プチ小説「名曲の名盤 ブルックナーの交響曲編」

「前回と同様に鼻田さんとブルックナーの交響曲との出会いから始めましょうか」
「カール・ベームのブルックナー交響曲第3番「ワグナー」と第4番「ロマンティック」がキングから廉価盤で発売されていて、買うたんや。第3番は綺麗なメロディが全然出て来んから早々と聴くのをやめた。そやけど第4番は第1楽章だけ魅せられた」
「そうですね、大河の流れを感じさせる雄大な音楽ですよね」
「そうそう、ほやけど何べん聴いても他の楽章がアカン。いまだにそれが続いとる」
「他のレコードはどうでした」
「当時、N響の客演指揮者やった、ヘルベルト・ブロムシュテットがドレスデン国立歌劇場管弦楽団を指揮してPGM録音したのがあって、ベームよりこっちの方をよう聴いたな」
「第1番はどうですか」
「1、2、5、6、は最近になって、初めて聴いたから偉そうなことは言えん。第1番だけ、ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮バイエルン国立交響楽団だけはええ演奏やと思っとる」
「でもブルックナーの交響曲第7番はお好きなんですよね」
「そう、ゲオルグ・ショルティ指揮ウィーン・フィルのレコードを最初キング盤で買うて、第1楽章と第2楽章の美しさに魅了された。「ロマンティック」のように後の楽章が今一つということがなく、第3楽章、第4楽章も充実しとる。ブルックナーの交響曲の頂点という感じや」
「他のレコードはどうですか」
「ショルティ指揮ウィーン・フィルのDECCA盤をよう聴いてた。これでわしはプレミアム盤の魅力に惹かれるようになった。他の指揮者のレコードちゅーたら、ベーム盤、アーノンクール盤、ワルター盤、カラヤンの最晩年の録音を聴いたけど、やっぱり貧困な学生時代から愛聴して来た、ショルティ盤にはかなわんわ」
「ぼくは、フルトヴェングラー指揮ベルリン・フィルばかり聴いています。第8番はどうですか」
「ハープの音が心地よく奏でられて、迫力がある交響曲やからいろいろなレコードを聴いてきた。最初に聴いたんは、ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ミュンヘン・フィルのレコードやった。その後、ベーム盤を聴いたけど、もう一つやった。ほやけど、カルロ・マリア・ジュリーニ指揮ウィーン・フィルのレコードは良かった。充分にこの名曲のよさが理解できてないようにわしは思うから、メータ、クレンペラー、ハイティンクなんかも聴いてみたい気がする」
「第9番はどうですか」
「最初に買ったんは、ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮モスクワ放送交響楽団のビクター盤やった。ジャケットの絵が氷河みたいに見えて、冬にジャケット見て、うー、寒うーちゅーてた。ちょっと、気に入って聴いてたんやが、オットー・クレンペラー指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団のレコードを聴いて、魅了された」
「この交響曲は未完の曲ですよね」
「そう第4楽章を作曲している途中で、ブルックナーは亡くなった。終楽章が、未完であれば、宗教合唱曲「テ・デウム」を終楽章にとブルックナーが言うていたらしいし、実際そういうかたちでコンサートで演奏されたりするようやが、やっぱり3つの楽章の方が収まりがええ」
「3つの楽章の方が収まりがいいのですか」
「3つの楽章だけで、55分ほど要する。テ・デウムだけで20分余りかかるから、全部で75分ほどかかる。第1楽章と第3楽章が重厚な落ち着いた音楽なので、それだけでもブルックナーの音楽が堪能できる。テ・デウムを一緒に演奏するのは、蛇足やと思うよ。さっき言うたクレンペラー盤は、東芝EMI盤から始まって、Angel盤、EMI盤と3枚買うた。渋谷の名曲喫茶ライオンでも2回持参して掛けてもろた。もう1回聴きたいなと思うけど、いつになることやら」