プチ小説「ブラームスの室内楽編」
「前回はシューベルトの室内楽の名曲の名盤を検討しましたが、今回はやはりロマン派の作曲家でたくさんの素晴らしい室内楽曲を残したブラームスを取り上げたいのですが、鼻田さん、何かご意見ありますか」
「ブラームスの室内楽でええのは、一つの楽器とピアノという組み合わせやと思う。ヴァイオリン、チェロ、クラリネット、いずれも素晴らしい楽曲が残っとる」
「そうですね。それではまずヴァイオリンから行きましょう。第1番「雨の歌」は、鼻田さんどうですか」
「これはわしにとって懐かしい曲や。シャフランが演奏するシューベルトのアルペジョーネ・ソナタを田中君が毎日のように聴いとったそうやが、わしはオイストラフが演奏する「雨の歌」を毎日のように聴いとった。」
「そう言えば、ブラームスのヴァイオリン・ソナタ3曲はオイストラフの独壇場とよく言われますね」
「そうあの何とも言えないオイストラフのキーッという音色がブラームスの楽曲に合っとる。第2番も心に沁みるええ演奏や」
「チェロ・ソナタはどうでしょう」
「2曲あるけど、どちらも北ドイツの曇り空のようで、心が晴てけーへんのとちゃう。レコードとしてはシュタルケルがええと思うけど、あんまり聴くことはないなぁ」
「それは残念ですね。クラリネット・ソナタはどうですか、鼻田さんは船場さんから勧められてたくさん買われたそうですね」
「そう、ウラッハ、ド・ペイエ、ライスターの他にプリンツなんかも聴いたなぁ。最近はクレッカーがええよと言われたわ」
「ぼくは、ライスターがオピッツと共演したのがベストだと思っています。ブラームスには、クラリネット五重奏曲というのがありますね」
「これは余りに渋い曲なので、老境というのを考えざるを得ない。あまり若い人には勧められんのとちゃうやろか」
「名盤はありますか」
「やっぱり、ウラッハとウィーン・コンツェルトハウス四重奏やな。ジャケットも秀逸やし、こんなジャケットを見ながら聴くと何倍も楽しめそうや」
「それではもう少し演奏者を増やして、弦楽六重奏曲第1番というのがありますが、どのレコードがお好きですか」
「やはりウィーン・コンツェルトハウス四重奏団ともう一人のチェロ、もう一人のヴィオラが加わったウェストミンスター盤がええなぁ。個人的には、カザルス盤も昔から愛聴してきたんやけど」
「スターンなんかと演奏したレコードですね。ぼくはこっちの方が、第2楽章大盛り上がりで好きなんですけど。他にピアノ三重奏曲、ピアノ四重奏曲、ピアノ五重奏曲、弦楽四重奏曲なんかがありますが、いかがでしょうか」
「その他に弦楽五重奏曲、ホルン三重奏曲、クラリネット三重奏曲なんてのもあるけど、どれも心が時めかんかったわ。誰か歌心のある人が自分なりに解釈したら、ええレコードが出来上がるのかも知らんけど、全楽章通じて楽しんで聴けるのは今のところないんとちゃうんかな。ええ曲やなと思うて聴いていると、次の楽章が全然面白ないちゅーのが、ブラームスの室内楽の場合にはよくあるんや」
「なかなか、厳しいことを言われますね」
「そうかもしらんが、わしはブラームスはええ曲をたくさん残してくれはった。そやから尊敬しとるよ。4つの交響曲、2つのピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲、ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲それからドイツレクイエムいずれもとても素晴らしい。そんな作曲家は1つの楽章だけでなくすべての楽章が楽しめる楽曲を作らんとあかんかったのとちゃうか」
「そうですよね、全部楽しめないとつまみ食いをしたくなりますよね」