プチ小説「名曲の名盤 シューベルトの室内楽編」

「こんにちは、「青春の光」で橋本さんの相方をしている田中です。プチ小説のページがいよいよvol.6に入ったということで何か新規格をと船場さんが頭を歯磨きチューブのように絞って考えた企画が、この「名曲の名盤」ということです。古今東西のクラシック音楽の名曲の名盤を紹介してゆこうという企画で、船場さんがジャイアントスイングのようにぐるぐると家にある折りたたみ椅子を回しながら考えました。どうしたら読者の皆様に楽しんでいただけるか。最初に浮かんだのが、われわれ、常連カルテット(橋本、田中、いちびり、鼻田)の中の二人を選んで対話をさせるということで、最近出演の機会が少なくなっている、鼻田さんと私がすることになりました。われわれは船場さんの分身であり、クラシック音楽の知識もその程度で、名曲、名盤の情報もほとんどが専門誌に書かれている一般的なものですが(しかも2、30年前のものです)、面白おかしく、たまには関係のない話も織り交ぜて紹介させていただきますので、よろしくお願いします。ところで鼻田さん、まず最初に取り扱うのは、シューベルトの室内楽ということですが、何かコメントをいただけますか」
「オウ ブエノスディアス 田中君、よろしゅうに。わしがシューベルトのことは余り知らないと言うとこのプチ小説は終わってしまうので、田中君もわしも船場弘章と同じだけのクラシック音楽の知識を持っとるちゅーことで始めさせてもらいます。ところで田中君は、シューベルトの室内楽ちゅーたらまず何が浮かぶかな」
「ぼくはシューベルトの音楽では、ピアノ五重奏曲「ます」と交響曲第9番「ザ・グレイト」が最後まで明るい気持ちで聞けるのでよく聴きますね。レコードとしては、「ます」はスコダとウィーン・コンツェルトハウス四重奏のウェストミンスター盤、交響曲第9番はたくさんあって、ミュンシュ、フルトヴェングラー、バルビローリ、ベーム、ジュリーニの中でどれか選べと言われたら、ジュリーニ盤かな」
「これこれ、船場はんが室内楽ちゅーてんのやから、交響曲は今日はあかんでぇぇ。ところでわしはシューベルトの暗い曲も大好きや。そやから弦楽五重奏曲も弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」もよう聴くよ。弦楽五重奏曲はやっぱり、ギュンター・ヴァイス(Vc)が加わるウィーン・コンツェルトハウス四重奏団やな。「死と乙女は」イタリア四重奏団がええんとちゃう」
「ピアノ三重奏曲は第1番と第2番がありますが、どちらがお好きですか」
「第1番の方がカザルスのレコードもあるし出だしはええけど、全体を聴いたらやっぱり第2番の方がええかな。第2番の名盤は少し録音が古いけど、ルドルフ・ゼルキン、アドルフ・ブッシュ、ヘルマン・ブッシュの3人が演奏したEMI盤やな。それよりシューベルトの室内楽ちゅーたら、もっとええのがあるんとちゃう」
「そうですね、八重奏曲は演奏時間も1時間近くで楽器も8つですからね。ベートーヴェンの七重奏曲のような素晴らしい曲を作曲したいと考えて作曲された曲で、ベートーヴェンの七重奏曲の楽器編成はクラリネット、ファゴット、ホルン、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスですが、シューベルトの八重奏曲はそれにもう一つヴァイオリンが加わるという似た楽器編成になっています。明るく心地のよい曲で多くの名盤があります」
「この曲は大概クラリネットの演奏家がリーダーとなるんやが、ギドン・クレーメルがリーダーをやったレコードが出てるんやってな」
「そうですね、ファゴットの第一人者クラウス・トゥーネマンも一緒にやっているので、一聴の価値は充分にありますね」
「クラリネットが主役のはどんなんがある」
「それは昔から定評のあるレオポルド・ウラッハのウェストミンスター盤とメロス・アンサンブルのメンバーによるEMI盤でしょう」
「そう言えば、田中君はメロス・アンサンブルのまとめ役ジェルバース・ド・ペイエのファンやったな」
「そうですね、ロマン派の楽曲を沢山レコードに残していますね」
「クラリネットといえば、ピアノ伴奏のアルペジョーネ・ソナタも室内楽やな。それをチェロと違ごうて、クラリネットで演奏したのがいくつかあるね」
「そうだ、それをド・ペイエも録音しています」
「他にないかな」
「まあ、このくらいでしょう。ぼくとしては昔レコードをよく聴いた、チェロとピアノのアルペジョーネ・ソナタが今も心に残っています」
「ダニール・シャフランの名演やな。田中君は、初心者やった頃、この演奏に感銘を受けて、毎日のように聴いていたそうやんか」
「そうですね、懐かしい思い出ですね」