でも変わらん。ホンマ、わしは諦めの悪い男や。高校の時にウエスト彗星を見て感動したわしはまた天体ショーに興味を持つようになったわけやが、大きな彗星の出現というのは期待できず、その後はヘール・ボップ彗星があったくらいやった。やっぱり、2、3年に一度の出現の期待が出来る、皆既月食、部分月食、しし座流星群なんかを楽しむのがええのかも知らん。この2021年11月には、しし座流星群が期待でき(流れ星の数が多い)、11月19日にはほぼ皆既(97%)の部分月食がどちらも東の空で見られるということやった。わしの寝室の窓が大きく東に開いているので、こら、いつでも観測できるわいとにわか雨がざーざー降り出したんやったが、残念ながら1勝1敗というところやった。11月18日の未明にしし座流星群が活発になるちゅーことやったんで、夜中に目ェが覚めた時に、それは午前3時ごろやったが、障子と窓を開けて東の空を仰いだんやったが、厚い雲におおわれて星はちーとも見られんかった。空隙があったら、1時間ほどぼーっと眺めてたかも知らんが、生憎晴れそうになかったので、「天気が悪かったら天体ショーはさっさと諦めよう」という鉄則を思い出して、その時は床に就いたのやった。そんなんやったから、部分月食もあんまり期待せーへんかったのやが、晩になって午後6時前に自宅の3階の窓から東の空を眺めると、澄んだ空に部分月食の月が浮かんどった。わしは皆既月食を数回見たことがあるから、あんまり期待せんかったんやが、自分の家の部屋の中から見る月はあほな顔してしばらく見ていても、あんた大丈夫でっかと言われる心配がないから、これはこれで値打ちがあると思うたもんやった。船場も天文ファンで、今から25年ほど前は天体望遠鏡を購入して、週末にはむらむらと探究心が沸き起こって、にわか雨がざーざー降り出したと言うとったが、その部分月食は見たんやろか。おーい、船場ーっ、おるかー。はいはい、にいさん、もちろん私も見ました。そうしてカメラで写真も撮りましたよ。写真ちゅーて、お前がしょっちゅう使っとるライカM9は90ミリの望遠レンズしかないやろ。ええ、最初はそれを手取りで撮ってみたんですが、ASA2500にして絞りを2にしても2秒ほどの露出なので手振れをしてしまいました。それで三脚に取り付けて撮影しました。そら、手振れするやろ、ほんでお前それだけで満足したんか。いいえそれでは、画面の100分の1くらいの大きさなので、ニコンD90のズームレンズを120ミリにして撮影しました。そうしてトリミングをしてみたら、そこそこ見られました。ほう、これがライカM9に90ミリのレンズをつけたやつで、もうひとつがニコンD90に最大120ミリのズームレンズをつけたやつか。



まあ、トリミングしても、こんなもんなんかな。そうですね、でもこれらが、自宅で気楽に撮ったものということに意義があります。夕刻に(高度が高くないので部屋の中からでもレンズが向けやすい)澄んだ空で皆既月食や97%に近い部分月食が見られるというのは、まさに一生に一度あるかないかでしょう。そうやな、わしらみたいなめんどくさがりにとっては、この上ないよい条件での観測やったんやな。仰る通りです。今度はいつ見られるんやろ。2001年のしし座流星群がすごかったというのを聞きますが、東の空でそれがまたあったら、夜中でもシャッターを切り続けると思います。まあ、近所迷惑にならんようにな。