プチ小説「名曲の名盤 モーツァルトの協奏曲編」

「モーツァルトの協奏曲について何か話したいことがあるのですか」
「そうや、田中はんは、モーツァルトのどんな曲が好きなんかな」
「ぼくはピアノ独奏やヴァイオリン・ソナタなどのこじんまりした曲や交響曲や大編成のディヴェルティメントやセレナードよりも協奏曲が好きですね。その次に3~5人で演奏する室内楽曲かな」
「わしも田中はんと同じで協奏曲が大好きや。いろんな楽器の独奏にオーケストラが加勢して曲を盛り上げて行く、時には音が重なり合ってきれいなハーモニーを作り出し、時には静かに分らないほどの音で演奏を支えている。主役は君なんだ。われわれが精一杯助けるから頑張れよという感じで盛り上がる協奏曲は、モーツァルトのクールな他のジャンルの曲と違った味わいがあるような気がするんや」
「まあ、独自の見解はそのくらいにして、先程、独奏と言われましたが、いくつかそれと違う曲がありますね。そのあたりから始めましょうか」
「そしたら、誰もが大好きな、フルートとハープのための協奏曲から行こか。これは、ジャン=ピエール・ランパルとリリー・ラスキーヌ、ジャン=フランソワ・パイヤール指揮パイヤール室内管弦楽団の演奏で決まりなんやが、オーレル・ニコレがフルートを吹いたのとか、ニカノール・サバレタがハープを弾いたのとかを聴いたけど、やっぱりランパルやラスキーヌの演奏には負けてしまう。パイヤールの伴奏も素晴らしいし、クラシック音楽がなくならん限りこのレコードはいつまでも残ると思う。これとカップリングされとる、ジャック・ランスロのクラリネット協奏曲も同じことや」
「そうですか、ぼくは、ウラッハとかもいいと思うんですが。モーツァルトには2曲の協奏交響曲というのがあって、これらは協奏曲のカテゴリーに属します。ひとつは、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットが独奏楽器の協奏交響曲、もう一つは、ヴァイオリンとヴィオラが独奏のものです。管楽器の方はやはりネヴィル・マリナーが指揮したフィリップス盤が定番なのでこれがいいんじゃないでしょうか。弦楽器の方は昔から名盤と言われている、カール・ベーム指揮のグラモフォン盤でしょうか」
「そうやなあ、わしもそのくらいしか知らんわ」
「管楽器が独奏の協奏曲は、クラリネット協奏曲意外には、オーボエ協奏曲、4曲のホルン協奏曲、ファゴット協奏曲、それから2曲のフルート協奏曲があります」
「これはそれぞれの名演奏家と言われる人が名盤を残しとる。オーボエはハインツ・ホリガー、ホルン協奏曲はデニス・ブレイン、フルート協奏曲はオーレル・ニコレとかジャン=ピエール・ランパルやが、ファゴット協奏曲はグラモフォン盤のディートマール・ツェーマンがええのか、ウエストミンスター盤のカール・エーデルベルガーがええのか、今でも活躍しとる、ネヴィル・マリナー指揮(フィリップス盤)のクラウス・トゥーネマンがええのか迷うところや」
「それでは次はピアノ協奏曲に行きましょう」
「ピアノ協奏曲はピアノが小さなオーケストラと言われるくらいの機能がある楽器やから、他の楽器と比べて音域が広くて多彩な音が出せる。そやからモーツァルトも積極的に作曲に取り組んだみたいで、27曲のピアノ協奏曲を残しとる。それでもやっぱり名曲として残っているのは、第20番からの8曲と第9番「ジュノーム」ぐらいやろ」
「個人的には、盲目の女流ピアニストでシチリアーノの作曲もしたパラディスに捧げられた第18番もいいと思うのですが」
「わしもその曲はよう知っとる。これはブレンデルしかないな」
「第20番、第21番、第25番、第27番はグルダで決まりでしょうか」
「「ジュノーム」はハスキルが名盤と言われとるが、第20番もハスキルがええと思うよ。第21番はディヌ・リパッティかな。第22番はアニー・フィッシャーかな。第23番はケンプで、第24番はロベール・カサドシュやな。第25番はグルダで、第26番はイングリット・ヘブラーがええとして、問題は第27番やな」
「そうですね、たくさんのレコードが出ていますから。ぼくはバックハウスが好きだな」
「わしはカサドシュかな。ほんでー、最後はヴァイオリン協奏曲やけど、これはアルチュール・グリュミオー、コリン・デイヴィス指揮ロンドン交響楽団で決まりやないやろか」
「そうですね、ぼくも他はクーレンカンプの第5番「トルコ風」くらいしか知らないんです」