プチ小説「名曲の名盤 ショパンのピアノ協奏曲編」

「今回は、ショパンのピアノ独奏曲ということなんやけど、田中はんはどれを扱ったらええと思う」
「ぼくは、独奏曲ということですから、2つの協奏曲やチェロとの共演のチェロ・ソナタと序奏と華麗なポロネーズ、それからいくつかの歌曲は外すことになると思います」
「ほんでついでに3つのソナタ、舟歌、タランテラなんかの小曲は外して欲しいねんけど、どんなもんかな」
「なぜですか」
「ピアノ・ソナタ3曲はどの曲も独立して演奏される機会が多くて、しかもレコードもばらばらや、それに第2番の第2楽章は、葬送音楽で全然聞かん。舟歌なんかの小品もほとんど聴くことはない。舟歌は名曲といわれるが、恥ずかしながらわしは聴いたことがない。そんな状況やから、悪いけど、前奏曲、ノクターン、バラード、スケルツォ、ワルツ、ポロネーズ、マズルカだけにしてくれへんかなと思うんや」
「それは鼻田さんが決められたらいいことだと思います。聴いてもいない曲をあたかも聴いたように見せて、一般的な評価を提示するだけでは心がこもっていないし、具体性にも欠けると思います。ではまずノクターンから行きましょうか」
「そうしましょ。実は、わしはサンソン・フランソワのノクターン集が大好きなんやが、フー・ツォンのも好きやなぁ」
「ぼくも、フー・ツォンさんのノクターンのCDを持っていますが、やさしくて、しっとりしていて大好きです。あとアルトゥール・ルビンシュタインの演奏も一聴の価値がある名盤だと思います」
「ルビンシュタインのショパンのレコードはどれも一聴の価値があると思うわ。どれかひとつと言われると困るんやが、わしは、ポロネーズとマズルカが好きやな」
「ぼくもルビンシュタインのマズルカとポロネーズに惹かれます。いずれもポーランドの民俗音楽で、ポーランド出身のルビンシュタインが他のピアニストよりリズム感とか曲に対しての愛着というものに一日の長というのがあるように思えるのです」
「そうやなあ、小さい頃からポロネーズなんかが耳の近くで鳴っとったかもしれんなぁ」
「マズルカはウィリアム・カペルの名演がありますね」
「そうそう、RCA盤に高額な値段が付いとったのを覚えてるわ」
「ポロネーズ集の7曲の中には入らないもので、華麗なる大ポロネーズというのがあります」
「そう映画「戦場のピアニスト」で有名になった曲やが、これはフリードリッヒ・グルダのアンコール集(アマデオ盤)に収められとるのがええんとちゃう」
「そうですね。「戦場のピアニスト」で演奏されたショパンのもう一つの有名な曲、バラード第1番は誰がいいですか」
「そらもちろん、アルフレッド・コルトーやな。コルトーは前奏曲もバラードも練習曲もええよ。前奏曲とバラードが1933年、練習曲は1933から1934年と言われているから、コルトー56から57才の頃やった。まだまだこれからやーんという感じや」
「でも録音が古くてノイズが多いのが気になります」
「昔のSP復刻盤というLPレコードはノイズが気になったけど、最近のCDはかなり改善された。それでも気になると言う人はLP初期盤を買うたら、ほとんどノイズはない」
「ポリーニやアルへリッチなんかはどうですか」
「どちらもこじんまりとまとまっているという気がしてなぁ、のめり込めへんわ。コルトー、ルビンシュタイン、のようなオーラが彼らにはない気がするんや」
「それではフランソワはどうでしょう」
「繰り返して言うけど、わしはフランソワのノクターンが大好きや。毎日聴いててもええ。そやけど他は...他は...敢えて聴きたいのはないなあ。スケルツォの名盤がないから、スケルツォ集が聴きたくなったら聴くけど...そうやワルツは、リパッティに限るちゅーのを忘れとった」
「そうですね。リパッテイのワルツ集を忘れていました。こちらは1950年に録音されたので、SPレコードだけでなく、LPレコードでも安心して聴かれます」