プチ小説「青春の光12」
「橋本さん...」
「田中君、久しぶりだね。ネタがなくても、気楽に訪ねてくらたらいいんだけど」
「いいえ、それでは、修行といえません。今回のネタは、「ビーフシチューのおいしさの謎」です」
「なんだか、お腹がすいて来る話だが...」
「失敗続きのB君でしたが、好きな食べ物がありそれはその日の献立の中にもあったビーフシチューでした。
B君の会社では昼食はバイキング形式になっていて、好きなだけ皿に盛ることができました。B君は
いつものようにカレー皿一杯にビーフシチューを入れて、他にもいつもと同じ分量のごはんとおかずを
盛りつけて、席に着きました。B君は好きな食べ物を最初に食べる傾向があり、席に着くとすぐに皿の縁に
口を付けて飲めるところまでビーフシチューを飲んでみようと考えました。B君がビーフシチューの入った皿を
持ち上げて口を付けようとしたその瞬間、床が濡れていて躓いたS子が身体を支えるために近くにいた
B君の肩に手を乗せました。皿はB君の口に達することなく、B君の股間目がけて落ちて行きました。S子が、
「ごめんなさい」と謝ったので、B君は男らしく、「いいんだ」と言って失った大切なものに決別することに
しました。B君は替えズボンを持っていなかったので、近くの金物屋に走って行って洗濯板と金盥を買って来て
ズボンを脱いで洗おうとしましたが、外を見ると夕立ではげしく降っていました。B君は金物屋に走ることは
諦めましたが、周りの人が熱い視線で見つめているのと休憩時間が終わりかけているのとで、何か手っ取り早い
解決はないものかと考えました。S子も、「休憩時間、終わっちゃうわよ」というので、それに反応したB君は
そのまま何も食べないで返却口に食器を置くと外に駆け出して行きました。さっきと変わらず雨が降っていましたが、
そこには下校途中の小学生の一団がいました。B君は恥ずかしくなって、まず両手を上げそしてすぐに下げました。
そして腰のところで大きく手を振りながら、スキップで走り始めました。感じやすい年頃の小学生たちは、B君の
奇妙な行動に触発され自分たちも、持っていた傘を投げ捨てて腰のところで大きく手を振りながら、スキップを
しながら、B君の後に続きました...」
「うーむ、どうもB君には気の毒な話だなぁ。それに大雨で気の毒なことになっている人もいるだろうから、余り
笑えないなぁ。それに「おいしさ」と付くのはなぜかな」
「それは関西のお笑いの世界で「笑いで周りの人を出し抜くことをおいしいところを持って行く」と言われていて
B君の行動はそれに当たると考えたのですが...」
「そうか、でも無理に繋げようとしているな。不自然だよ。自由な創作活動である笑いを評価して苦言を呈するのは
あまり好ましいことではないのだが、B君を逆境に陥れて笑いのネタにしようとするのはやめた方がいいと思うな」
「......」