プチ小説「名曲の名盤 シューベルトの歌曲編」

「最初にぼくが日頃、常々、日常思っていることをお話します。最近、チャイコフスキーがメロディメーカーだという話をラジオで聞いたのですが、ぼくは天才モーツァルトが第1でその次がベートーヴェンだと思っています。でも実際のところはもっと凄いメロディメーカーがいると思うのですが」
「ひーん、それは誰かな」
「鼻田さーん、ひーん、は馬みたいで品がないので、はあとかふーんとかへえとかほうにしてください」
「わかった、わかった。ほう、それは誰かな」
「もちろん、歌曲の王と言われる。シューベルトさんです」
「そうやな600曲以上の歌曲を作曲しているのやから、少なく見積もってもそれ以上のメロディは作っているわけや。ほやけど交響曲なんかはいくつものメロディを重ね合わせて作るし、楽章もシベリウスの第7番意外は複数の楽章があると思う。1曲でひとつのメロディということはないし、よーく考えてみるとマーラーやブルックナーなんかの方が1つの曲にたくさんのメロディが盛り込まれているのかもしれへんな」
「シベリウスの交響曲第7番も前半と後半は曲調が変わり、使われているメロディも変わります。マーラーやブルックナーの交響曲に複数のメロディが挿入されていると思いますが、シューベルトの場合、歌曲で600曲余りということですから、群を抜いていると言っても過言ではないでしょう。特に歌曲集「美しき水車小屋の娘」「冬の旅」「白鳥の歌」が素晴らしいと思います」
「わしはその3つの歌曲集はとても暗くて聞けない。特に「美しき水車小屋の娘」は前半が明るい雰囲気に満ちているので、なおのこと落ち込んでしまう。「水車小屋の花」は昔、コマーシャルに使われていて、ええ曲やな―と思うたもんやった。「しぼんだ花」なんか、フルートの曲にアレンジされてて好きなんやけどなぁ」
「歌詞を読むと落ち込んでしまうのですね」
「そう、同じように歌曲集「冬の旅」の中の「菩提樹」、歌曲集「白鳥の歌」の中の「セレナーデ」それからわしは「海辺にて」なんか好きなんやが」
「そう歌詞の内容を見ていると確かに辛いのですが、ぼくは、「白鳥の歌」はどの曲も美しいので、ウェストミンスター盤を聴きます。ペートゥル・ミュンテアヌーというテナー歌手がフランツ・ホレチェックのピアノ伴奏で歌ったもので、とても素晴らしいので、歌曲集「美しき水車小屋の娘」のレコードも購入してしまいました」
「今、ミュンテアヌーさんはテナー歌手と言っていたようやが、バリトン歌手やないんかいな」
「そうですね、三大歌曲は、デートリヒ・フィッシャー=ディースカウやヘルマン・プライのレコードが有名だから、バリトン歌手が歌うものだと思われるかもしれませんが、エルンスト・ヘフリガーやフリッツ・ヴンダーリヒのようなテノール歌手も歌っていますし、バス・バリトンのハンス・ホッタ―は、歌曲集「冬の旅」だけでなく、歌曲集「白鳥の歌」も出していますよ」
「わしは、バリトンの渋い歌声が暗い歌詞でより陰鬱になってしまうので、テノール歌手が歌った方がええように思う」
「となると、フィッシャー=ディースカウはお嫌いですか」
「実は、何度かラジオでフィッシャー=ディースカウが歌う、歌曲集「冬の旅」を聞いたことがあるんやが、暗すぎて好きになれなかったんや。そやけどシューベルトの歌曲の名曲ばかりを集めたレコードは赤盤で持っててよう聴いたもんや。「君はわが憩い」は大好きや」
「そうですね、ジェラルド・ムーアが伴奏していますし。「魔王」「菩提樹」「セレナーデ」などから入っていく方がいいかもしれませんね」
「それと男性歌手より、女性歌手のアルバムの方がええかもしれん。クリスタ・ルートヴィヒがジェフリー・パーソンズと録音したのんはナンバーワンやと思うでぇぇ」
「ぼくは、「流れ」という歌曲が大好きでそれが聞ける、ルチア・ポップのアルバムが好きですね。それとフィリップスレーベルのエリー・アメリンクは、シューベルト歌曲の定番と言えると思います」
「そうやなぁ、それに異存はないわ」
「シューベルトの歌曲と言うと、デートリヒ・フィッシャー=ディースカウの歌曲集「冬の旅」、ハンス・ホッタ―の歌曲集「冬の旅」やフリッツ・ヴンダーリヒの歌曲集「美しき水車小屋の娘」のジャケットを思い出してしまい、二の足を踏んだり、買うてしまって、えらいことしてしまったと悔やんだりしますが、まずはルートヴィッヒのレコードを購入するのがいいですね」
「くれぐれもEMI盤を買うんやで、グラモフォン盤とちゃうねんで。「アヴェ・マリア」「ます」はめっちゃええから」