プチ小説「名曲の名盤 チャイコフスキーの交響曲編」
「チャイコフスキーの交響曲の聴き始めは、ラジオ番組をエア・チェックした、オットー・クレンペラー指揮フィルハーモニア管弦楽団の第6番「悲愴」やった。わしはこの演奏が気に入ったんで、すぐに東芝EMIの廉価盤を購入したんやが、FMfanコレクション オーケストラの本の名盤カタログに載ってた、アバド指揮ウィーン・フィルの「悲愴」を見て、ジャケットのアバドのかっこよさに惹かれて、すぐに購入した。ほんでー、クレンペラーのカセットテープを気軽にラジカセで、落ち着いて聴ける時はアバドのレコードをステレオでと使い分けて聴いとった。それが10年くらい続いたんやったが、ある時、ジャン・マルティノン指揮ウィーン・フィルの「悲愴」が名演やとの情報を得て、オーケストラもウィーン・フィルやし、一回聴いてみよかなと思うて、キングの廉価盤を中古レコード店で購入したんやった。これがものごっつうよーてな、今でもこのレコードはよう聴くんや」
「チャイコフスキーの交響曲はエフゲニー・ムラヴィンスキーがいいと聴きますが」
「聴いたことがあるけど、わしはアバドやマルティノンの方が好きやな。「悲愴」やったら、N響も指揮した、エフゲニー・スヴェトラーノフの方がええんとちゃう。それからこれは戦前のオランダの指揮者やけど、ヴィレム・メンゲルベルクの演奏も凄いよー。ポルタメントの多様で有名で、彼のベートーヴェンの交響曲、マタイ受難曲、チャイコフスキーの交響曲第5番と第6番は古い録音やのによう聴かれとった。硝子盤がどうこう言ってて、独特の録音か保存かしてたみたいや。フルトヴェングラーもEMI盤があるけど、わしは聴かず仕舞いや。やっぱりフルトヴェングラーはベートーヴェンとブラームスが中心のドイツ音楽と考えとるから、食指は動かんかった」
「第1番「冬の日の幻想」はどうですか」
「この曲は、標題「冬の日の幻想(winter dreams)」とチャイコフスキーがつけたんがよかったんとちゃうんかな。ほんま、そんな感じで、曲のイメージも湧きやすいし」
「誰の演奏がいいですか」
「最初わしは中古レコード店で手に入れた、スベトラーノフ指揮ソビエト国立交響楽団を長年聴いとったが、ある時、カラヤンがこのチャイコフスキーの若い頃の作品を入れとると知って興味を持ったんやったが、レコードは全集でしか手に入らん。CDは出とらんという状況やった。数年前になってようやくCDを購入したが、期待通りの名盤やったわ」
「ぼくも、「冬の日の幻想」のカラヤン盤は素晴らしいと思います」
「第2番はアバド、第3番はスベトラーノフで聴いたが、あんまり面白くなかった。第1番があんなによかったのになんでかなと思ったことだけを覚えとる」
「でも、第4番、第5番、第6番は素晴らしいと思います。マンフレッドというのがありますが」
「一度だけ聴いたけど、もう一度聴きたいとは思わんかった。バレエ音楽のような交響曲と言われるし、演奏時間も50分以上やからな」
「第4番はどうでしょうか」
「この後に出て来る第5番の名盤がレオポルド・ストコフスキー指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団に陶酔したわしは、交響曲第4番も名演に違いないと思うて、アメリカ交響楽団を指揮したレコードを買うたんやが、いまいちやった。同じ頃に東芝EMIのセラフィム・シリーズという廉価盤で、コンスタンティン・シルヴェストリの第4番が出ていてこちらも購入したんやったが、こっちばかり聴いてな、ストコさんの方はあんまり聴かんかった。カラヤンは聴いてみたいけど、ショルティがいまひとつやったから、どうやろな」
「それじゃあ、シルヴェストリ盤がベストですか」
「そうやな。そやけども、わしはこの曲が大好きでな。特に真ん中の2つの楽章が魅力的なんや。そやから、ええのがあるよーと言われたら、すぐに購入して聴くでぅぅぅ、違った、聴くよぇぇぇ」
「そうですか、それでは最後に第5番をどうぞ」
「わしが、クラシック音楽と仲良しになったんは、1つは、ミュンシュ指揮パリ管弦楽団が演奏する、ブラームスの交響曲第1番で、もう一つが、さっき言うた、ストコフスキーのチャイコフスキー交響曲第5番や。ブラームス交響曲第1番はええのがようけあるけど、この曲のストコフスキー盤は極めつけやと思う。みなさんも、はよこの曲を腰を据えて聴いて幸せな気分に浸ってちょうだい」
「仰る通りだと思います」