プチ小説「名曲の名盤 シベリウスの交響曲編」
「シベリウスの交響曲と言えば、第2番ですよね」
「そうやなあ、わしもみなと一緒で第2番から聴き始めたなあ。クラシック音楽を聴き始めて2年目くらいの頃で、最初は一緒にカップリングされていた管弦楽曲の方が、おもろかった」
「「フィンランディア」とかですか」
「それがやっぱり一番やけど、「トゥオネラの白鳥」とか...これはもっと後になるけど、「悲しきワルツ」「カレリア」組曲なんかも、気分を高揚させたり(励ましてくれたり)、心に沁みるええ曲や。ちょっと、シベリウスの管弦楽曲のことを話してええか」
「ええ、どうぞ」
「まず、「フィンランディア」と「トゥオネラの白鳥」は、ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団の第2番とオイストラフがソリストのヴァイオリン協奏曲のレコードにカプリングされていたものや。どちらも管楽器の音、ブラス(金管楽器)の咆哮とイングリッシュ・ホルンの独奏が心に残る感動的な音楽や。どちらも10分足らずで終わるから、クラシック音楽の初心者やったわしには、こっちの方が聴きやすかった。ほやけど何回か聴いているうちに、第2番も素晴らしいと思うようになった」
「第2番のどのようなところがよいのでしょう」
「やっぱりシベリウスは祖国フィンランドの厳しい自然をモチーフにして音楽にしとるから、交響曲もそこが聴きどころと言える。風のうなり、豪雪、嵐、豪雨などの厳しい自然現象を金管楽器の咆哮(重厚で激しい音によるハーモニー)で表現し、雪原を走る小川のせせらぎ、海が静かな時に岸壁に打ち寄せる漣なんかは愛らしい弦楽合奏なんかで表しているようにわしは思う。そんな自然賛歌の交響曲が、第2番や。第1番のあまりに自然の厳しいところばかりを描写してしまった反省から、第2番は厳しいところもあるけど、ほんわかと親しみが持てる交響曲にシベリウスはしたんやと思うわ」
「そうですよね、第1番は第4楽章の第1主題が美しくて、最後のところは素晴らしいと思いますが、他のところは厳しい自然をありのままに描いているという感じですね。第1番と第2番は誰のレコードがよろしいですか」
「第1番は長年アンソニー・コリンズ指揮ロンドン交響楽団のDECCA盤を愛聴しとったが、ジョン・バルビローリ指揮ハレ管弦楽団もええなと思うようになった。第2番は最初にオーマンディの新盤を購入したけど、旧盤もええなと思うて、そっちばかり聴いていたことがある。しばらくして、バルビローリ盤が気に入って聴いていたけど、コリン・デイヴィス指揮ボストン交響楽団のレコードがええよと聞いていて、たまたまシルバーロゴの全集が中古レコード店で見掛けたんで購入したんやった。第2番より第7番がよかった。そうそうボストン交響楽団は、コリン・デイヴィスのずっと前にセルジュ・クーセヴィツキが第2番を録音していて、大枚はたいて、確か1万円やった、買うたけどまあまあやったなぁ」
「シベリウスの地元出身の指揮者やオーケストラはどうですか」
「オッコ・カム、ネーメ・ヤルヴィ、パーヴォ・ベルグルンドが指揮するレコードとか、BISレーベルなんかも聴いてみたけど、指揮の華やかさでは、アンソニー・コリンズ、ジョン・バルビローリの方が上みたいや。そうそうカラヤンが華やかさでは一番やな。全集を録音してるけど、第1番と第5番なんかええんとちゃう」
「その第5番はどうですか」
「わしはシベリウスの交響曲第1番、第2番が大好きやから、3,4,5,6、7のええのんがあったらと思うて、いろいろ聴いてきたんや。ほやけどはっきり言うて、3、4、6はいろんな演奏で聴いてみたけどわからんかった。特に第4番は、みんなが名曲っちゅーから、頑張って聴いたけど、どこがええのかわからん。「ちょっとだけええところがあって、えーっ、これで終わりなの」とか「メロディがないやん」とかそんな感じやから、今では聴く気もなくなってしもうた」
「それでは、第5番と第7番のええやつを教えてください」
「わしは、第1番、第2番に比べて演奏時間が短くて、3つの楽章しかないけど、第5番もシベリウスの名曲やと思う。コリンズ、バルビローリ、カラヤンのいずれも名演や。第7番は、当時1才くらいの親戚の女の子が気持ちよう眠りながらそのレコードを聴いていたというのがあって、そのレコードがええのかなと思う」
「誰の演奏ですか」
「コリン・デイヴィス指揮ボストン交響楽団のフィリップス盤やな。この曲は1つの楽章の20分くらいの曲やから、ずっと目を閉じて耳を澄まして聴くのがええみたいやわ」