プチ小説「名曲の名盤 ブラームスの交響曲編」

「前回がベートーヴェンの交響曲ということでしたので、今回はやはりブラームスの交響曲がいいんじゃないでしょうか」
「そうやなー、ブラームスはベートーベンを心から尊敬していて、ベートーヴェンの音楽体系の根幹部分である交響曲というものを大切にしとった。そやから自分が作曲する最初の交響曲第1番も自分の音楽を結晶させた重厚なものにしたかったようや。何年もかけてじっくり内容を吟味しながら練り上げ、ようやく43才の年に完成させている。それまでの集大成がこの交響曲には見られるというわけや」
「そんな、交響曲第1番のレコードは何がいいのでしょう」
「第一印象でよい印象だったら、それが永遠に続くというのが、船場はんとシャルル・ミュンシュ指揮パリ管弦楽団のレコードとの関係や。船場はんが、将来のことで不安になっていて、どないしょと思っとる時に、船場はんを紙飛行機に乗っけて鞴で勢いよく空へと浮き上がらせてくれた、そんな心を引き立たせる熱い演奏というのが第一印象やったそうや。ほやから、船場はんはこのレコードに心から感謝しとる。永遠の定番は間違いなしや。でもな、ミュンシュは、パリで指揮者デヴューして、アメリカに渡り、またパリに戻っている。言うたら、フランスの指揮者やブラームスの交響曲第1番もボストン交響楽団とパリ管弦楽団のレコードを残しとる。そうなるとやっぱり、ブラームスが生まれ育ったドイツやお隣のオーストリアの指揮者、楽団で聴きたいと思うところや。ほんで、カラヤン指揮ベルリン・フィルまたはベーム指揮ウィーン・フィルとなるわけやが、すんなりとそうならんかったところがわしがおもろいと思うところや」
「何ですか、それは自画自賛されているのですか」
「そうやで、こういうのんはどうしても独断が必要やから、自分が言うことに自信をなくしたらおしまいや。最後まで筋を通して話したら、大概は静聴してくれるもんやで」
「他にいいレコードがあるということですか」
「そう、わしは長らく、オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団とレオポルド・ストコフスキー指揮ロンドン交響楽団のレコードも愛聴しとる。ミュンシュ盤のような熱気はないけどな。ふたりともオーケストラのことを熟知しとる指揮者やから、深みがあって心に沁みる演奏をしとる」
「それでは第2番はどうですか」
「カラヤンはブラームスの交響曲全集を3回録音している。中でも2回目の録音はまさにカラヤンが躍動している頃で若々しい心が弾む音楽になっている。ブラームスの田園交響曲と言われるこの曲はその頃のカラヤンにピッタリマッチしていた。そやからほんまにこのレコードは素晴らしい」
「他にもありますか」
「実はこれより上の演奏があったんや。東芝EMIで出ていたセラフィムシリーズ(廉価盤1300円)の中に、バルビローリ指揮ウィーン・フィルのブラームス全集があったんやが、この中の第2番がめっちゃええ演奏やった」
「どんなところですか」
「とにかくテンポの設定が的確で、最初から最後までブラームスの音楽に浸れるという感じやし、それにウィーン・フィルがうまい。もちろんそうなっているのは偏にバルビローリがちゃんと指揮しとるからなんやが、このレコードを聴いてからわしはバルビローリが好きになり、シベリウス、マーラー、ディーリアスなんかも聴くようになったんや」
「それでは、第3番はどうですか」
「これは昔から定番が決まっとって、ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団のレコードとなる。ハイドンの主題による変奏曲がカップリングされとって、両方の曲が好きな人には持ってこいや」
「第4番はやはりブルーノ・ワルター指揮コロンビア交響楽団ですか」
「そうやなあ、これはワルター盤が定番になるなぁ。ほんでもこの曲は、聴きどころぎょうさんのブラームスの作曲技術の総決算という曲やから、水準以上の演奏をしたら、どれも名演になるような気がする。オーケストラの人たちはこの曲を演奏する時に特に生き生きと楽しそうに演奏しているような気がするんや。暗い曲やけど」
「フルトヴェングラーの演奏はどうですか」
「ブラームスがかっちりと譜面を埋めていて、フルトヴェングラーが得意な、テンポを自在にいじくったり、ポルタメントの多様は難しいようや。ほやから平凡な演奏になってしもうて、際立つ演奏がでけんかったんとちゃうやろか」
「そうかもしれませんね」